世代間の公平を考える

新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない中、その影響を受けて苦しむ事業者や個人のいのちと暮らしを守るためには、大胆な財政出動が必要です。

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少なくとも持続化給付金や家賃支援給付金の再度の実施や要件緩和と、新型コロナ関連融資の増額、要件緩和が必要です。

医療や介護等に従事するエッセンシャルワーカーの皆さんの処遇を一時的でなく改善することも重要です。

特措法が改正されましたが、時短要請や休業要請に対しては、事業規模に応じた補償は必須です。

一方で、コロナ対策のための支出が、すべてワイズスペンデイング(賢い支出)と言えるかどうかは疑問です。補正予算では、コロナ対策と冠をつけた不要不急の予算もたくさんありました。

また、国民一人に一律10万円の給付は、緊急時に国民に現金を素早く届けるためのやむを得ない措置でした。しかし、政府内のデジタル化がお粗末で、素早く給付することができず、野村証券のエコノミストの推計では9割が貯蓄に回っています。後知恵にはなりますが、12兆円の借金にたいして経済効果が見合っているのかどうか。コロナ禍が収束した際に、第三者機関をつくって、費用対効果について検証すべきではないでしょうか。

若い女性の自殺が激増しています。巨額の予算を使いながら、生活困窮者への手当てが不十分です。

本来、マイナンバー制度を前提にした給付付き税額控除の制度ができていれば、確実に生活困窮者への現金給付が可能でした。

給付付き税額控除とは、一定額の減税を行い、納税していないか、納税額の少ない人には減税しきれない分を現金で給付する仕組みです。英米のような勤労税額控除や独仏のような児童税額控除、カナダ・シンガポールのような消費税逆進性対策の税額控除があります。

日本では消費税10%への引上げの際に、当時の民主党から逆進性を緩和する目的でその導入が提案されました。軽減税率では、逆進性は解決されません。むしろ、お金持ちほど高い食料品を買うため減税額が大きくなる不公平があります。

消費に応じて税負担の生じる消費税よりもはるかに逆進性が高いのは、社会保険料の負担です。健康保険料や厚生年金保険料には上限があり、特に定額制の国民年金はすこぶる逆進性の強い制度です。たとえば、給与所得200万円の標準世帯と同じく2500万円の世帯では消費税の負担率はほとんど変わりませんが、社会保険料では給与所得200万円の世帯の方が負担率は倍近くになっています。

ですから、2009年以前の自民党政権下でも税と社会保障の一体改革が議論されていました。

自公政権の時の2009年所得税法等改正法附則では「個人所得税については、、、給付付き税額控除の検討を含む歳出面も合わせた総合的取り組みの中で子育て等に配慮して中低所得者世帯の負担の軽減を検討する」と書かれています。

そもそも給付付き税額控除は自公政権の提案です。今から制度設計を行い、給付付き税額控除制度を立ち上げるべきだと思いますが、当時の首相であった麻生財務大臣にに聞いても前向きの答えは得られませんでした。

コロナによって、所得格差がますます広がっています。コロナの収束に成功した暁には、所得再配分効果を高めるための税と社会保障の一体改革を行うべきです。

そのためにも、給付付き税額控除制度を導入し、中低所得者層を救済するインフラを整備する必要があります。財源は所得控除を整理・縮減して捻出できます。所得控除から税額控除に移行すれば、それだけで高額所得者の負担を増やし、所得再分配効果が強化されます。

団塊の世代が後期高齢者になるこれから、社会保障の負担を年齢で区切ることに合理性はありません。年齢とは関係なく所得の多い少ないで負担割合を決めるべきです。

そのために、資産性所得の把握が必要になります。株式の譲渡益や配当にはすでにマイナンバーが義務付けられています。それに加えて、利子所得の把握のために預金口座とマインバーを紐づけることが必要です。

フローの収入は少ないですが多額の資産を保有している高齢者層に社会保障の負担をお願いするためにも、DX(デジタルトランスフォーメーション)を政策の一丁目一番地に掲げる菅内閣として正面から取り組むべき課題です。

また、コロナに対応するため、真に国民の命と暮らしを守るための歳出増加はやむを得ないものの、そのための債務は特別に管理し、将来は震災復興特別税のような仕組みで、後代に負担を残さないようにすべきです。10年前の東北大震災では、復興特別税として、25年間所得税額に2.1%を付加、10年間住民税を1000円増額しました。法人税は3年の予定が2年間に減りましたが特別法人税を徴取しました。

孫や子どもに負担をつけ回すのではなく。1ジェネレーションの30年でも良いですから、私たちの世代でコロナ対策費用を負担する覚悟が求められています。

今はやりのMMT理論は特別な経済理論でもなく正しいと思います。MMT理論では財政支出が貨幣流通の起点になります。人々が貨幣を信用し、納税するために貨幣が必要になるため、需要が発生するというモデルです。自国通貨で国債発行することに制約はありません。しかし、国債を発行し続けると、どこかで必ずインフレになります。その際には、増税して貨幣を吸収すれば良いというのがMMT理論です。現実には増税ができないから悩ましいのです。

第二次世界大戦後、日本は約300倍のインフレに見舞われました。これはハイパーインフレではありませんが、供給能力が破壊されていたためのインフレで、この結果、戦時国債の値打ちが300分の1になり借金は返せました。国債を保有していた国民が犠牲になったのです。

今は、供給サイドに問題はありません。政府債務の残高が家計や企業の民間部門の貯蓄の残高を上回る時に、おそらくインフレが来ます。それは3倍とか4倍程度のインフレかもしれません。それでも、サラリーマンの貯金の値打ちは3分の1、4分の1になります。お金持ちは株や不動産を持っていますから被害はありません。

そのようなことにならないように社会保障と税の一体改革、歳出の合理化と所得再分配効果をもたらす歳入の改革が必要です。

日本の財務省や内閣府は政治性が強すぎて、信じられないような楽観的な経済予測を行い、バラ色の財政再建計画を作っては毎回修正をよぎなくされています。

今の日本政府に財政規律を求めるのは難しいですが、それはある意味、選挙で選ばれる政治システムの問題でもあります。先進諸国では、そのような苦い経験を乗り越えて、政府から独立の財政機関が設置されるようになっています。

たとえば、英国の財政責任庁(Budget Responsibility Committee)や米国、カナダの議会予算局などの独立財政機関を設置して、中期的な経済財政予測を行い、政府の財政再建計画の進捗状況を評価させる必要があると考えます。

(以上、2021年2月15日の衆議院予算委員会での私の質疑を参考に書きました。)

参考:衆議院インターネットTV


編集部より:このブログは衆議院議員、岸本周平氏(和歌山1区、国民民主党)の公式ブログ、2021年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、岸本氏のブログをご覧ください。