東京都はなぜ「重症病床数」で嘘をついたのか

池田 信夫

緊急事態宣言が6府県で先行解除され、東京都で3月7日から延長するかどうかが焦点になっている。小池都知事は延長したいようだが、東京のきょうの陽性者数は232人。緊急事態の基準である500人を大幅に下回る。問題は病床使用率である。

次の図は2月15日のアゴラの記事で紹介した緊急事態宣言の6条件についてのNHKの表だが、東京都の「重症使用率103%」という数字が目を引く。これは素直に読むと「重症者の数が重症病床を上回っている」という意味だから、それが事実なら収容しきれない重症者があふれるはずだが、東京都の統計では今まで病床使用率が100%を超えたことはない。

緊急事態宣言の6条件(厚労省発表)

私も変だなと思ったのだが、楊井人文氏の記事でその原因がわかった。厚労省と東京都の「重症者」の定義が食い違っているのだ

A. 人工呼吸器(ECMOを含む)を装着した患者数
B. ICUで管理する患者数

とすると、国の基準ではA+B(重複あり)に対応するのが重症病床数だが、都の基準ではAだけなので、病床使用率に大きな食い違いが出ている。次の表でわかるように、たとえば1月19日の重症者数は、国の基準(A+B)だと535人だが、都の基準(Aだけ)だと155人である。これに対して病床使用率の分母となる確保病床数は一貫して500床と都が国に報告したので、厚労省の統計では病床使用率が100%を超えた。

楊井氏の表

このような食い違いが出た原因は、都が国に対して確保病床数を過少に報告していたからだ。これについて楊井氏の取材に対して厚労省は「以前から東京都には国基準の病床数を報告するよう求めていた」と答えたが、都は何も答えず、2月26日になって国に報告する確保病床数を500床から1000床に増やし、病床使用率は33%に激減した

1月から1000床だったとすると、病床使用率はピークの1月26日でも56.7%ということになるが、この500とか1000という数字も切りがよすぎ、昨年の11月から変わっていないので信用できない。民間の調査では、東京には人工呼吸器が3000台以上あり、それを取り扱う技師も1600人いるので、58人の重症患者数は、緊急事態とはいえない。

人工呼吸器の使用者数(ECMOネット)

楊井氏も指摘するように、昨年8月からこの数字の食い違いはわかっており、NHKでも報道されていたので、都が知らなかったとは考えられない。厚労省は知っていたが、正確な病床数を報告するよう求めても都は修正しなかった。なぜ東京都は国に対して、このように重症病床数を過少報告し続けたのだろうか。

その一つの原因は、都がA(人工呼吸器)の基準で重症者に対応しており、B(ICU病床数)の全体数を把握していないためだと思われる。それ自体はやむをえないが、一貫して500床と過少報告したのは、小池都知事がマスコミに「重症患者があふれている」と報道させるために、意図的に食い違いを放置したのではないか。

NHKと日経新聞はこの誤った数字を表にして毎日更新し、政府のコロナ分科会も厚労省の誤った数字をもとに、2月6日で終わる予定だった緊急事態宣言を延長したものと思われる。このように「粉飾」された病床使用率をもとにした緊急事態宣言は誤りであり、2月の延長にも根拠はなかった。こんな非科学的な規制は3月7日でやめるべきだ。

ご意見はアゴラサロンへ(今月末まで無料)。