チェコが中国共産党政権に中国国家医薬集団「シノファーム」(Sinopharm)の新型コロナウイルスへのワクチン支援を要請、という外電が3日報じられた。在中のチェコ大使館関係者によると、中国政府はチェコの要請を快諾したという。チェコは2月末、新型コロナ感染予防のワクチンを中国とロシアから輸入すると発表している。
チェコ(人口約1100万人)では3日、新規感染者数は1万6642人で、過去7日間で人口10万人当たりの新規感染者数は780人だ。パンデミック以来、累積感染者数は約130万人、2万941人が亡くなっている。同国保健省の発表では現時点で8162人が病院で治療を受けている。その数字はパンデミック以来の最高値だ。そのうち、1660人の患者は人工呼吸器の助けを必要としているという。
ヤン・ハマーチェク内相によると、チェコは緊急シナリオを実施中で、加盟国に医療支援を要請した。ドイツは19人の患者を受け入れて、スイスは医療飛行機を派遣して20人の患者の受け入れ、ポーランドでは約200人のベットをチェコ患者用に準備しているという。チェコ保健省は家庭医や救援医療員に対し病院の治療に従事することを義務付けるという。
一方、同国第2の都市ブルノ市の大学病院では医療薬品としてまだ認知されていない医薬品駆虫薬イベルメクチンがコロナ治療に使用されている。アンドレイ・バビシュ首相は「臨床試験の結果を待っている時間がない。とにかく試みる以外にない」と述べている。
チェコでは昨年3月の第1封鎖と同様、不要不急の外出は禁止され、食料品の買い物、職場に行く時、病院に通う時だけ外出が出来る。全ての営業は停止・閉鎖され、食料品店、薬局、医療関連施設だけがオープン。昨年10月12日、新型コロナウイルス感染拡大防止のための法律に基づき、公共の場の飲酒、飲食店の営業などを禁止する措置を導入した。それでも新規感染者の増加をストップできない為、同国全土を対象とした第2のロックダウンを実施しているわけだ。
バビシュ首相は感染急増現象について、「狂ったように増え続けている」と表現していたほどだ。チェコは第1波の新型コロナ感染ではいち早くマスクの着用を実施するなど、イスラエルなどと共に短期間に感染を抑えることに成功し、欧州でも新型コロナ対策では高く評価されてきたが、その後、欧州で最も感染が急増する国になってしまった。
ところで、チェコでは中国武漢発新型コロナ感染が発生して以来、国内で反中傾向が見られる。同国のミロシュ・ビストルチル上院議長が8月末から9月5日にかけ台湾を訪問し、中国から激しい批判だけではなく経済制裁を受けた。台湾から招請されたヤロスラフ・クベラ前上院議長が不審な急死を遂げ、事件の背景についてメディアでも大きく報道された(「中欧チェコの毅然とした対中政策」2020年8月10日参考)。
そのチェコで中国製ワクチンの輸入要請という話を聞いて、同国のコロナ禍の深刻さが理解できた。中国共産党政権に対し批判的なチェコがコロナ予防のためにブリュッセルからのワクチン供給を待っていることは出来ない、と判断して急遽、中国製ワクチン輸入となったわけだ。
ちなみに、欧州連合(EU)では、オルバン政権のハンガリーは既にロシア製ワクチンの輸入を実施中だ。オーストリア政府も中露両国からのワクチン輸入を検討している、といった具合だ。ハンガリー国民の間にはロシア製ワクチンの接種に抵抗感が強い。EUのワクチン供給計画が遅滞し、ドイツやオーストリアでは人口の4%から5%程度の接種が完了した程度で、国民の間からブリュッセルの行政能力を疑う声が高まってきている。オーストリアのクルツ政権は、デンマークとイスラエルとの連携でワクチン製造に乗り出す計画を明らかにするなど、ワクチン確保でブリュッセル任せではなく、自主的に模索する動きが加盟国で出てきている。
蛇足だが、当方が住むオーストリアでも中国製マスク、コロナ検査キットが溢れている。同国で先日、オーストリア製FFP2マスクは実は中国製で、輸入された後に「Made in Austria」に格上げされていた、というスキャンダルがメディアで暴露されたばかりだ。同マスク製造会社がクルツ首相の知人関係者であることから、ひょっとしたら政権を揺り動かす一大事件に発展するかもしれない。
それだけではない。オーストリアでは今月1日から鼻・咽頭から採った抗原検査を加速させるために、薬局で1人当たり月5回分の抗原検査キットが無料で配布されることになった。当方も1日、近くの薬局店で検査キットのパックを貰ってきた。興味深い点は、検査キットの無料配布を表明する記者会見では、クルツ首相はその検査キットが中国製であるという事実を公表していないことだ。しかし、テレビに映る検査キットの入った箱に中国語が書いてあったことから、国民に気前よく無料配布する検査キットが中国製であることはほぼ間違いない(「中国製『検査キット』の正確率は5%」2020年5月7日参考)。
欧州では中国製は「安いが、低品質」というイメージがあるが、その中国製のマスク、検査キット、そしてワクチンを輸入しているわけだ。欧州の医療用品供給チェーンが完全に中国企業に握られているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年3月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。