景気の二極化、忍び寄るインフレーション

私どもが日本から輸入している書籍は船便と航空便の組み合わせですが、航空便は貨物専用ラインを介しているので過去1年、一度も滞ることなく毎週確実に輸入便を確保していました。ところが一般的には国際輸送のガタガタは今でも続き、日本郵政が国際郵便の一部を一時中止し更にその復旧が遅れたり、SAL便(エコノミー便)があてにならなくなったりしたのは単に飛行機が減便になっているだけではなく、物量が急増し、空きスペースがないという問題に変わってきています。

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船便もかつてはコスト的なメリットを享受できたのですが、欧米便のスポット契約はこの1年で2倍以上に値上がりしており、国際輸送費が輸入品の価格に転嫁され、最終価格を見直さざるを得ない状況になっています。特に船便は中国発北米行きの物流が爆発的に伸び、船もコンテナも不足する事態でバイデン大統領が習近平国家主席にあまり刺激的な姿勢に転じられないのはこの物流で中国が制約をかけるとアメリカで極めて深刻な経済停滞が生じることが背景にあるのでしょう。

私が進める東京の小さな開発事業では設計事務所から施工業者に手持ち工事が多く、手一杯の上に部材の入手がタイトになってきており、工事に支障をきすかも、と言われています。多くの建設資材も中国から来ますが、モノが入ってこない、つまり奪い合いと物流のネックのダブルパンチになりつつあります。

日本国内の一般社会だけを見ればまだコロナ禍で様々な制約ある生活を余儀なくされているのに何を言っているのか、と思われるでしょう。しかし、私が肌感覚で見る消費の回復は目を見張るものがあり、富裕者層が強くリードしている上に一般層も許される範囲で消費の背伸びをし始めている状況がみてとれます。

私どもが運営するバンクーバーのダウンタウンにあるマリーナ施設は4月が年間契約の更新なのですが、今年は驚くべきほどの係留の問い合わせになっています。理由は富裕者層がクルーザーを購入しているためです。通常、ボートの市場は初心者は中古からスタートし、サイズを大きくし、いつかは新品のボートにという古典的な成長過程が未だに展開されています。ボート販売業者と話をすると新品のボートがバンバン売れており、このサイクルが急速に回っているようです。また人気あるクルーザーになると在庫そのものが払底しており、いつ、それがゲットできるかわからない状態です。これらのボートの価格は数千万円から億円単位の消費世界であります。

ホテルの部屋の稼働率も確実に上昇してきています。地元の人がホテルに泊まり、「非日常」を楽しんでいるからです。多分、日本の高級ホテルも同様のはずで、一泊数万円するホテルにリトリートとして宿泊し、スパなどの各種サービスを受け、普段見ない景色で気持ちを入れ替えるという消費もあります。

日経に二つの対照的な記事が同じ日に上がっています。「世界裂く『K字』の傷 民主主義・資本主義の修復挑む」と「たまる消費の反発力 貯蓄率、日米欧で最高水準」であります。この二つの記事を概括するとコロナの我慢生活で可処分財産が増え続ける一方、消費できないジレンマが湧き上がっていること、コロナが直撃している業種やその業界の従業員の方は厳しい状況がいましばらく続くであろうこと、仮にコロナが終息すればその消費マグマやストレスマグマが一気に需要爆発を起こし、需給バランスが崩れ、物価が上昇するシナリオが考えられることであります。

例えば仮にある時から入国規制や制限もなく、PCR検査もなしでハワイ旅行に行けるとなれば人間の行動心理学からすると一瞬で飛行機もホテルも埋まるはずです。そして価格はダイナミックプライシングのシステムを使っているのでとんでもない金額が提示されるはずです。それでもひとはそのバカ高い金額を喜んで払うでしょう。

一方、供給側である企業側は従業員の絞り込みを行っているため、スタッフが十分に確保できず、てんやわんやになるというシーンも目に見えています。同様に飲食店も国内旅行も同様で今気をつけなくてはいけないのはその衝撃があまりにも大きすぎると収拾がつかなくなるリスクさえあるとみています。

景気が「K字回復」というのは回復過程で勝ち組と負け組が生まれることです。私は飲食も旅行業界もコロナ終息を前提とすれば「敗者復活戦」で勝ち抜けるとみています。本当の負け組はコロナの間に何も工夫をせず、じっとしていたところだと思います。消費に向かうお金は均等、まんべんなくふるまわれるのではなく、価値があるところ、必要なところ、消費心をくすぐるところに向かいます。その努力を怠ってきたところは負けるでしょう。

私がいま見ているのは世界的超低金利の終わりがちらりと見える可能性です。それは何時でしょうか?もしかしたら今年の後半には金利上昇のサインが出る可能性は見込んでおかねばならないと思います。市況を見ていると資源の価格上昇がこの10年来最高の状態になりつつあり、資源関係企業の株価は棒上げになっています。また、ナスダック市場がこのところ、冴えないのは金利に対する敏感さからでこの変化はコロナで株価が底を打ってから最大の風向きの変化です。

私がバイデン大統領の200兆円の復興支出は不要と主張するのもこの刺激が多きすぎて収拾がつかなるなるリスクのほうが大きいからであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年2月23日の記事より転載させていただきました。