国際社会に何ひとつ良い影響など及ぼしていないはずの新型コロナパンデミックだが、一年を越えようかという長いコロナ禍の引き籠り生活が、かなりのリベラルだった筆者のある友人(仮にA氏とする)の考えを右に旋回させるという意外な効用があったと知ったのはつい先日だ。
上場企業の部長職だったA氏とは高校の同級だが、親しく世間話を交わすようになったのは、互いに現役を退いたここ数年。政局はまさにモリカケからサクラへと移ろっており、外で浅酌しながらの政治談議でも、またLINEチャットでも、A氏の安倍批判はおよそ激しいものだった。
新聞(勿論、朝日)にこう書いてあったとか、テレビ(無論、報ステ)で星浩がああいっていたとかの与太話(筆者にとって)をとうとうと聞かされる。当方も、国会議事録や書き換え前後の文書、国家戦略特区の議事録、検察人事の決定慣習やらを説明して聞かせるも、まるで甲斐なし。
挙句、去年の今頃は「安倍は自分が逮捕されないように検察人事に介入した」とまでいい出す始末。筆者は「じゃあ逮捕されるか否か、一杯賭けようか」と持ち掛けた。ところが直後にコロナ禍突入、以来永らくご無沙汰だったところへ、彼からLINEが到来した。
「元気か? 自粛生活で体力落としてないかい?先日、XXにゴルフ練習場で会ったよ。○○も今は閉まってるんだろうね。秋口に行った時に3月で閉店するかもと言ってたけど、取り敢えずそれまでは休業補償をもらっておいた方が良いね。飲み屋も閉まってて、心身共に欲求不満で気が狂いそうだ。」
因みに、XXはゴルフ好きの共通の友人。〇〇はA氏が贔屓の居酒屋で、筆者は学生時代にそこでアルバイトしていた。もともと籠りがちな上、アルコールも弱い筆者は欲求不満などと無縁だが、50年近い縁のある〇〇の窮状に資すればと、17時―20時で久闊を除すことを約した。
別の知人を交えた三人の話は、暮れに妹さんを亡くした一人の遺産に纏わるごたごたに、昨夏、身寄りのない従弟が孤独死した別の一人の話が加わり、続いて墓守に関わる兄弟のいざこざ、そう近くない子のいない親類の施設費用の負担など、どれも年齢に相応の話題で始まった。
配偶者に先立たれ子もない者の遺産は、配偶者の親兄弟には一銭もいかないとか、法定相続人は3親等までで従兄妹はダメとか、身寄りのない者の遺産は国庫入るが、内縁の妻などの特別縁故者には家裁の審判で分与があり得るとか、遺言は書いておけとか、それぞれ経験談や耳学問を披瀝し合う。
「時短見回り」が来るとかで20時までしか時間がないから、「お前の話は相変わらず長い!」と罵声が飛ぶやら、別席のカラオケは騒がしいやら、耳が遠くなった上にソーシャルディスタンスで何度も聞き返すやらで、話がなかなか先に進まない。
ようやくコロナに話題が移ったところで、ついにA氏の右旋回が発覚する。「それにしても最近のメディア、おかしくないか。特にテレビの偏向は酷い」というのだ。その心を聞けば、余りにコロナばかりなので最近はもっぱらYouTubeを見るが、テレビの話とまったく逆なので驚いたと。
実は筆者は昨年の「サクラ」の頃、A氏に「岩田温Ch」を紹介し、「吐き気がする」と腐された。朝日と報ステで生きて来たネット童貞のA氏に、右端の「岩田」は少々刺激が強過ぎた。今よく見るのは「松田学Ch」だそうだ。
聞き上手な松田の「松田学Ch」は、とりわけコロナ関係では、上久保・井上両教授の解説など極めて理に適うと思う。中身の話は紙幅が許さないので、ぜひ一度アクセス願いたい。テレビでこのサイトの内容を2時間ほどみっちり報じるなら、情弱も大いに解消されように。
A氏の話は続く。
「最近の報道は酷いね。僕もメディアの体制批判は必要なことだと思ってたけど、さすがに菅首相が可哀想だと思う。国家の元首をそこまで落としめるかと思うような報道ばかり。野党の追及も然り、政治家ではなくて単なるヒステリーだね。」
安倍批判なら良くて菅批判だと可哀想なのか、と突っこもうかとも思ったが、改心?しつつあるA氏の傷に塩を擦り込むようで気が引け、思い止まると話はこう続いた。
「テレビを観てるとがっかりすることばかりだ。GOTOトラベルの延期なんて、これが失敗だったとか何で直ぐに決断しないんだとか騒いでいたのが、延期を発表した翌日の朝から、どの局もやっぱり失敗だったとか決断が遅いとか、酷いのは首相としての意見の一貫性がないとか。さすがに呆れた。」
かなり矯正されたと思っていると、話題は米国に転じ、「お前が言ってたように、トランプは正しいんじゃないかと最近思うよ」と素直に白状するので、筆者も「日本もそうだが、米国のトランプ叩きはそれどころでない。GAFAの言論弾圧もね」とすかさず畳みかける。
「そう思う。ビル・ゲイツが菅首相と電話会談したとのニュースを観て、背筋がゾッとしたね。財団の代表として会談したことになってるらしいけど、単に一民間企業の元社長が一国の元首と簡単に会談できるのか?」
制限時間が迫るのに、正体定かならぬディープステートに及びそうになったので、筆者は「ゲイツが何を考えているのか、まだ勉強不足で判らない」と切り上げた。このディープステート、今のところの筆者には東京裁判におけるA級戦犯の「共同謀議」の類に思えてならないところがある。
ということで、リベラルおじさんがコロナ禍で籠っているうちに、ネットにハマって面舵いっぱい右旋回してしまったという、思いがけないコロナ禍の効用の一席を披露した。