超金融緩和の影響が高級腕時計市場まで及んできた

有地 浩

主要国中央銀行が超金融緩和を行った結果として、過剰流動性が最近世界中で様々な異常現象を発生させている。

超金融緩和の影響

ニューヨーク株式市場では、ロビンフッダーと呼ばれる小口の素人投資家たちが空売りの標的になっている株を集中的に買って、空売りを仕掛けていたヘッジファンドに大きな損失を被らせたし、暗号資産市場では、ビットコインはピークを打ったからもう買うべきではないという金融の専門家の意見をあざ笑うかのように価格が上昇を続け、2月14日時点では1ビットコインが円建てで500万円を超え、ドル建てでも5万ドルに迫ろうとしている。

そしてこうした異常現象は、ついに高級腕時計市場でも見られるようになって来た。

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高級腕時計の市場実勢価格が急上昇

昨年秋ごろから高級腕時計の市場実勢価格が急上昇している。高級時計の例として、時計にあまり関心のない人でも見聞きしたことがあるロレックスを例にとれば、人気商品の一つであるロレックス・コスモグラフ・デイトナ〔型番116500LN〕は、市場実勢価格は2017年半ばには200万円をやや上回るレベルだったが、昨年12月初めには300万円を超え、今年2月14日現在360万円を超えている。

正規販売店で購入するとどこでも定価は138万7100円なので、正規販売店で新品を定価で買って、すぐに転売すれば230万円近い利益を得られるということだ。これが異常でなくて何を異常だというのだろうか。

こうなると誰でも借金をしてでも、正規販売店に行って定価で何個も買って巨利を得ようと思うだろうが、供給があまり多くない中で人気商品に対する需要が極めて強いため、店に行っても在庫がなく、すぐに買えないことが日常化していると聞く。またロレックス社としては、転売を業とする者を排除するために、購入する人に身分証明書を提示することを求め、同じ人が同じ型番の製品を買えるのは5年間で1個だけというルールを作っているので、転売で荒稼ぎするのは容易ではなさそうだ。

もちろん高級腕時計を買う人すべてが投機目的で購入しているとは限らず、その耐久性、芸術性、機能性などを評価して買う人も多いと思われるが、長い歴史を振り返って価格が安定している、というかむしろ価格が右肩上がりとなっていることから、資産の分散手段のひとつとして購入する人は多いのではなかろうか。

高級腕時計のメリットとデメリット

やや話が横道にそれるが、資産の分散保有手段の一つとして高級腕時計を見た場合、メリットだけでなくデメリットがあることにも注意が必要だ。メリットは金などの貴金属に比べて同じ価値のものであれば、腕時計の方が軽く、小さいので持ち運びが容易でかつ収納スペースが少なくて済むことが挙げられるが、デメリットとしては3~5年に1回はオーバーホール(分解修理)をする必要があり、これに数万円の費用が掛かることだ。

金よりも軽くて場所を取らないとなると、相続税対策として高級腕時計を子や孫にこっそり買い与えることを考える人がいるかもしれない。しかし、上記のように正規販売店では本人が身分証を提示して買う必要があるため、購入の事実を税務当局が知る可能性がある。また、中古市場で買う場合も、中古品の販売業者は古物商の免許が必要で、古物営業法の関係で購入者の身分証の提示等が求められるので、こちらも同様だ。

奥の手は、個人間で中古品を売買すれば足がつきにくいが、これは偽物をつかまされる可能性があるので、目利きができないとだめだ。また、先日名古屋の駐車場で高級腕時計の個人間売買をしようとした人が、暴漢に時計を強奪された事件があった。この事件の売主がどんな事情があって高級腕時計を個人間で売買しようとしたかは分からないが、時計と代金の受け渡しの際に、強盗などの犯罪に遭う危険性があるので、売り手にとっても買い手にとってもリスクが大きすぎる。

いずれにしても高級腕時計に対する様々な購入動機が渦巻く中で、現在の世界の超金融緩和が続く限り、一時的な価格のアップダウンはあっても、当分の間は高級腕時計市場も価格上昇が続くだろう。

しかし、これは現在の世界が異常なのであって、異常はいずれ正常に戻るのが世の常だ。そして正常に戻る過程で、高値で購入した人は臍をかむことになることは覚悟しておく必要があるだろう。