5日からローマ教皇初のイラク訪問

ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は5日から8日まで4日間の日程でイラクを訪問する。教皇歴史でイラク訪問は今回が初めて。フセイン政権の崩壊、イラク紛争、イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」(IS)の破壊活動などもあってイラク国内は依然、政権の安定からは程遠い。国内の少数派キリスト教信者たちは迫害を受け、祖国から逃亡し、信者の数は激減している。

▲フランシスコ教皇訪問の看板を背にするイラクのキリスト信者たち(バチカンニュース2021年2月23日から)

バチカンが公表した教皇のイラク訪問日程は以下の通りだ。

5日午後、バグダード国際空港に到着すると、イラクの政府関係者、大統領らによる歓迎式典に参加。6日に同国中南部のナジャフに飛び、そこでイラクのイスラム教シーア派の精神的指導者アル・アリ・シスターニー師と会見。そこからナーシリーヤに飛び、超教派代表と会見、同日午後にバグダードに戻り、カルデアの聖ヨセフ大聖堂で記念礼拝。7日にイラク北部クルド人自治区の都市アルビールを訪問。クルド自治区政府関係者による歓迎式典に参加。同日午後、アルビールのフランソ・ハリーリースタジアム(Franso Hariri Stadion)で記念礼拝、7日午前、バグダードからローマに。

バビロニア総大司教(カルデア典礼カトリック教会)のルイス・ラファエル1世・サコ枢機卿はイタリア日刊紙とのインタビューの中で、「ローマ教皇のイラク訪問は中東地域に希望のシグナルを発信することになる」と、教皇初のイラク訪問の意義を強調している。

イラクには20年前、約160万人のキリスト教信者がいたが、現在は50万人に激減し、多くはレバノン、ヨルダン、トルコに逃げ、そこからカナダや米国に渡った。彼らは戻ってこないという(サコ枢機卿)。イラクのキリスト教の拠点だった同国北部のモスル市では、キリスト者たちは拉致されたり、殺されたりした。フランシスコ教皇は当時、「イラク教会の兄弟姉妹は迫害され、虐殺されている」と指摘、国際社会に中東地域のキリスト者の権利の保護を訴えた。バチカン関係者によると、「イラクで進行中のキリスト信者への迫害は2000年のキリスト教史の中でも最悪の状況だ」という。「(「キリスト者1億人以上が弾圧下に」2015年8月3日参考)。

カルデア典礼カトリック教会のエルビル大司教区のバッシャー・ワルダ大司教は、「ローマ教皇のイラク訪問を通じて、イラクにキリスト教信者たちがいることを明らかにしたい。キリスト教信者はイラクのゲストではなく、久しくそこに住んできた人々である、という認識を深めていきたい」と述べている。

イラクではフセイン政権時代から政権中枢部にキリスト教信者たちが入っていた。例えば、タレク・アジズ副首相もカルデア典礼のカトリック信者だった。それがイスラム根本主義勢力、国際テロリスト、トルコ系過激愛国主義者による迫害でキリスト教信者たちは激減していったわけだ。フランシスコ教皇のイラク訪問は中東のキリスト教信者たちを鼓舞する狙いがあるはずだ。

サコ枢機卿は、「フランシスコ教皇のイラク訪問ではアル・アリ・シスターニー師との会見がハイライトだ。両者の出会いがいい結果をもたらすことを願っている」と語っている。イラクはシーア派が多数を占めている。アル・アリ・シスターニー師はその精神的指導者であり、国民から「平和の使者」といわれ、政権内の腐敗に対しても厳しく批判してきた。同時に、イラク南部のウルでの超教派代表との会見も重要なイベントだ。ウルはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の信仰の祖「アブラハム」の故郷だ。すなわち、キリスト教とイスラム教は共通の父親を有しているわけだ。

サコ枢機卿によると、ローマ教皇のイラク訪問に批判的な根本主義者がいるという。フランシスコ教皇をイラクに宣教にきた「十字軍の王」と受け取っているからだ。その一方、イラクの若者たちはフランシスコ教皇が過去、シリア内戦やイラク紛争で平和をアピールしてきた指導者であり、兄弟姉妹だということを知っているという。

懸念事項はイラクの安全問題だ。テロが発生し、教皇のイラク訪問が土壇場で中断される、といったハプニングは排除できない。テロ問題と共に、新型コロナウイルスの感染問題も深刻だ。バグダードやアルビールではコロナの新規感染者が増加している。教皇の言動も制限されざるを得ない。多くの国民と会い、話したくても実現できない。アルビールのフランソ・ハリーリースタジアムでの記念礼拝では1万人のチケットしか配布されていない。同スタジアムは本来、3万人の収容が可能だ。クルド自治区では自治区政府が教皇訪問を成功させるために1万人余りの治安部隊を動員している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年3月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。