日本製鉄→東京製綱・敵対的TOBに関する素朴な疑問

2021年02月08日 17:00

日本製鉄がワイヤロープ国内最大手の東京製綱に対して行っている株式公開買い付け(TOB)について、東京製綱は2月4日に反対する考えを表明しました。コロナ禍において日本企業の事業再編の流れが速くなり、敵対的買収案件もこれから増えそうな気配です。

(日本製鉄HPから:編集部)

(日本製鉄HPから:編集部)

日本製鉄は東京製綱の筆頭株主で、これまで同社の業績改善や経営陣の刷新を求めてきましたが、対応が不十分との理由で、1月22日にTOBを開始しました。約24億円を投じて、持ち株比率を現在の9.91%から最大19.91%に引き上げることを目指すそうです(目標に到達しない場合には市場から買います、とのこと)。

先週金曜日(2月5日)、EDINETで日本製鉄が公表した東京製綱からの質問に対する回答内容からの抜粋ですが、私は以下の両社のやりとりから素朴な疑問を抱きました。ちなみに、私は本事案については全く利害関係がなく、場外の野次馬にすぎません。

<対象者からの質問>
(6)実際に、本公開買付けの公表後、当社の顧客等から懸念の問合わせが来ております。具体的には、本件に対する当社の意見表明の内容によっては、貴社が当社への材料供給等に関して何かしら不利益を課すことを考えておられるのではないかとの懸念であります。このような懸念に対し、当社の主要サプライヤーである貴社は、どの様なご見解をお持ちか具体的にご教示ください。

<公開買付者の回答>
本公開買付届出書に記載のとおり、本公開買付けの目的は、対象者がガバナンス体制の機能不全等の経営上の問題を抱えているにもかかわらず、それらの問題に対する有効な対応策を講じず、継続して業績が悪化している状況を踏まえ、対象者株式の追加取得を通じて対象者の企業価値向上へのコミットメントを高めつつ、対象者の企業価値を回復・向上させるために必要な対象者の経営体制及びガバナンス体制の再構築を促すことで、対象者の企業価値の回復・向上に寄与することにあります。公開買付者としては、対象者による意見表明の内容にかかわらず、対象者以外の特殊線材の顧客との関係と同じく、今後もこれまでと同様に対象者との間で公正な取引関係を継続してまいりたいと考えております。なお、本公開買付けの終了後においても、互いに独立した上場企業として、これまでと同様の公正な取引関係を継続していくことが、対象者の顧客の皆様の利益にも適うものと考えております。

まず、日本製鉄のTOBの狙いは本当に東京製綱のガバナンス向上による企業価値向上にあるのでしょうか。もしそのような理由であれば過半数の株式保有を目指さねばガバナンスの向上を業績向上に結び付けることは難しいはずですが、なぜ20%未満の株式保有を目指すのでしょうか。私は日本製鉄による企業結合(垂直的統合)の事前審査には時間がかかるので、どうしてもこれを回避したい、という理由が日本製鉄側にあるからではないか、と推測いたします(企業結合ガイドラインを参考にした私の勝手な推測です。ただ、そのあたりの「さぐり」が東京製綱の上記質問には出ているのではないでしょうか)。

つぎに、仮に公正取引委員会による事前審査を回避する目的があるとすれば、日本製鉄はなぜ堂々と公正取引委員会からの「お墨付き」をもらおうとしないのでしょうか。日本製鉄と東京製綱の企業規模からすれば、株式取得に要する費用を日本製鉄側がケチる理由はないわけですから、垂直的統合が生じるものの、経済的な分析によれば「市場集中」のおそれは予測できないため「実質的な競争制限の状況」には至らない、との公取委の判断が下され、今後は事後規制である「優越的地位の濫用」といった独禁法リスクを低減できるメリットもあるように思えます。

ちなみに鋼材・線材の調達の世界では、国内におけるメインサプライヤーは、日本製鉄と神戸製鋼の2社しかないはずで、いわば、東京製綱は日本製鉄の意向を汲まざるを得ない立場です。しかし、鉄鋼業界全体が不況に見舞われている中、東京製綱は、日本製鉄以外からの調達を実現してコストダウンを図る必要もあります。そこで、「外国製の線材を」ということになり、そこに長年にわたり、外国企業とビジネス関係を築いてきたのが、日本製鉄出身の現会長のようです。日本製鉄側は、この会長が長年会長として君臨していること自体がガバナンス上の問題だと指摘していますが、本当にこれまでそのような問題は東京製綱側に明確に指摘されてこられたのでしょうか。

そして最後の疑問が、日本製鉄が東京製綱に対して持分法適用会社にせずに支配権を及ぼすのであれば、他の株主との協調的行動が必要になりますが、そのための理由としてガバナンスの問題点を指摘しているのではないか・・・という推測です。先日、村上ファンド関連の「レノ」が自動車部品大手のヨロズの敵対的買収防衛策の廃止を盛り込んだ定款変更議案を臨時株主総会に上程しましたが、特別多数の要件には満たないももの、なんと49%もの賛同票が得られました。ESG関連の理由によって役員選任議案で他の機関投資家の協力を要請する、ということはとてもハードルが低くなっています。つまり、TOB成立後の他の株主との協調的行動を見越した理由としてガバナンス上の問題を指摘しているように思えるのですが、いかがなものでしょうか。

株式取得による企業結合といえば、2年ほど前の東芝メディカルをめぐる富士フイルムとキヤノンとの買収合戦を思い起こします(もちろん事案の性質は異なりますが)。なんでもあり、のキヤノンの手法を公取委は厳しく指摘しましたが、日本を代表する企業であり、これまでも歴史的な企業結合事案を経験されてきた日本製鉄なので、今回は正々堂々と敵対的TOBに臨んでおられるものと思います。ただ、企業価値向上を目的としてガバナンスに関する問題点を指摘していた、いやそんな指摘は受けたことがない、といった基本的なところで事実関係に争いがあるものですから、どうしても上記のような素朴な疑問がぬぐい切れません。また、3月8日に向けた両社の動きを注視しておきたいと思います。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2021年2月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。

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