「古代バビロニア帝国とイラク」という2021年の導火線(二宮 美樹)

2021年02月17日 06:00

グローバル・インテリジェンス・ユニット シニアアナリスト 二宮 美樹

4,000年前の古代バビロニア帝国の中心都市バビロンの遺跡が廃墟と化し窮地に立たされている。2年前の2019年にUNESCO世界遺産として登録されたばかりである。

HomoCosmicos/iStock

バビロンの遺跡は世界で最も有名でありながら未だに謎の多い遺跡の一つである。この地からシュメール(Sumer)、アカド(Akkad)、バビロン(Babylon)、アッシリア(Assyria)など世界最古の文明が生まれた。世界最古の法律と刑罰の1つとされるハンムラビ法典もバビロンで生まれた。天文学やその他の科学の進歩もバビロンから起こった。

「ティグリス川とユーフラテス川の間の地」を意味する「メソポタミア」にあった「神の門」(“バビロン”)に現在あるのがイラクである。

バビロニア帝国に入るアレクサンドロス大王(Wikipediaより)

イラクは世界第5位の石油埋蔵量を有し国家歳入の約9割が石油収入でまかなわれている。(参考)

同時にイラクは神聖な土地でもある。ユダヤ教・キリスト教・イスラム教を信仰する「啓典の民」の始祖アブラハムの生誕の地でもある。この歴史を守ることにイギリスが積極的な関わりを見せている。英王立国際問題研究所による「イラク・イニシアティブ」である。

そんな中、イラクに来月、ローマ法王フランシスコが訪問する。ローマ法王として初めてのことだ。

数々の神聖な都市を訪れる中でも今回の重要な目的の1つがシーア派のイスラム教指導者アリー・スィースターニー(Ali al-Sistani)と面会することだ。(参考)

スィースターニーは90歳を超える高齢で健康状態が不安定であるにもかかわらず、イラクの安定要因とされている。実はイラン出身である。20代の頃(1950年代)にイラク中南部の都市ナジャフ(Najaf)に移り住んだ。両氏はこの訪問で平和共同声明を予定している。

他方で今年(2021年)に入りイラクのムスタファ・カディミ(Mustafa Al-Kadhimi)首相が同国に駐留する米軍兵士の半数が近く帰国することを明らかにした。(参考)

イラクのカディミ首相(Wikipediaより)

昨年(2020年)5月に就任したカディミ・イラク首相は英国との二重国籍を持つ。サダム・フセイン政権の反対勢力だったため亡命し英国に渡る。のちに米国でもジャーナリストとして活動し米国との関係も近い。2016年以降はイラクのインテリジェンス機関のトップとして同組織の諜報能力を国際基準に高めることに努めた人物だ。(参考)

イランの中枢部からは親米派と見られている。しかし同氏のアプローチは一方ではイランと他方では米国とその同盟国との間でバランスを取る傾向にある。さらにサウジアラビアの皇太子であるムハンマド・ビン・サルマン(MBS)の「友人」とも言われている。安全保障問題だけに集中するのではなく、イラク経済のためにイラクの外交関係を多様化させようとしている。(参考)

米国側は今回の米軍削減がイラクやこの地域における米国の政策の変更を意味するものではないと強調した。(参考)

ここで重要なのは歴史的にティグリス・ユーフラテス川はトルコ、シリア、イラクの間における係争の地となってきたことだ。そして米国は水問題を切り口に第二次世界大戦以前から中東に関与してきた。イラクが「対イラン」という意味で米国の駐留地になってきた経緯がある。

イラク戦争後の治安回復などの遅れが影響し電力、水、運輸等の基礎的インフラの整備不足がイラクでは顕著で急務となっている。そして他のアラブ諸国と同様に石油依存の産業構造から脱却し経済の多様化を目指している。

「文明の揺りかご」と呼ばれる神聖なるバビロンの地と現世イラク、そして中東における立ち位置を微調整しつつある欧米諸国の今後の動向を注視して参りたい。

二宮 美樹
米国で勤務後ロータリー財団国際親善奨学生としてフランス留学。パリ・ドーフィンヌ大学大学院で国際ビジネス修士号取得。エグゼクティブ・コーチングファームでグローバル情報調査を担当、2020 年7月より現職。

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