コロナ禍で動物たちの“出番”だ!

クリスマスになると親は子供へのプレゼントに悩むが、子供たちは犬や猫などペットを欲しがることがある。子供の強い願いに負けて、犬や猫、ウサギやモルモットを贈物にする。親は子供をビックリプレゼントで喜ばせたい気持ちで動物たちを贈るが、動物愛護協会は、「動物たちは生き物だ。飼う以上、責任をもって育てなければならない。子供たちが自分で動物たちの世話ができないのなら、動物のプレゼントは控えるべきだ」とアピールする。当然だろう。クリスマス・シーズンが過ぎれば、飼い主から捨てられた動物たちが路頭に迷い、動物ハウスは捨てられた動物を引き取るため、一杯となる。

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ところで、新型コロナウイルスが欧州を席巻し、多くの感染者、死者が出ているが、ここにきて動物を飼う人が増えてきた。独週刊誌シュピーゲル(1月30日号)は「動物たちのパワー」(Die Macht der Tiere)というタイトルで特集記事を掲載している。動物に囲まれた家族風景を描いたイラストがその表紙を飾っている。心理学者の「動物たちは人間の魂を癒し、病気を予防する。多くの人間に力と生きる喜びを与える」というメッセージを記述している。また、「昨年、前年度比で20%売り上げが増えた」という動物業者のコメントを載せている。

▲独週刊誌シュピーゲル1月30日号の表紙、動物たちに囲まれた家族風景

同誌によると、ドイツでは約3400万匹の動物が家で飼われている。その数字は10年前に比べると約1100万匹多い。その内訳は猫が1470万匹、犬は1000万頭だ。ウサギ、モルモット、ハムスターなど小動物は500万匹以上だ。そして400万羽の観賞用の鳥だ。ドイツでは2軒に1軒が何らかの動物(鳥類)を飼っているという。

テーマは「なぜコロナ禍の時、犬、猫など動物を飼う人が増えてきたか」だ。シュピーゲル誌は「コロナ禍でソーシャル・ディスタンスが叫ばれ、人と人の直接接触が難しくなったこともあって、寂しさを感じる人間が増えてきた。そこで犬や猫を飼って、動物たちを世話することで慰めを感じることができるからではないか」と受け取っている。心理学的にいえば、一種の代償行為だ。

欧州連合(EU)のジャン=クロード・ユンケル前委員長(任期2014~19年)は現職時代、ゲストを迎えれば、必ず相手を抱擁し頬にキスをすることで有名だった。ブリュッセルのEU本部に行けば、ユンケル委員長が出てきて抱擁されるというので、政府首脳の中にはそれを嫌う政治家もいた。オーストリアのイケメン首相、クルツ首相もその1人だった。

ユンケル氏は人懐こい政治家で知られる。退任後、ルクセンブルクの自宅で愛犬(Caruso)を抱擁しながら生活している。ちなみに、ユンケル氏が愛犬を抱える写真が独誌に掲載されていた。同氏をみていると、人は他の存在との接触、肌のぬくもりなくしては生きていけない存在だということが分かる。

コロナ対策で奔走するオーストリアのアンショーバー保健相は犬を事務所に連れてくる。同保健相は昔、バーンアウト(燃え尽き症候群)になったことがあるから、犬は同相のストレス対策に一役買っているわけだ。ドイツのテュ―リンゲン州のラメロフ首相も同じように自分の執務室に犬を連れくる。ルクセンブルクのアセルボ―ン外相は自宅で猫(ミニ)を飼っている、といった具合だ。政治家で動物を飼う者が多いのは、動物愛護をアピールするためだけではなく、自身の精神的安定の上で、犬や猫の助けが必要だからだ。

動物たちは本能的に人間が寂しいのだと直感すると、傍にきて慰めようとする。犬が重病患者のセラピー犬として活躍しているというニュースを聞く。医師が言わなくれも、誰が重体で誰が自分を必要としているかが分かるから、病院に行くと直ぐにその患者のベットに行き、慰めるというのだ。動物介在療法だ。シュピーゲル誌は「犬を飼っている男性の心臓発作の危険率はそうではない人より低い」といったデータを紹介していた。

犬と猫を比較し、どちらがいいか、といった比較論は絶対にタブーだ。飼い主から反発を食らうからではない。犬にマッチする人と、猫の世界を理解できる人がいる。犬と猫は人間の最大の友である点は変わらない。欧州ではモルモットが愛されている。特に老人たちや狭い家の中では飼いやすいからだ。当方宅にも2匹のモルモットがいる。彼らの食欲旺盛さには驚くが、家の中に動物がいて、話しかければ反応が返ってくるというのは人間にとって大きな喜びだ。

メディアの世界でも動物たちのニュースが今、読者から喜ばれている。最近、オーストラリアに棲む「世界一幸せな動物」と言われるクオッカ(クアッカワラビー)が紹介されていた。クオッカの写真をみれば読者は思わず笑みをこぼすだろう。クオッカの表情はいつも笑っているように見えるのだ。

最後、動物の世界でも「猫がコロナに感染した」というニュースが報じられていた。動物園ではトラやライオンの感染の事例が報告されている(モルモットには感染しないという)。動物によっては人間と同様にコロナに感染する危険性があるわけだ。動物たちはFFP2マスクを着用できないし、感染防止は難しい。飼い主は飼っている動物の感染防止にも気を遣わなければならない。

一つ心配がある。クリスマス・シーズンが過ぎ去るように、コロナ禍もいつかは過ぎていく。その時だ。主人の精神的ケアを担当してきた犬や猫が「お役目御免」といって捨てられるのではないか、という心配だ。犬はお世話になった飼い主を絶対に忘れない。コロナ禍の時、慰め、勇気を与えてくれた動物たちを捨てるようなことがあれば、それこそ「畜生にも劣る」と批判されても仕方がないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年2月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。