親がいない人はいないわけで早くに亡くした方は別にすれば、一人っ子世代も増え、一般的にはかなりの人が介護を経験することになります。男性81歳、女性87歳という平均年齢を当てはめれば父親に対しては子供が50代から母親には自分が60歳前後から本格的に介護を考えなくてはいけないことになります。
ところが子供の側にするとちょうど人生の転機でもあります。サラリーマンの方であれば定年が見えてくる、あるいは定年がまだ先であっても人生の後半に差し掛かっていることを自他ともに認識する年齢であります。その頃に「親の介護」は肉体的にも精神的にも堪えるものです。
もちろん、介護士さんにお願いするという方法もあります。特養や老人ホームもあります。しかし、全部が全部を投げてしまうわけにもいきません。私は個人的見解としては特養や老人ホームは避けたいと考えています。それはサービスの問題ではなく、施設がまだ元気な人の「気」を吸い取ってしまうからなのです。施設に入居されている方は活気があり、笑顔が溢れているとは言いにくいでしょう。せっかく元気な方もそのような空気に引っ張れ、自分も急激に弱弱しくなることがしばしば起きるのです。
人は周辺環境に影響を受けます。例えば若くて華やいだ人ばかりのところ、あるいは仕事をバリバリする人たちに囲まれ緊張感をもって仕事をしているライフタイムワーカーや創業系の経営者はいつまでたっても元気でいることが多いのです。ところが多くの方は65歳から70歳の間で定年退職となり、特に男性の場合はそこから何かに打ち込むことが難しくなるのです。ハイキングや蕎麦打ちでもよいのですが、毎日行ったりやったりするわけではなく、自己満足の世界であり、ひと様からのご批判を受けながら切磋琢磨するという性質のものでもありません。
むしろ、女性の方が仲間内とああでもない、こうでもないとだべりながら割と「比較の琢磨」をします。つまり、仲間内ながらも頑張ろうという気持ちがあるのです。人生後半になって出てくる女性と男性の圧倒的差です。男性はより内向的になり、頑固になり、女性は子供が独り立ち、結婚し孫ができ、よりのびのびします。男性が一般的に先にご愁傷様となるのもいろいろな理由がありますが、この第4コーナーを回って最後のストレートで伸びを欠くということかと思います。
もっと言えばお父ちゃんが亡くなって余計元気が出るお母さまも割と多く、「現金だなぁ」と思うかもしれませんが、女性からすると案外「せいせいした」と思っている方もいて男も浮かばれません。しかし、女性も仲間内でワイガヤできるのは75歳ぐらいまで。そこからは「腰が痛い」「足が動かない」「億劫ね」と仲間がひとり、また一人と脱落していくのです。そして80代になれば女性の活力の源であった仲間との交際もぐっと減り、家でじっとすることが否が応でも増えるのです。
さて、介護を意識し始めるのもこの頃。家の中の段差をバリアフリーにする、介護ができるベッドにするといった介護仕様にするとその一時費用は平均80万円を超えるとされます。一部保険でカバーされますが、それでも結構な出費です。そして要介護となれば介護士さんへの支払いがあります。日本は介護保険があるので1割負担といった少額で済み、平均は月に4万円とあります。他国は知りませんが、カナダは介護保険なるものはないのでこの10倍、つまり、40万円(5000カナダドル)が月にかかるということになります。
老後の生活費2000万円という話が以前ありました。自分の親にお金があればいいけれど介護代も子供が負担するとなれば目も当てられない現実が迫ります。
とすればそんな余力はないからなるべく自分で介護し、できないところだけ介護士さんにお願いするという感じが多いかと思います。残念なことに初めは週に1-2回、短い時間だけの介護サービスもだんだん時間が伸び、回数も増え、というのは確実なのが実情でどうやっても経済的負担は重くのしかかるようになってます。まさか週7日、自分でずっと介護となれば自分のライフを犠牲にします。特に親御さんが認知症となった場合には目が離せなくなり、ストレスがたまり、ただでさえ薄くなった髪がもっと抜けてしまいます。
私が以前から不思議だと思っているのは介護ホテルがまだ普及していないことです。日本にはあるにはあるのですが、まだ全然普及レベルに達していません。私はホテルというより週に2-3日だけお願いできる介護付き宿泊施設が街中に必要だと思っています。高齢化と人口減が進む日本において活力を保つには元気な人が社会でなるべく長く活躍できる仕組みが必要です。
一方、介護にかさむ費用は大きなものです。ある資料によると要介護3の場合、自宅介護なら月62000円、特養で135000円、有料老人ホームで約30万円です。経済的には自宅介護がベストですが、それは誰か家族が面倒を見ている結果であるとも言えます。自宅介護は私もベストチョイスだと思いますし、自分なら死ぬまで家でいられるのが一番幸せだと思います。
ならば介護者である家族の負担を軽くする介護宿泊施設の普及は今後の高齢化社会において日本だけではなくカナダを含むどの国も必要になってくると考えています。
介護を金銭的にも肉体的にも精神的にも軽くする方法を考える、これが案外、最優先で求められる課題かもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年3月3日の記事より転載させていただきました。