電波改革のポイントは著作権にある

池田 信夫

先日の電波シンポジウムのまとめがYouTubeで公開されたので、私の話した第3部と討論の部分を紹介しておく。これは規制改革推進会議でも提案したホワイトスペースの区画整理案で、技術的にできることはNHKも民放連も認めた。

この問題では電波オークションに話題が集中するが、それは大した話ではない。テレビ局のいま使っている帯域を取り上げてオークションにかけることはありえないし、その必要もないからだ。大事なのは470~710MHzを通信にも使えるようにするホワイトスペースの開放である。

これは総務省も周波数逼迫対策事業として検討しているが、このように今のテレビのチャンネルを再配分しても、地域ごとにバラバラなので「エリア放送」のような中途半端な用途しかない。チャンネルを区画整理して、通信(インターネット)に開放することがベストである。

この問題は技術的には自明だが、ポイントは民放連が乗ってくれるかどうかである。いまテレビ局の占有している40チャンネルを整理すれば、33チャンネル(198MHz)あけることができ、携帯電話の帯域が倍増する。これはオークションで配分してもいいし、Wi-Fiで共有してもいい。基地局や端末は、今の4Gの半導体がそのまま使えるだろう。T-Mobileのように5Gにしてもいい。

通信と放送の障壁は著作権

問題はそこではない。業界以外の人には知られていないが、通信と放送の最大の障壁は、日本では著作権なのだ。技術的にはインターネットでテレビ番組を流すことは容易だが、今は法的に許されていない。この原因は、IP放送は放送ではないという世界にも類をみない著作権法にある。

通信業者がコンテンツを再送信するときは著作権者の許諾が必要なので、たとえばテレビドラマを配信する場合は、そのすべての権利者(脚本家や出演者やBGMの作曲家など)の許諾が必要で、事実上不可能である。

それに対して放送局は、たとえばJASRACとは年に1回、包括許諾で契約するだけで、個別の番組ごとの許諾は必要ない。海外ではケーブルテレビもIPマルチキャストも放送と認めているが、日本では2006年の著作権法改正で、IPマルチキャストを「自動公衆送信」という通信の一種と規定したため、今まで放送のIP再送信ができなかった。

これは民放の政治的圧力による改正だった。キー局は電波料を払わないで全国に(あるいは世界に)番組を配信するため、本当はIP再送信したいのだが、民放連の地上波193社のうち180社以上を占める地方民放が、県域免許を守るためにIP再送信を拒んだのだ。

しかし昨年、河野太郎規制改革担当相が著作権法改正を決め、今度の通常国会に改正案が出る予定だ。この改正で携帯電話業者も、テレビ番組を同時配信できるようになる。これはテレビ局にとっても朗報である。

今まで地方民放は県域免許でローカル放送しかできなかったので番組制作能力がなく、キー局から番組を供給してもらって電波料をもらってきた。この世界に類をみないビジネスモデルが、インターネット時代に成り立たないことは明らかだ。

それを脱却するには、ホワイトスペースをインターネットに開放する代わりに、テレビ局に県域外へのネット配信を認めればいい。これでキー局は、地方局に電波料を払わないで全国に(あるいは世界に)番組をスマホやPCに配信でき、NetFlixのようなオンデマンド配信もできる。

しかし地方民放は「中抜き」され、経営は行き詰まる。これがこの問題のボトルネックである。逆にいうと地方民放が生き残れるビジネスモデルを提案すれば、ホワイトスペースの開放は一挙に進む可能性もある。議論はアゴラサロンでどうぞ(初月無料)。