韓国のデタラメ司法と口だけ三権分立を満天下に晒す判事弾劾事件

高橋 克己

米国では退任して民間人となったトランプ前大統領を弾劾する裁判が上院で始まった。他方、韓国では今月末が任期の判事が弾劾を避けようと出した辞職届を、大法院長が「国会で弾劾しようとしているのに、辞表を受理したら私が国会で何と言われることか」と受理しない事件が起きている。

文在寅氏 Twitterより

米国の弾劾は、トランプという水に落ちた犬を叩いて再起不能にしようという、バイデン演説のunityどころかむしろ溝を深めかねない、民主党の下心が透けて嫌らしい。韓国のそれも、弾劾を避けるために辞職願を出す判事も、国会で非難されるからとそれを受理しない院長も、共に保身しか頭にないようで嫌らしい。

民間人の弾劾が憲法に適うか否かが焦点であるらしいトランプの弾劾裁判は、日本のメディアも詳しく報じているので、ここでは韓国の判事弾劾事件の経緯を追って見たい。

事の始まり朴槿恵政権当時の15年のセウォル号事件に遡る。この事件では産経の加藤支局長(当時)が、記事に引用した現地紙の「秘線」(男女の不倫の意)の語が「虚偽事実を摘示し、大統領の名誉を毀損した」との理由で起訴され、結果は無罪となったものの長期間帰国を許されない出来事があった。

弾劾裁判の対象になったのは、加藤支局長の裁判に関係した二人の判事。一人は釜山高裁の林成根(イム・ソングン)部長判事、他は加藤裁判の裁判長だった李東根(イ・ドングン)部長判事だ。が、李判事は1月28日に辞職届を出して既に退職、林判事も2月末に任期満了で退職予定だった。

辞め損なった方の林判事を、与党「共に民主党」の議員百数十名が弾劾訴追しようという訳だが、そのいくつかある理由はこうだ。

先ずは林判事が、上司の裁判所行政処次長からの示唆で李東根裁判長に、「大統領が某所で男性に会ったという部分は致命的で国民の関心も高いから、裁判過程でその部分を明確に整理して進めた方が良い」という趣旨を伝えたこと。

次は、再び上司の意を受けた林判事が李裁判長に、「加藤支局長に無罪判決を出しても、単純に終わらせてはならない。無罪ではあるものの、彼の取った行動が望ましくない行動だという点を明確にする方が良い」と話したこと。

そして、上司の上司(民政首席)の「韓日外交関係のために外交部が最大限努力したことを示す必要があるため、外交部長官の嘆願書提出の事実が法廷で周知されるように話してほしい」との上司への指示を、林判事がまた李裁判長に伝え、李裁判長がその通りに無罪判決に付言したことだ。

林判事は「事実と一致しない一方的な主張に過ぎない」とし「裁判官弾劾は司法府に対する立法府の牽制力が発動されるという点から、その重さに見合った慎重な審議が必要」と反論した。が、上司である民政主席や裁判所行政処次長への咎めがどうなのかは、ここ1カ月の韓国紙に見当たらない。

何れにせよここまでのところでも、韓国の司法も三権分立もまるでデタラメと知れる。そしてトドメは大法院長金命洙(キム・ミョンス)の保身丸出しの振舞いだ。冒頭に記した発言は、林判事が録音して公開したものだが、金院長が発言してから録音の公開までには以下の経過がある。

金院長は初めのうち、「弾劾問題で辞表を受理できないという趣旨のことは言った事実はない」としらを切った。が、録音が公開されるや、「9カ月前のあいまいな記憶に依存して違う答弁をしたことを申し訳なく思う」と前言を翻し、謝罪した。

が、5日の中央日報は、公開された録音によれば金院長は「弾劾」と6回も言い、「政治」と「国会」まで合わせると10回を超えると飽くまで粘着質で、偶々でなく体系的に林判事の辞表を受理しない理由を説明したとし、思い出せなかったという釈明には説得力がないと報じている。

与党「共に民主党」は、「大法院長は三権分立を尊重して辞表を受理できないとしたものだ」とか「大法院長との面談内容を録音・公開した行為は異常」とか「懲戒する前に辞表を出し、自分の責任を回避する公職社会の慣行を大法院長が阻んだ」とか、文の子分を庇うのに血道を上げる

無論、黙っているはずのない野党「国民の力」も、「弾劾取引真相調査団」が金院長と会い「ウソつき大法院長は司法府のトップとしての権威と資格を完全に喪失した」と辞任を要求した。が、金院長は「より良い裁判所のため、一度頑張ってみる」と拒否した。

この金命洙に関連し筆者は19年5月の投稿で、弁護士時代の文在寅がいわゆる徴用工の三菱訴訟を始めたことや、高等法院経験すらない地方裁判所長の子飼いを大法院長に抜擢したことから、この裁判を思惑通り進めるために文が地位を利用した、司法への政治の介入の疑いが極めて濃い、と書いた。

この就任の経緯を思えば、自分の意向だけで辞められないということか。が、長年便利使いした言いなり外交部長が金与正に罵倒されるや、あっさり切り捨てる文在寅のこと、金院長に因果を含めて引かせることなど朝飯前だろう。

パンドラの箱を開けたのに、司法尊重だ、三権分立だと嘯き続けた文在寅は、再び国際法違反の慰安婦判決を生じさせ、国際社会からさらに異端視される。韓国内でも「反日種族主義」執筆者らが声を上げ、ハーバード大教授も慰安婦公娼説の論文を発表するが、見ざる聞かざるの「二猿」国には無用か。