価値の源泉
先日イーロン・マスク氏がテスラモーターズを通してビットコインに投資し、その後価格は乱高下した。
これを含め、新型コロナ下で仮想通貨(暗号通貨)が注目を集めている中、その位置付けについて以下に考察した。
法定通貨は、信用創造や中央銀行制度、最近では新型コロナに伴う巨大赤字、MMT(現在貨幣理論)のような込み入った問題は在れども、基本的には国家の経済システムと徴税権を担保に価値を認められている。
翻って仮想通貨は、何を根拠に価値を認められているのか?
前述の法定通貨のような担保を持たず、人々の共同幻想のみではないのか? と言う気もしてくる。
あるいは、仮想通貨は金(ゴールド)のような物かも知れない。筆者は、ものの価値とは以下の数式で決まると考えている。
価値 = ①希少性 × ( ②機能性 + ③審美性 )
ゴールドについては、採掘量が限られている事により相応の希少性があり、工業製品に使われる点等で機能性、文字通りの輝きにより審美性がある。
その他に、例えば松永弾正(久秀)が爆死した際に道連れにしたと言われる「平蜘蛛の茶釜」は、陶器の逸品と言う点で希少性、茶釜としての機能性、審美性が備わっていたからこそ、信長初め戦国武将を魅了しその運命を翻弄した。
さて、仮想通貨について考えてみると、①の希少性については、ビットコインなどは新規通貨発行に当たる発掘(マイニング)の難易度が高い点や上限が限られている点で担保され、③の審美性については、少なくともゴールドのような直感的なものはなく、あるとしてもそのアルゴリズムに美しさを感じるような理系の一部の人々にしか訴求しない。
問題は、②の機能性である。
当然ながら仮想通貨には、ゴールドのような工業製品に使われるような機能性は備わっていない。
仮想通貨の場合
一方、仮想通貨は特に政情不安定な地域に於ける保管性、流通性、移動性、運搬性が優れていると言われる。
エコノミストで投資家のEmin Yurumazu (エミンユルマズ)氏は、次のようにいう。
最近ルービニ教授がまた激しくビットコインを批判しています。ユーティリティつまり用途がないただの投機ビークルと言っていますけど、ビットコインには立派なユーティリティがあります。独裁国家からお金を逃すのと裏取引に使うという立派な用途です。 (Emin Yurumazu (エミンユルマズ) @yurumazu 2月18日)
米中新冷戦は逃げ道、迂回先、バッファー、中間地点をたくさん必要とします。これらにはドルを使えません。ビットコインのような決済手段が必要です。米ソ冷戦の時も様々な迂回先が存在していました。 (Emin Yurumazu (エミンユルマズ) @yurumazu 2月18日)
仮想通貨の機能性とは、砂漠で水を運ぶバケツのようなものかも知れない。しかし水そのものではない。この点が水そのものに近い法定通貨や、ゴールドや平蜘蛛の茶釜のような多少の他の機能を持ったものと決定的に違う点である。
その代わり、保管性、流通性、移動性、運搬性の言わば「バケツとしての機能」が格段に高い。
以上、それぞれの特性を纏めると下記のような事かと思われる。
法定通貨: 希少性△ バケツ機能○ その他の機能性× 審美性×
ゴールド: 希少性○ バケツ機能○ その他の機能性○ 審美性○
平蜘蛛の茶釜:希少性◎ バケツ機能△ その他の機能性△ 審美性◎
仮想通貨: 希少性○ バケツ機能◎ その他の機能性× 審美性×
但し仮想通貨には、足場が弱い事による価額の不安定性、マネーロンダリングへの使われ易さ、インターネット、コンピュータネットワークが壊滅的な障害を受けた場合の究極のリスク、各国当局によるものや国際的な規制、ビル・ゲイツ氏も苦言を呈するマイニングに膨大な電力を伴う事への逆風等の問題もある。
法定通貨、ゴールド、仮想通貨の何れの価値も、新型コロナ、米中覇権戦争、各国巨大財政赤字、大量通貨発行、地球温暖化説への対応等に左右される。
そんな中で、昨今はゴールドと仮想通貨がライバル関係のような風情も出てきた。何れにしても投資・投機については情勢を読みつつ、それぞれの特性を踏まえた考察の上で行う必要があるだろう。
<参考文献>
■ビットコインはやはりバブルか?怪しい高騰の背景に「従来とは異なる事情」
鈴木貴博:百年コンサルティング代表
経済・政治 今週もナナメに考えた 鈴木貴博
2021.2.26 4:25
■ビットコインを採掘しつくした時、何が起こるのか?
GARETH JENKINSON
2018年05月07日 / 13:18
■ビットコインの発行上限2100万は不変なのか? 1800万が発行され、残りは15%を切った
2019年 10月 29日 06:00