シャトレーゼが「お菓子のホームラン王」を買ったわけ

2021年02月08日 06:00

あの「お菓子のホームラン王」が?

シャトレーゼの亀屋万年堂買収。驚いた方も多かったのではないでしょうか。「ナボナ」で有名な亀屋万年堂。安価で豊富な商品群のシャトレーゼ。どちらも、売り物はお菓子ですが、用途は大きく異なります。

「人」を喜ばせるためのお菓子を売る、亀屋万年堂。

「自分」で楽しむためのお菓子を売る、シャトレーゼ。

全く逆なのです。

それに伴い、価格設定・ブランド戦略も異なってきます。

今回は、亀屋万年堂の「ナボナ」と、シャトレーゼの「豊酪(ほうらく)」を軸に、両社の買収について考察したいと思います。

左から、豊酪、ナボナ(パイン)、ナボナ(チーズ) (筆者撮影)

シャトレーゼのブッセ「豊酪」とは

シャトレーゼにも、亀屋万年堂の「ナボナ」とよく似た、ブッセ菓子「豊酪」があります。

安くて美味しい。筆者も常に買い置きしています。

美味しさの秘密はクリームにあります。

ゴルゴンゾーラやチェダーなどのチーズに、角切りチーズ・くるみ・はちみつなどを混ぜ込んだクリームは絶品。クリームの味だけに限定すれば、「ナボナ」以上ではないでしょうか。クリームをはさむ生地は、しっとり、しっかりしたもの。パサつかず、チーズクリームとの相性が抜群です。

素材は、地元である山梨近隣のものを用いています。

水は、日本名水百選にも選ばれた「白州名水」。卵は、契約農家の鶏がその日に生んだもの。牛乳は、八ヶ岳の契約農家の搾りたてを低温殺菌したもの(※1)。

これら、厳選された素材を使う一方、コストは、仕入・製造・販売の一貫体制により徹底的に低減。結果、「豊酪」の価格は「100円」と安価に抑えられています。

美味しくて安い。まさに「自分が楽しむ」ためのスイーツです。販売時期を、秋から春先までに限定するのは、チーズの風味が薄れるから。品質へのこだわりが感じられます。

亀屋万年堂の「ナボナ」とは

対して、「ナボナ」とはどのような商品なのでしょうか。

ナボナを食べるのは子供の頃以来。しばらくぶりの感想は

「ナボナってこんなに美味しかったっけ?」

でした。

きめ細かく丁寧に作られた生地。かすかに記憶に残る、パサついたものとは雲泥の差です。

左:豊酪、右:ナボナ(筆者撮影)

以下の記事によると

「スポンジ(ナボナの皮)や製法などを、時代の好みに応じて少しずつ改良しているのです」
亀屋万年堂の横浜工場に潜入! 銘菓「ナボナ」の隠れた秘話とは?(はまれぽ.com)

とのこと。クリームの味はやや「豊酪」が上回るものの、生地は「ナボナ」のきめ細かな舌触りが勝る。美味しさ・品質は、同等と言って良いでしょう。大きさもほぼ同じ。にもかかわらず、ナボナの価格は「180円」と、豊酪の100円より大幅に高く設定されています。この価格差80円の要因は何か?

ブランド力です。

シャトレーゼが欲しかったもの

筆者は、これまでナボナを自分で買ったことはありませんでした。ナボナは人からもらうもの。そんなイメージが強かったのです。

「自分」で食べるために買う「豊酪」に対し、「人」を喜ばせるために買う「ナボナ」。ナボナは、贈答品としての地位を確立しています。贈答品たらしめているのが「ブランド力」です。

「ナボナはお菓子のホームラン王です」

昭和世代なら誰でも知っている、このキャッチコピー。亀屋万年堂の知名度は全国レベルです。そして、非常に強いブランド力があります。

このブランド力こそ、シャトレーゼが欲していたものです。

ブランド力・全国的知名度を活用し、新たなフランチャイズチェーンを展開すること。これが、シャトレーゼが、亀屋万年堂を買収した目的です。

シャトレーゼのビジネスモデル

シャトレーゼの成長要因の1つは、フランチャイズの活用です。

1986年にオープンした、工場直売のフランチャイズ1号店が、爆発的に成功(※)。ロイヤリティを取らない独自の制度も後押しし、全国各地から出店申込みが相次ぐことに。その結果、現在は国内556店舗を展開するまでに拡大しています。

まず、高収益の「手本」となる店舗を作る。その店舗をきっかけに、フランチャイズ加盟店を増やす。

これが、シャトレーゼの成功体験です。ビジネスモデルと言っても良いでしょう。

亀屋万年堂においても、同様のビジネスモデルを適用しようとしています。

2021年度、山梨でまず新たな亀屋万年堂の店舗を一から作り上げる。売り上げ1億円以上の売れる店舗を示し、フランチャイズチェーン(FC)での出店を募集して全国展開する
シャトレーゼ会長「和菓子店を全国に」 亀屋万年堂買収: 日本経済新聞

「フランチャイズに不安はあるけど、亀屋万年堂だったら、やってみようか」

そう思わせる亀屋万年堂の高い知名度。そして、シャトレーゼのフランチャイズチェーンノウハウ。買収される側とする側、双方の強みの相乗効果によって、加盟店増が期待できる。

この買収は、シャトレーゼの全国展開の手段として、大いに有効と思われます。

全国展開の課題

では、シャトレーゼの狙い通り、フランチャイズチェーンは順調に拡大するのでしょうか?

供給面、需要面とも課題があります。

シャトレーゼは、原材料の多くを自社地元の山梨近隣から調達しています。遠隔地での現地生産が難しい。このことは、全国展開への足枷となる可能性があります。海外向けの生菓子輸出で行っている「冷凍」技術を、国内でも採用する必要があるかもしれません。

また、少子化や都心への人口流出などによって、シャトレーゼの郊外ロードサイト店の出店ペースは鈍りつつあります。今後の、和菓子需要の動向を見極める必要がありそうです。

企業文化の維持を

戦後の砂糖不足の時代でも、「サッカリンだけは使わない」というポリシーを守った亀屋万年堂。国が定める基準細菌数の「200分の1」を社内基準とするシャトレーゼ。

両社とも、安心・安全を重視する企業文化を持っています。この企業文化を維持し、今後も安価で美味しいお菓子を提供いただきたい。一ファンとして、そう願っています。

[ 参考 ]
※1 原材料
死角はあるか?コスパ最強の洋菓子店シャトレーゼ快進撃の秘密(まぐまぐニュース!)
株式会社シャトレーゼのウェブサイト。フランチャイズオーナー募集
シャトレーゼ、亀屋万年堂を買収 和菓子FC展開へ(日本経済新聞)
「コンビニは敵ではない」急成長シャトレーゼの60円アイスがやけに美味いワケ 不二家は大量閉店しているのに…(プレジデントオンライン)
シャトレーゼ、郊外で鍛えた力を海外で生かす(日経ビジネス電子版)

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