裏に中国?英「エコノミスト」誌がウイグルを「ジェノサイド」でないと指摘

高橋 克己

アメリカの保守系政治サイトワシントン・フリー・ビーコン(WFB)は12日、英誌「エコノミスト」が社説で、中国が新疆ウイグルで行っている住民への収容所の継続使用や女性への強制不妊手術を米国が「ジェノサイド」(民族大量虐殺)と指定したことを間違いだとしていることを、米下院外交委員会での議員の発言を引いて報じた。

「ジェノサイド」は新疆ウイグル自治区で起きている恐怖を表す言葉として間違っているという見出しをつけたエコノミストの記事(同誌サイトスクリーンショット)

「エコノミスト」といえば、180年近い歴史のある、英米中心に150万部以上を販売する週刊新聞。記事の範囲も政治経済から科学文化まで幅広い。その有力誌が、先般米国が「ジェノサイド」と指定した共産中国によるウイグルでの所業を間違いと否定したとなれば、一体何があったかと驚く。

本題に入る前に、先ずは国連が定義する「ジェノサイド」の内容について見ておきたい。51年1月に発効した「ジェノサイド犯罪の防止と処罰に関する条約」は、第2条で「ジェノサイド」を、第3条ではいかなる行為を罰するかを、次のように定義している。(以下、拙訳)

第2条 本条約において、ジェノサイドとは、国、民族、人種、または宗教の集団を全体的または部分的に破壊することを目的として行われた以下の行為のいずれかを意味する。

(a)集団のメンバーを殺害すること。

(b)集団のメンバーに深刻な身体的または精神的危害を及ぼすこと。

(c)集団の生活条件に全体的又は部分的に物理的破壊をもたらすと判断される強制的な苦痛を負わせること。

(d)グループ内での出産を防ぐことを目的とした措置を課すこと。

(e)グループの子供を別のグループに強制的に転送すること。

第3条 以下の行為は罰せられるものとする。

(a)ジェノサイド。

(b)ジェノサイドを犯すための陰謀。

(c)ジェノサイドを行うための直接的および公的な扇動。

(d)ジェノサイドを犯そうとすること。

(e)ジェノサイドの共犯。

以上のように定義は具体的だ。次に米下院外交委員会のサイトにあるマイケル・マコール共和党下院議員の発言は以下のようで、同議員はそれに続けて、中国共産党が行っているとされる所業と前記の「ジェノサイド犯罪の防止と処罰に関する条約」第2条とを対比して詳述している。

「エコノミスト誌は間違っている。中国共産党はウイグル人やその他の民族的および宗教的少数派に対して、ジェノサイド条約で定義されている通りに明らかにジェノサイドを犯している。エコノミスト誌の意図はジェノサイドの弁護者としての役割を果たすことではないと願っているが、中国共産党は疑いなく、同誌の不正確な見出しを使ってジェノサイドを言い訳し続けている。信頼される国際的メディアは新疆ウイグルで起こっている恐怖を暴露する上で極めて重要な役割を果たしてきた。これらの同様の恐怖の言い訳を見るのは信じられないほど落ち着かない」

それでは「エコノミスト」の社説は何と言っているのか。同誌の「ウイグル人の『ジェノサイド』の迫害は新疆ウイグル自治区の恐怖に対する間違った言葉だ」という見出しで、「悪に立ち向かうための最初のステップは、それを正確に説明すること」との副題が付いた主張はこうだ。

「(「ジェノサイド」との表現は)その言葉の一般的な理解では正確でない。『殺人』が人を殺すことを意味し、『自殺』が自分自身を殺すことを意味するのと同じように、『ジェノサイド』は人々を殺すことを意味する。中国によるウイグル人への迫害はおぞましいものだ。おそらく1平方メートルの収容所にウイグル人を閉じ込め、「職業訓練センター」との誤ったラベルを付けている。一部のウイグル人女性を強制的に不妊手術した。だがそれは彼らを虐殺(slaughtering)しているのではない」

この「エコノミスト」の言い分は、前記の「ジェノサイド犯罪の防止と処罰に関する条約」第2条の非常に具体的な文言に照らして明らかに間違っている。では「エコノミスト」ともあろう著名誌がなぜこの様な、少しでも「条約」に当たればすぐ判るような間違いを犯したのだろうか。

それについてWFBは、「エコノミスト」が昨年、習近平の新型コロナ対応に関する極めて好意的な報道を含む「北京レビュー誌」のPR記事を数本発表したが、「北京レビュー誌」が中国共産党に資金提供された事業体であることを開示しておらず、連邦開示法に違反する可能性があるとしている。

WFBはさらに、「エコノミスト」のスタッフが最近ファーウェイに入社したこと、同誌がファーウェイに協力して欧州の技術視察旅行団を複数組織したことなど、ファーウェイと同誌との利益の上がる(lucrative)ビジネス関係を開示することなく好意的に報道しているなどとも報じている。

WFBが挙げた「エコノミスト」のこれらの行動は実証可能な事実のようだ。だからと言って「エコノミスト」が共産中国を慮って「ジェノサイド」ではないと書いたと軽々に断定することはできないが、これらがそれを疑わせる有力な状況証拠であることは間違いなかろう。