スウェーデン2020年死者:小規模パンデミックに遭ったが大規模インフォデミックを防いだ --- 藤川 賢治

2021年02月16日 06:00

スウェーデンの2020年の死者は、確かに2019年より10%ほど増えています。 しかし歴史的な大規模パンデミックではありません。 下図は、スウェーデンの統計局の死者データを元に10万人あたりの死亡率を1850年からプロットしたものに、日本語の注釈を筆者がつけたものです。2020年は小規模パンデミックだったとはいえるでしょう。

以下のグラフで 2020年の死者と、2015年〜2019年の死者推移とを比べると、

  • コロナが拡大する前は例年に比べて死者が少ない推移だった
  • コロナが拡大して、4月5月(第14〜22週)は多くの死者が出た。過去5年の最大値である日ごとに315人の17%の、日ごとに367人の死者が出た
  • 夏以降は例年の死者よりむしろ少なくなった
  • 第二派が来て、11月(第45週)から全死因死者が増え、最大で日ごとに339人となった(この後 2021年は減少傾向)

と読み取れます。

コロナ拡大前の死者が少なかったことに関して、スウェーデン在住医師の宮川先生によると、公衆衛生庁から

2019年から2020年の冬は記録的な暖冬であったが、この間、超過死亡はマイナスであった。つまり、通常であれば、冬にインフルエンザなどで命を落とすはずだった高齢者の死亡が後ろ倒しとなり、新型コロナ感染により亡くなったため、より多くの死亡者を記録した

と説明があったようです。

夏に死者が減っているのは、パンデミック後は余命が短い人が減るので死者が減少傾向になるためだと考えられます。人間の死亡率は100%なので、コロナで死者が一時期に集中することはあっても、長い目で見れば死者が増えることはありません。死者が多い時期があればその後、少ない時期が来る可能性が高くなります。

通年の総死者を比較すると、2019年から10%増ではあるのですが、過去5年平均との比較だと7.7%増、2019年と2020年を平均してから比べると 2.6%増となります。これも複数年で見れば死者数はそう変らないことを示していると考えられます。

更に生きている人も一緒にグラフに書くと、死者数は線となり年度間の違いは目視では確認できなくなります。

約1000万の人口で例年の全死因死者が9万人前後ということは、1000人中9人が亡くなるということです。 2020年は 1000人中 9人の死者が1人増えて10人になりました。 自分や家族がその1人になるかもしれないと恐れて 990人の社会活動を制限しようとしたのが世界的なコロナ騒ぎで、情報通信技術普及後初の大規模インフォデミックといえるでしょう。

スウェーデンはインフォデミック拡大を防ぎ990人の生活を守りました。

ただ残念ながら世界でもスウェーデンが特殊なだけで、一般的には民主主義国家では恐れを抱いた国民の意見を対策に反映させざるを得ないため、インフォデミック拡大を防ぐのは難しいと筆者は考えるようになってきました。

スウェーデンでは公衆衛生庁を始めとした行政機関が政府から独立していることが憲法で保証されており、民意を反映させる必要がありません。ただしこれまた憲法の規定で情報公開が徹底されているため、ロックダウンが無くとも死者は抑えられるし、ロックダウンは弊害の方が大きいことを毎日国民に説明しました。

例えば6月の段階で、4月5月の死者は多かったが、1990年前後のインフルエンザが流行った連続する二箇月の方がより多くの死者が出ていると統計局が発表していますし、多くの国民がその説明に納得しているようです。

これについては拙稿「ここ数十年で、冬に新型コロナ並みに死者が増えた例」でスウェーデンでもコロナ並にインフルエンザで死者が増えている年を例に挙げています。こちらでも死者が多い時期の後は死者が少なくなっていることが分ります。

スウェーデンはいわずと知れた高福祉国家で、税金が高い代わりに、移民・難民に関わらず医療費をほとんど無料にするという基本方針があります(年額が最大4万円で、入院費は別途1日千円)。そのため、80歳以上になると ICU 入れてもらえない場合もあるなど、普段からトリアージ的な運用がされていることも冷静にパンデミックに対応できた理由だと考えられます。公衆衛生庁は繰返しロックダウンは国民の健康を害すとメディアからのロックダウン圧力を躱し国民を説得したようです。

高福祉のもう一つの柱として教育が大学含め無料ということがあり、限りある予算をどこに割振るかを考えないといけません。教育も国民の成長と健康に影響することであり、広い意味でトリアージ的な考えが必要になってくると思います。だからこそ大学と高校は遠隔授業が導入されたとはいえ、可能な限り学校を閉じないという選択に繋がったのだと考えています。

スウェーデンではパンデミックの最中、制限があるとはいえ、国民は外出規制や自営業者の一律の営業禁止、義務教育の閉鎖など無く、可能な限り普通の生活を送っています。コロナによる死者数も、現時点では欧州では19番目と中間的な被害となっており、他の国と比べて特別多いということはありません。

「スウェーデンは死者が多い!失敗だ!」と短絡的な報道を鵜呑みにせず、歴史的に統計的に見れば、全死因死者がそれ程増えていないこと、スウェーデンの対策により国民は日常を送れていることを知ってもらい、日本の今後の対策や社会システムの在り方を考えて欲しいと切に願います。

mirsad sarajlic/iStock

おまけ: ノルウェーの研究者も……

いつも他の北欧諸国と比較されて死者が多いと批難されるスウェーデンですが、ノルウェーの研究者がスウェーデン研究者との共同で、

  • パンデミック中スウェーデンで死者が多かったのは高齢者に限られる
  • 死者が後倒しになったの原因の一つ
  • 他の国の対策ももっと緩やかでよい

という内容の論文を査読に出しています。

筆者と同じく、ノルウェーにもいくら自国のコロナ死者が少なくても、スウェーデンの対策の方がよいと考える方がいらっしゃるようです……

藤川 賢治
東京都在住パワーリフター、本職はネットワーク系の研究者・技術者

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