アフターコロナの鉄道イノベーション①鉄道が持つ高い能力 --- 阿部 等 ---

一般投稿

経営悪化の鉄道全社は経費節減しかない?

不要不急の外出自粛、Stay Home、新たな生活様式と、コロナにより人の移動需要が蒸発した。鉄道・航空・バス・タクシー・船、全ての旅客運送事業の売上げが激減し各社の経営は大変な状況だ。

こんなにガラガラでは毎日赤字が積み上がるばかり(Fiers/iStock)

鉄道各社は軒並み赤字決算となる見通しだが、国も自治体も財源は限られ潤沢な財政支援は期待できない。ホテル・デパート・レジャー施設等の非鉄事業の売上げも激減し、八方ふさがり状態だ。

鉄道は、ひたすら経費節減し、また投資を先送りするしかないのだろうか。答えはノーと言いたい。鉄道は、国内回帰と大都市集中緩和が求められるアフターコロナに向け、新しい時代を開く能力を持っている。

今回、3日間の連載において、アフターコロナに新しい時代を開く上で、①鉄道は高い能力を持っていること、②具体的な鉄道イノベーション策、③その実現の条件について、論をまとめよう。

アフターコロナに求められること

世界中をコロナが襲い、日本はマスクすら自国生産できないことや、有事には各国とも自国第一主義となることがあらわとなった。感染症のパンデミックが起きると国家間の行き来ができなくなり、海外進出した工場も商店も立ち行かなくなることも明白化した。

また、都市が過密化するほど感染症リスクが大きくなることも皆の知るところなった。さらに、世界的に異常気象による飢饉や家畜感染症による大量殺処分が起きた場合、食料自給率が低い日本は国民の食料を確保できなくなりかねない。

以上を踏まえ、アフターコロナの日本は、国民の最低限の生活や有事対応に必要な食料や物品を、平時には輸入よりコストが張っても自国生産すべきだろう。また、国内回帰と大都市集中緩和が求められ、工場立地・商業展開・農林水産業とも国外から地方への大転換が求められよう。

それらの実現のためには、人の移動も物の運搬も交通システムのイノベーションにより高機能化・効率化することが不可欠だ。

古今東西全ての文明社会において地域発展と交通充実は密接不可分であり、時代の最先端の交通を導入できた地域・国家・民族は必ず繁栄した。アフターコロナにおける時代の最先端の交通の具体的な姿を考察しよう。

鉄道は自動車より高い能力を持つ

10両×7編成で運べる人数をマイカーで運ぶには、15,000台を要する(TokioMarineLife/iStock)

鉄道は1964年から日本において210km/hの営業運転を始め、近年の世界の高速新線は最高300km/h以上が標準である。自動車は、近年に国内の高速道路の最高120km/h化が広がり始めたところだ。

JR中央快速・緩行線と首都高速新宿線が併走する信濃町付近にて、用地幅がおおむね同じ両者のピーク1時間の都心向き輸送力を比較してみよう。鉄道の中央快速線と緩行線を併せて約11万人に対し、自動車の首都高は約4,000台が通過し全車が平均1.3人乗車のマイカーとすると約5,000人に過ぎない。

最近30年間の国内における(踏切・人身事故は除き災害原因は含む)鉄道事故の死者と負傷者は200人弱と2,000人強に対し、自動車事故のそれらは20万人強と2,000万人強で、1,000倍以上と約1万倍だ。自動車の輸送人キロは鉄道の約2.5倍なので、1人キロ当りでは400倍以上と約4,000倍である。

エネルギー消費とCO2排出等の環境負荷は、鉄道に対し、自動車は1人キロ当り10倍近くである。

鉄道は車輪で線路上の雪をはねのけられ、雪中で運行不能となることはほとんどない。対して自動車はタイヤで道路上の雪をはねのけられず、国内外で頻繁に雪中での走行不能のため数百台以上が立ち往生、数日間缶詰めとなり、死者も発生する。また、人の目視により安全を維持している自動車は、ホワイトアウトによる多重事故も頻繁に起きる。

雪の中を走るJR播但線(2021年1月)MASAHIKO NARAGAKI/iStock

鉄道の能力を社会で活かすには?

以上のように、鉄道は自動車と比べ、速度・輸送力・安全・省エネと低環境負荷・雪への強さいずれの点でも圧倒的に勝る。なのに、自動車と比べ社会からの評価や期待が低い。

その原因は、運行費が高額で低頻度でしか運行できず、待ち時間が長いことと、建設費が高額なことだろう。

ならば、運行費を引下げて高頻度に運行できる仕組みとし、また新規に建設せず先人達が遺してくれたインフラを活用すべきだ。

有人自動運転による全ての鉄道の高頻度化

多々ある鉄道を不便と感じる点の中、待ち時間の長さは最たるものだろう。時刻表を事前に調べず駅で待ち時間に苛々することも、事前に調べて不便さに嘆息することもしばしばだ。そもそも地方では、それを理由に移動の選択肢に入らない。

鉄道会社も高頻度に運行するほど利用が増えると分かっていても、それに要する運転士人件費を中心とした経費増が、利用増に伴う売上げ増に見合わず、現行の運行頻度としている。

ならば、“無人”自動運転とすれば運転士人件費をゼロとできるが、そのために既存の路線を東京臨海部のゆりかもめのように線路内に侵入できない構造にするには多額を要する。

そこで、“有人”自動運転を提案する。

鉄道が速度制限内で走行して定位置に停止し扉を開閉する自動システムは、昭和50年代に実用化済みだ。近年はAIが進化し、画像解析により精度高く障害物を検知して停止させるシステムを、低コストに開発できるようになった。

難しいのは西日や古新聞といった障害物でないものを選り分けて列車を停止させないことだ。それは人間が得意なので、人件費が現行運転士の数分の一となるシニア監視員が乗務し、障害物検知時は画像伝送される指令室と二重系で安全確認する仕組みとする。それにより、安全・安定輸送・低コストを同時に実現できる。

そして、有人自動運転によりコストを節減するのでなく、同じコストを掛けて高頻度に運行することにより、全ての鉄道を待たずに乗れるようにできる。

イントロはここまで。「アフターコロナの鉄道イノベーション②では、既存インフラを活用する具体的な鉄道イノベーション策を提案しよう。

阿部 等 東京大学 工学部 都市工学科卒。JR東日本に17年間勤務して鉄道事業の実務と研究開発に従事した後、交通問題の解決をミッションに(株)ライトレールを創業して16年。交通や鉄道に関わるコンサルティングに従事し、近年は鉄道の様々な解説にてメディアにしばしば登場。