年収、キャリアアップしたい人は「転社」と「転職」の違いを理解すべき理由

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

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数年前まで東京で会社員をしていた頃に、外資系転職をしながらキャリアアップをしていた。現在、筆者は経営者としてYouTubeやブログで情報発信をしていることもあり、記事や動画を視聴頂いた学生や20代・30代のビジネスマンから、将来を見据えた転職についての相談を頂くことがある。

相談を頂く中で、かなり多くの人が「転職」と「転社」を混同しており、意識のアップデートの必要性を覚えたことが本稿執筆の動機である。たとえばその人が従事している産業によっては、年収アップ、社会的地位の向上を目指すなら、転社ではなく転職が有効な場面は少なくない。にも関わらず、転社を転職と履き違えてそれを実現しようとする人が多いのである。

本稿が転社と転職の違いを理解することの重要性や、キャリアアップ戦略についての一助になれば幸いだ。

 転社と転職は別物である

端的に定義を示すなら、転社とは「同じ業界内で、勤務先だけを変更」というものだ。その一方で転職とは「まったく異なる業界へ移動し、それに伴って専門領域を変更する」である。書籍の出版社で働く編集者が、よりよい待遇を求めて、別の出版社で働くのは転社であって転職ではない。かたや出版社で働く編集者が、暗号資産やブロックチェーン業界のメディア会社でアナリストレポートを執筆するのは、転職といえる。

一般的に中小零細より、経営体力に優れた大企業の方が待遇が良い傾向にある。それ故に専門領域の変更はせず、あくまで勤務先の知名度や会社の規模、待遇などの改善を求めて転社活動を行う人がいる。だが、そもそも市場規模の縮小を続けるような斜陽産業にいる場合は、転社が解決に直結しないケースもある。そのような産業に落ちるお金は少ないのだから、高収入は望むべくもないわけだ。

その一方で「転職」は、働く業界の変化を臨むものだ。上述の出版社から暗号資産やブロックチェーン業界への転身については、前者は出版業界であるのに対して、後者は金融業界のメディア会社と「ライティング力」を活用する点では同じでも、待遇や市場規模などは大きく異なる。ビジネスが生み出す付加価値の多寡が企業収益、すなわち従業員に支払われる年収に直結しているから、端的にいえば、稼ぎが大きな企業で働けば、給料も高くなるということだ。付加価値が相対的に低い産業から、高い産業へ転身することで、「年収」という軸だけでみるなら、高リターンとなる公算が大きいことは明らかだ。

 転社と転職はどちらが良いのか?

筆者は十把一絡げに「転社より転職こそが有効だ」というつもりはない。これはその人のキャリアプランによって、有効となるアドバイスが全くといっていいほど異なるからだ。その人にとって「よい勤務先」と感じられる職場とのめぐり合わせは、究極的には「運」の要素も否定できない。ただ、色んな転職ケースを見ていると、転社より転職の方が有利になる場合が多いと感じてしまうのだ。

やりがちなのは、「今勤務している会社は安月給で、長時間労働だからダメだ。とにかく勤務先を変えよう」という安易な発想で転社してしまうことだ。上述の通り付加価値が低い業界にいる限り、転社による改善は構造上の問題から、難しいだろう。

ワークスタイルも、産業構造も大きく変化していることに加えて、企業の寿命は短くなり人々が高寿命化している。これは多くの雇用労働者にとって、キャリアジャーニーの変化は受け入れざるを得ない事実を意味する。かつての「一社に奉公しての終身雇用」「同じ業界内の横移動でキャリアアップ」が難しくなった令和時代、転社と転職への正しい認識とキャリアのプランニング力が、ビジネスマンに必要なノウハウと言えるのではないだろうか。