アフターコロナの鉄道イノベーション② 具体的な鉄道イノベーション策 --- 阿部 等 ---

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アフターコロナの鉄道イノベーション① 鉄道が持つ高い能力」では、コロナで鉄道全社が経営悪化する中、自動車より高い能力を持つ鉄道は、イノベーションによりアフターコロナに求められることの実現に貢献できるとし、有人自動運転による全ての鉄道の高頻度化を提案した。

鉄道はイノベーションによりアフターコロナの未来を開ける(metamorworks/iStock)

今回は、既存インフラを活用する具体的な鉄道イノベーション策を提案する。

1.既存の在来線を活用する中速新幹線

新幹線が営業及び建設中以外の在来線の特急は平均速度が60~90km/hと低く、ここ50年間、利用者はマイカー・高速バス・航空機にシフトし続けた。そんな低速なのは、踏切のある区間は最高130km/hに抑えられ、曲線はさらに低い速度となっているためだ。

フル規格新幹線を建設する5分の1くらいのコストを目標に、在来線の線路と車両を高機能化して最高・曲線速度を引上げたものを「中速新幹線」と称しよう。フル規格新幹線よりは遅いものの、所要時間を現行の特急の半分から60%程度とできる。

踏切事故の原因は、警報前から進入の「トリコ」と遮断後の「無謀侵入」の2類型しかない。そして、「トリコ」は障害物検知装置と列車信号の連動により、「無謀侵入」は踏切遮断強度の強化により、究極的には事故を撲滅できる。それらにより、在来線の安全を向上しつつ最高速度を例えば200km/hに引上げられる

旅客機は機体を最大25度傾け、遠心力を打消して180度旋回する。線路のカント(曲線外側の線路を内側より高く)と車体の傾斜を併せて25度とすることで、曲線の速度を現行の1.5倍以上とできる。曲線半径は今のまま緩和曲線(直線と曲線の間のカーブが段々ときつくなる区間)を延伸することで車体傾斜の変化率を小さくでき、乗り心地の問題もなく、低コストに高速化できる。

コロナによりリモートワークやワーケーションが広がり、地方に住み、時々大都市に出る生活への注目が高まった。新幹線のない在来線の高速化は、地方への移住を後押しする。

2.既存の新幹線を活用する貨物新幹線

新幹線に貨物電車を運行することで、鉄道貨物の所要時間を大幅に短縮できる。同時に、強風や障害で大幅遅延や運転中止となることや、大雨や地震で長期間不通となることを大幅に少なくできる。

東京-新大阪と東京-大宮のみは線路容量に余力がないとして、それ以外の全区間に運行する。函館・大宮・新大阪付近等に、新幹線貨物電車と在来線貨物列車を並べて止め、コンテナを積替える門型クレーンを設備した基地を設ける。

一次・二次産業の収穫地・生産地と大消費地の物流を半日単位で短縮できる。アフターコロナに求められる国内回帰の原動力となり、地方創生に大きく貢献する。

3.既存の新幹線を活用する寝台新幹線

新幹線は0時~6時の間、保守間合確保と沿線騒音防止のために列車を運行できない。その間は途中駅で停車することで、東京22時発で博多9時着といった寝台新幹線を運行できる。

快適に眠りながら効率的に移動でき、時間を有効活用できる。東京23時発、新大阪8時着といった寝台新幹線もおおいに利用価値がある。

大都市と地方の間の足の充実は、ビフォーコロナはストロー効果で大都市集中を進める面があったが、アフターコロナは大都市集中を緩和する効果を期待できる。

4.大都市鉄道の輸送力を向上して満員電車解消

前回、信濃町付近で比較したように、同じ用地幅で鉄道が自動車の20倍以上の輸送力なのは、1列車当りの乗車人数が極めて多いからだ。しかし、コロナにより3密回避が絶対命題となり、コロナ前のような満員電車は許されない。

感染症リスク低減のためにも満員電車は許されない(aluxum/iStock)

現行の自動車が1車線当り1時間2,000台も走行できるのは、非常ブレーキが鉄道よりはるかに利き、かつ先行車が減速度無限大で止まった場合は追突する短い車間距離で走行しているからだ。冷静に見て、一定の事故を許容して効率を稼いでいる。

鉄道は、非常減速度が低く、かつ信号システムの機能が低いために長い車間距離となっている。事故を許容しないのは良いことだが、安全に車間距離を詰められる余地が大きい。

車両と地上設備の機能を向上させることで輸送力を向上できる。先行列車が減速度無限大で止まっても追突しない車間距離という自動車とは異なる安全ルールは変えず、5方策の工夫により1線当りの運行本数を大幅に増やせる

5方策とは、(都心終端駅での)進路開通と同時の出発、(途中駅での)ドア閉めと同時の出発、千鳥停車ダイヤ、車両の加減速度向上、信号の機能向上の5つである。全ての実行により、安全を維持しつつ20m長×10両編成の列車を1時間に、都心折返しのある路線で60本、都心貫通型の路線で72本まで運行できる。

現行の東京圏の各路線は1時間に20~30本なので、輸送力は2~4倍近くとなり、満員電車を解消でき、3密をなくせ、快適通勤を実現できる。アフターコロナに求められる郊外への分散の原動力にもなる。

5.地方鉄道の高頻度化・多駅化

全国の大都市圏以外の鉄道沿線のほとんどにおいて、地域の全移動中の鉄道のシェアは4%以下で、鉄道利用とその他利用が1:29といった比率である。

有人自動運転と短編成化により、現行と同じコストで数倍の運行頻度とできる。1時間に1本では使えないが10分に1本なら、駅チカから駅チカの移動であれば充分に使える。

同時に多駅化することも重要だ。国鉄系の路線はSLの加減速度に合せて駅間距離4kmを標準とした。線路が目前にある場所では鉄道を使えるよう、市街地部は1kmおきくらいにしたい。

高頻度化かつ多駅化により、鉄道利用とその他利用が5:25になっても何の不思議もない。全体の10%強がシフトするだけで鉄道利用が5倍となる。

新駅周辺は当然ながら地価は安く、住居・事務所・工場いずれも格安に立地でき、駐車場も最小限でよい。居住と従業の人口が増えれば商店も成立つようになる。既存の鉄道の有効活用が地方創生の好循環を生み出し、アフターコロナに求められる大都市集中緩和の原動力となる。

さて、以上5つとも実現できたら素晴らしいが、何しろ多額の費用を要する。次回は、実現の条件を考察しよう。

阿部 等 東京大学 工学部 都市工学科卒。JR東日本に17年間勤務して鉄道事業の実務と研究開発に従事した後、交通問題の解決をミッションに(株)ライトレールを創業して16年。交通や鉄道に関わるコンサルティングに従事し、近年は鉄道の様々な解説にてメディアにしばしば登場。