経済産業省と言えば日本経済のエンジンのようなところですが、この数年、そのけん引役としての声が聞こえていない気がします。そもそも今の大臣は誰だっけ、というレベルではないでしょうか?かつて大臣のベストポジションと言えば大蔵省と通産省がガチのツートップでした。
大蔵省、つまり現在の財務省は予算の配分ができるという意味で強気の象徴(省庁?)でありますが、民間でいう銀行ようなものでそれ自体が偉いわけではないのです。ただ民間企業でもCFO(財務最高責任者)がCEOと並んで注目されるのと同じようなものでしょう。
では経済産業省はどうなのか、と言えば日本経済だけを取れば当然COO、つまり社長業に値します。しかし、今の閣僚において「社長」たる梶山大臣の名前を聞くことは滅多にないというのはとりもなおさず、発信力がないということになります。
経産省が注目されたのは1975年に発売された城山三郎著「官僚たちの夏」とそのドラマであります。ある程度の年齢の方はドラマないし書籍をお読みになっている方も多いでしょう。その当時はあの小説が一つの日本の指針書のようなところがあり、大手企業の経営者はほぼ全員読んでいたと思います。なぜならトップ同士の会話では必ず出てくるトピックスで否が応でも経営者必読書のひとつであったわけです。
ただ、もう一つ言うなら1975年という時期が日本にとって絶頂期であり、旧通産省を軸に日本経済が大きく発展したという意味であります。今から見れば大昔の過去話そのものなのです。なぜ、過去話になったかと言えば産業構造の変化に対して通産省主導型の体質が時代にマッチしなくなってしまったことが挙げられます。社会はどんどん変質化し、新たなものが生まれていくのですが、経産省はキャッチアップが精いっぱいでリーダーシップをとれる状況に全くない、つまりフォロワーでしかなくなったのです。
例えば経産省の出先機関であるJETROというものが海外74の主要都市に存在しますが、あれなどは海外に30年近くいる私も一度も縁がないし、向こうからも近寄ってくることもなく、日系のビジネス界に入り込んでくることもありません。彼らの主たる目的の一つは「中小企業等の国際ビジネス展開の支援」なのですが、大企業には縁があるのかもしれませんが、中小なんて相手にもされないし、中小も相手にしないというまったく意味がない独立行政法人であります。
最新の日経ビジネスに非常に気になった記事があります。「生理や妊活、更年期障害……女性の悩みが生むフェムテック新市場」という記事の中で生理用品の新製品を女性社長が経産省に持ち込んだところ、「日本の女性が本当に必要としているかは分からない。前例がないので、市場ができたらまた来てください」と相手にされなかったというわけです。典型的な前例主義と日本の不思議なルールの話です。
生理用品のルールでへぇと思ったのはこの一節。「この女性社長が手にしていたのは、ナプキンがなくても吸収力があるショーツ。現状の制度では『雑品』として扱われるため、『医薬部外品』にあたる生理用ナプキンや『医療機器』にあたるタンポンとは違い、生理のときに使えることがうたえない」と。タンポンが医療機器?だそうです。
こんな細かなルール一つひとつが壁になっているのですが、これは氷山の一角で日本の産業全体がこの旧態依然とした枠組みから身動きが取れず、優秀な8000人弱の経産省の職員もルールブックを片手にしないと訳が分からない経済ルールを構築し、自分でその蜘蛛の巣に引っかってしまったのであります。
このブログで日本経済の歴史を語ることもしばしばありますが、読者の皆様の認識も含め、90年のバブル崩壊から変わったという点では一致しています。ではなぜ、これほど長い不調となり、出口がさっぱり見えないのか、と言えば一つにはそれまで主導していた経産省が今、足を引っ張る役割に転じているからではないか、という素直な疑問はあるのです。
これからの時代、経産省が日本経済を引っ張るとは誰も思っていません。民間企業があくなき探求と試行錯誤の中で作り上げる経済の中で経産省が今、やらねばならないことは民間企業の研究開発の促進と支援であります。そのために今、複雑になったルールを可及的速やかにスクラップアンドビルトするしかないのです。前例主義を唱える人は辞めてもらって構わないし、経産省に民間のブラッドを相当注入すべきと思います。
私が見る経産省は経済の宇宙人であります。つまり、われわれが日々営んでいる経済活動と異次元の世界で実態社会をあまりにも知らなすぎるかもしれません。ならば、経産省の官僚の卵を民間企業に出向させるぐらいの荒治療も必要かもしれません。そんなことはできないのは分かっているのですが、それぐらい、ギャップを感じるのが今の経産省であります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年2月10日の記事より転載させていただきました。