フツーのビジネスマンを経営「参謀」化させる、簿記2級の凄み

参謀不在。

最近、政治・ビジネス・スポーツなど様々な業界で耳にする言葉です。参謀的な能力を持つ人材が不足しているのです。

企業経営において、参謀に求められるのは、現状を把握し、分析する能力。分析に基づき、意思決定する能力、といったところでしょうか。

Business/iStock

では、こういった能力はどうすれば習得できるのか。大学院に行く? ビジネス書を読む? どちらも有効でしょう。しかし、最も効率的なのが「簿記2級」を取ることです。

「簿記?しかも2級って…。なんだか『ビミョー』」

いえいえ。簿記2級には、フツーのビジネスマンを「参謀化」させるエッセンスが、数多く含まれているのです。

今回は、ビジネススキルを最強化する資格「簿記2級」についてお伝えしたいと思います。

3級と2級の違い

簿記にどのようなイメージをお持ちでしょうか?

「…経理の人。仕事は出張費の精算とか?」

たしかに。簿記、特に簿記3級で最初に学ぶのは、経費精算の方法です。具体的には

“出張で電車代に5,000円支払った”、という取引を

「旅費交通費 5,000円 / 現金 5,000円」

という、伝票を発行する方法を学びます。このような書き表し方を「仕訳」といいます。

様々な取引を「仕訳」という共通言語に「翻訳」する。簿記3級取得者は「翻訳者」とも言えます。

では、「2級」はどうでしょう。

「3級より難しいだけじゃないの?」

いえいえ。たしかに2級は、3級で学ぶ「商業簿記」を深く掘り下げます。しかし、それだけではありません。試験科目に「工業簿記」が加わり、学習の幅が大きく広がるのです。2級の真髄は、この「工業簿記」にあります。

翻訳者からアナリストへ

2級の工業簿記で学ぶのは「分析」です。

「予定より、売上が減ったのはなぜ? 」

商品の単価が下がったのか。販売個数が減ったのか。それとも、商品の売上構成比が変わったのか。要因ごとに分析し、影響を数値で捉える。工業簿記ではこれを「差異分析」といいます。

差異分析ボックス(筆者作成)

差異分析ボックス(筆者作成)

差異分析は、言い換えると、

「理想と現実の差を把握し、原因を究明すること」

です。この手法を、徹底的に学習するのが簿記2級の工業簿記です。

PDCA(※1)で最も大切な「C」。現状を把握し、原因を分析する能力を獲得している。つまり簿記2級取得者は、「アナリスト」とも言えます。

アナリストから経営参謀へ

差異分析は「過去」の結果分析でした。参謀の能力で、より重要なのは「将来」の意思決定です。2級の工業簿記では、意思決定の手法も学習します。その代表的なものが「損益分岐点分析」です。

「この製品は社内で作るか。それとも外発注するか」

こういったときに、損益分岐点分析が役立ちます。

「製造量がXX個を超えるのであれば、社内で作ろう」

と、条件を考慮した意思決定ができるようになります。

過去の分析。将来の意思決定。これらができる人物は、経営の「参謀」に他なりません。簿記2級を取得することは、経営参謀へのスタートラインに立つことなのです。

工場の参謀

筆者が企業に勤めていた頃の上司は、「工場の参謀」と呼ばれる人物でした。

高校を卒業後入社。配属先の工場で工業簿記を習得。本社スタッフ部門に異動してからは、工業簿記を活用した鋭い分析と、わかりやすい説明が評判になり、経営層から様々な相談が持ち込まれることに。

「このビジネス誌の記事を解説してほしい」
「X社で導入している手法は、なぜウチで使えないのか」

などなど。的確に答える様子は、まさに「参謀」です。

ある日、月次の経営会議で、1人の役員が発言しました。

「最近、社内でアルバイト社員を、見かけることが増えた。そのせいか、前月に比べ人件費が大幅に増加している。アルバイトを減らし、できることは社内で行うべきではないか」

製造現場の課長たちは凍りつきました。すでに多くの作業をアルバイトに移管済み。それらが社員の手元に戻ってきたら、生産計画が大幅に狂ってしまう…。

そこで、反論したのは私の上司です。

「アルバイトの増員は、売上増に貢献している」

と。続く説明は「分析」と「意思決定」そのものでした。

Arek Socha/Pixabay

アルバイトの増員は、社員が行っていた”補助業務”を行ってもらうためのもの。社員の売上は、時給換算で5,000円程度。対して、アルバイトの時給は1,000円弱。つまり、アルバイトへの作業移管により、1時間あたり4,000円程度の収益増となっている、と「分析」(※2)。

“補助業務”を社員が行うと、大きな機会損失(※3)が発生する。よって、“補助業務”は現状通り、アルバイトに行ってもらうべき、という「意思決定」。

幸い、役員には納得いただけました。上司の行った、人件費増の要因「分析」、その結果に基づく「意思決定」提案が奏功したわけです。

もし、この役員の意見を通し、アルバイトを削減していたらどうなっていたか。社員の時間が補助業務にとられ、引き合いのあった仕事を断らなければならず、収益減を招いていたかもしれません。

思いつきで、発言したり、指示したりする経営者は少なくありません。こういった経営者に助言を与え、軌道修正を促す「参謀」。企業にとって貴重な存在なのです。

簿記2級のコスト

ビジネスマンを経営「参謀」化する簿記2級。費用や学習期間はどのくらい必要でしょうか。

・費用(学校など)は7~8万円程度

・学習期間は、簿記3級取得者レベルで3ヶ月程度
(簿記未経験者は4~5ヶ月程度)

・合格率は25%前後(※4)

コストパフォーマンスは、非常に高いと言えるでしょう。

学校のすすめ

以前の記事「2021年!簿記3級が『ビジネス系最強資格』である理由」にて、簿記3級の取得には、資格学校の活用をおすすめしました。初学者にありがちな「取っつきにくさ」を緩和できるうえ、費用が安いからです。

簿記2級においても、資格学校活用をおすすめします。理解しやすく、記憶が定着するからです。特に、工業簿記の講義で使う、独特の「図」は、理解を大きく助けてくれます。

2級と3級を同時に学ぶコースもあるようです。簿記未経験の方は、検討してみてはいかがでしょうか。

トップを支える人材に

簿記2級を獲得した後は、経営企画部門などへの異動を希望しても良いでしょう。また、転職・就職活動の際は、

「簿記2級で、分析・意思決定能力を高めました」

と、アピールすることをおすすめします。多様な部門で活躍できる印象を与えられるはずです。

少ないコストで、ビジネススキルを最強化できる簿記2級。ぜひチャレンジし、経営「参謀」となっていただきたいと思います。

[ 参考・備考 ]

本稿では、「簿記2級」を日商簿記2級(日本商工会議所簿記検定試験2級)とします。

※1 PDCA
Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善

※2 時給等金額は、わかりやすく変更しています

※3 機会損失
代替案のうち、1つを選択したことにより発生する最大の逸失利益

※4 費用、合格率
2級合格本科生 | 簿記|資格の学校TAC[タック]
簿記 2級受験者データ | 商工会議所の検定試験

2級は受験回により、合格率が大きく変動します