中国の国会に当たる全人代が5日から約1週間ほど開催されます。その参加者、5000人ともされる政治の一大イベントの今年の最大の焦点は新5か年計画の初年度に当たる点であります。相当強気の計画を承認させ、アメリカを完全に射程距離に置くものと思われます。よって今回の全人代はアメリカを中心とする西側諸国の反応と対抗策の打ち出し方がより重要なポイントになると考えています。
中国が破綻するか、と言えば当面しません。外圧に屈するか、という議論を以前させて頂いたと思いますが、今、世界が一致団結できていない以上、それは不可能。唯一の方法は内部崩壊の可能性を指摘させて頂いたのですが、アントの上場を阻止し、民間企業の出る杭を完全に打ち砕くことを平気でやり遂げた今、完全無敵の状態に見えます。つまり、世界と中国が今後、再びつばぜり合いの戦いを行い、新たな段階に来るまでは歯が立たないとみるのがナチュラルです。心情的に、あるいはバイアストークやポジショントークならいくらでも言えますが、ここでは封印しておきます。
今回の5か年経済対策の最大の投資はチベット鉄道網の整備となりそうです。これだけで5兆円規模となり、中国国内としても過去最大級の投資になります。なぜ、今、チベットなのか、と言えば資源の輸送手段の確保だとみています。チベット地区は中国でも最大級の資源の埋蔵量があるとされ、それを迅速に運搬し、工業利用できるようにすることで輸入に頼らない完全自立型経済に一歩でも近づくことを目指しているとみています。
もう一つ、今回の鉄道網計画には京台高速鉄道の台湾海峡部の建設が含まれる点でしょう。この計画は2035年までに完成ということのようですが、中国にしては悲願の計画です。既に北京から台湾対岸部の内陸部分は完成しており、あとはほぼトンネルだけでありますが、工事は政治的問題、距離のみならず、地震帯があり至難の業とされています。ただ、その恐るべき野望には注目すべきかと思います。
その他カーボンニュートラルを2060年に設定しているため、その方向に舵を切るための方策も数多く出てくると思われます。車両の電動化や発電所の新設など目白押しの計画になるとみています。
問題はこれを受けてアメリカがどう対峙するか、であります。中国とアメリカ、どちらが開発スピードが速いかと言えば中国がはるかに有利であることは自明であります。理由は政治的に押し込められるし、反対意見もなく民主的議論をする必要もなく、やると言ったら驀進させるだけだからです。アメリカや日本を含め西側諸国は民主的プロセスがこの5-10年でとみに長くなり、環境問題やアセス、当局との調整など莫大な時間とコストがかかることでスピードに関しては勝機はないと断言してよいでしょう。
また、中国は過去数十年、あらゆる国から技術、ノウハウ、知識、資金、人材などを投入し、三顧の礼で迎い入れ、用が無くなったらポイ捨てをしてきました。問題はいつの間にか、自立できるだけの十分なノウハウを確保し、更に若者はアメリカなどに留学し、研究し、その情報が中国に筒抜けとなっている事実であります。トランプ氏が中国との断絶を求めたのはある意味正しいのですが、遅かったのかもしれません。バイデン氏に至っては予想通りの煮え切らないスタンスになりそうです。
アメリカとしては何をどうしたいのか、覇権を握り続けるには何をしなくてはいけないのか、はっきりした姿勢を見せることが大切です。規模の経済で考えた場合、かつての米ソ対立と全く同じ状況に陥りつつあり、地球規模の二極化を招く公算はあると思います。一点、気を付けなければならないのはアメリカがいくら欧州や日本、オーストラリアなど同盟国とタイアップしたところで地球ベースの潜在経済規模からすれば途上国の方がはるかに上をいくわけでその取り込みをしないと勝てないのです。
アフリカ諸国、ブラジル、ロシア、一部東南アジア諸国、それにインドと対峙するためにバングラディッシュとパキスタンを取り込む政策は手に取るように見えています。とすればアメリカがまずやらねばならないことは世界の覇権へ再度、舵を切る、そして自国で全部できないので同盟国にそれをやってもらうという分業をするしかないとみています。ただ、アメリカはもう自国だけでリードする力を無くしつつあるように見えます。よって同盟諸国がより自律的かつ機動的に動くことが望まれます。
例えば日本なら東南アジア諸国及びインドでしょう。そこを抑えるためには日本はオーストラリアとより強固な連携を行い、資源の安定供給などのパイプを確保することが大切です。また、日本は嫌いかもしれませんが、ロシアを取り込んでおいた方が良いと考えています。北方領土はいったん横に置いておき、ロシアと北海道、本州を結ぶパイプラインの敷設はありだと思います。最終的にはこの争いはロシアがキーになるからです。
技術やノウハウの囲い込みはあまりやりたくないとは思いますが、戦略的に必要になる気がしています。一方、日本人はお金ですぐに魂を売る人が多いのでこの辺りの在り方について厳格な対策を練っておく必要があると考えています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年3月5日の記事より転載させていただきました。