五輪相の覚悟を、私は意気に感じた。そのいくつかの理由
森喜朗・元総理大臣の舌禍に端を発し混迷をきわめた五輪組織委員会会長の後任人事ですが、現役の五輪相でもある橋本聖子・参議院議員が大臣を辞任し就任要請を受諾される形で、事態は一気に加速し始めました。
橋本聖子氏「混乱を招き、心からおわび」…自民に離党届提出(読売新聞)
一連の騒動に関しては様々な立場の方が賛否両論の論陣を張られています。中でも否定的な向きは橋本さんの過去を掘り起こし資質を疑う論もありますが、少なくとも私は橋本新会長の就任に対し、一意専心、かつ不退転の覚悟で臨まれる姿勢を心より応援します。
記事のタイトルで「すわ、釣りタイトルか!?」思われる方もいることは想像に難くありません。たびたび蒸し返される同姓同名の高橋大輔選手自身も心中穏やかではないかも知れないと思いつつ、少なくとも命名に関しては私の親の方が先なのでその点は何卒ご容赦ください。
橋本委員長だからこそ突破できるであろう、「3つの壁」
意地の悪い人は今もやれセクハラの過去だ、あるいは森元会長の傀儡人事だと大上段から語る論が後を絶ちません。そういう面々に対して私が言いたいことは一つだけです。
「そこまで言うなら、あなたが、あなたの責任で別の候補を連れてこい」
生意気な物言いをお詫びしつつも、私は橋本新会長に対し、3つの事実をベースに期待を抱いています。
その1点目は、政治家である前に、橋本聖子さんは「オリンピアン」であったこと。そして、世界の頂点を争った「トップアスリート」でもあったこと。これだけでも、前任者を凌駕しているのは言うまでもないでしょう。他にも五輪経験者という切り口なら、クレー射撃代表として1976年にカナダ・モントリオール五輪出場した麻生太郎副総理や、また8年後のロサンゼルス五輪にレスリング代表として臨んだ馳浩・元文科大臣などもいます。ただしいずれもメダリストとして頂点を争うには至っておらず、新会長の資質はそれだけでも評価できます。
2点目は、政界に転じ間もない頃、女性として「おそらく、最も大きな壁」を経験されたこと。現在の視点でとらえたら時代錯誤も甚だしい限りですが、1995年(平成7年)に参議院議員に転じて1期目の終盤2000年(平成12年)、橋本議員はみずからの懐妊と出産に対し猛烈なバッシングに晒されています。
参議院議員・橋本聖子の出産時、議員規則には「産休」の項目がなかった(ニッポン放送)
わが国の女性国会議員第一号でもある園田天光光(てんこうこう)・元衆議院議員が全力で擁護の論陣を張ったこともあり、当時のことは私も鮮明に記憶しています。ただ当時主流の論調は哀しいかな、男性目線が多く、ともすれば「懸念」あるいは「危惧」という言葉で責任回避をしつつ、柱の陰から石を投げるかのような論調が目立った思い出があります。それゆえ園田さんの論は際立っていたわけですが、ここで踏ん張ったのは間違いなく橋本議員本人の胆力、そして覚悟の賜物でもあるでしょう。政治史の1ページとしても見逃せない点です。
そして3点目は現在も蒸し返される一件ですが、これに関しては新会長といえども、針の筵(むしろ)に座る覚悟で組織委員会会長の就任を受諾されたであろう。その点は想像に難くありません。
これは当財団を長らく率いた尾崎三女・相馬雪香も生前口にしていたことですが、私には橋本新会長の決意と重なりました。
「女性の権利とか、地位向上っていうけど、女だけで何かやろうなんて無理ですよ。世の中、半分は男なんだから。その男連中を巻き込んで、一緒に事にあたらなきゃ世の中は変わらないです。そして何よりも、女性自身が変わっていくこと。変われば、権利や地位は後から付いてきます。男社会が云々なんて、男だけを批判してもダメですよ。」
(石田尊昭『平和活動家・相馬雪香さんの50の言葉』119頁)
少なくとも、橋本さんは過去の一件を痛切に反省しておられる。私はそう受け止めています。
それだけにこの期に及んで、やれ過去の疑惑が、IOCがと「世間の名を借りて」したり顔で論ずる向きを、私自身は「小っさいなあ」と思うし、取るに足らないと見ています。
肝腎なのは、決まった以上「どうやってベストに導くか」。わが国が五輪中止を宣言しない限り、私は橋本聖子・新会長を中心とした組織委員会の再出発に頑張れと言いたい。その方がよほど建設的です。
ならば、どうするか。私が思い描く「今回の五輪の成功」とは
せっかく新体制になったのだから、橋本会長下での組織委員会には漠然とした印象論でなく、具体的な「今回の五輪開催における成功」を提示していただきたいと思います。何をもって、大会の成功とするか。メダルの数か。それとも税金投入を含めたそろばん勘定か。はたまた菅総理が掲げた「人類がコロナに打ち克った」象徴としての開催か。様々な観点や切り口があります。もしかしたら政府や組織委員会の識者の方々がすでに検討されているかも知れませんが、あえて提言したいことがあります。
新型コロナの克服は日本がただ一国のみで対峙する課題ではなく、それこそ各国との協力や連携が必要不可欠と考えます。中でも、各国と比しても極めて先進的な取り組みを見せている台湾の支援を全面的に仰ぎ、オリンピック開催時の抑え込みを実現することが出来たならば。それもある意味での成功といえるのではないか。密かにそう想い描いています。
こういうことを書くと、やれ中国を刺激するとか、せっかくファイザーのワクチン輸入が始まったのにとか、役人根性で訳知り顔の否定論が巻き起こるかも知れません。それも織り込み済みのうえで、あえてこう申し上げます。
「世界中の協力が必要なんだ。お前さんの狭い了見で、とやかく言うな」
奇しくも台湾トップ・蔡英文総統も、またコロナ抑え込み対策の最前線で奮闘する唐鳳(オードリー・タン)IT担当相も、橋本新会長とは同性です。だからこそ、胸襟を開いてオリンピック成功のビジョンを共有できるのではないか。森さんの時には夢にも思いませんでしたが、橋本体制ならばこのような大風呂敷もあながち夢物語ではないかも知れません。すべては今後にかかっています。
いずれにせよ、私は今回の橋本聖子・オリンピック組織委員会会長の就任、そして東京オリンピック/パラリンピック大会の成功を、心より応援しています。