桜の開花予想はどうやって行うのか

ずいぶん春らしい日が増えてきました。梅に続いて、そろそろ桜の開花も近づいてきています。

この時期、民間気象会社がこぞって出す桜の開花予想。2021年は平年よりも早く、九州や四国、関東地方などでは3月中旬に開花するという予報が出されていますね。桜の開花予想はどのようにして出すのでしょうか。

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まずは桜の花がどのようにして咲くかについて説明します。桜の開花のしくみも、花粉症をもたらすスギの開花と同じです。前年の夏には花芽が形成されるのですが、晩秋から初冬あたりで花芽は成長を止めて休眠に入ります。その休眠を打破するのは真冬の寒さです。その後、気温が上昇するにつれて花芽は再び成長します。つまり、開花するには冬の寒さとその後の暖かさが欠かせません。

2020年の年末から2021年の年始にかけては、厳しい寒さで休眠が十分に打破されたと考えられます。そして、1月下旬ごろからは平年よりも高い気温傾向となっているので、花芽は順調に成長しているはずです。このことが早めの桜の開花予想となっているようです。

なお、個人でもある程度は開花の時期を予想をすることができます。桜の開花には2月1日からの日々の平均気温を足して、400℃を超えると桜が開花するという「400℃の法則」や、2月1日からの日々の最高気温を足して600℃になる頃に桜が開花するという「600℃の法則」というものがあるからです。なお、これらの法則については、400℃や600℃を超えた日に必ず咲くほどの精度の高さはなく、1~3日程度の誤差があるようです。

気象会社はこれよりもさらに精度の高い予想をするための独自の計算式を使っていますが、気象会社の発表する桜の開花予想を行うのは、あくまで地域ごとだったり、有名な桜の名所についてだったりします。その場所の気温は日当たりなどによって変わってくるので、自宅の庭や近所の小さな公園に植えられた桜がいつ咲くのかを知りたいのなら、そこの毎日の気温を記録し、法則に従って開花日を予想したほうがかえって精度が高くなるかもしれませんね。

しかしなぜ、桜の開花時期はこんなにも厳密に予想できるのでしょうか。それは、現在「桜」と聞いてまず頭に思い浮かぶソメイヨシノという品種が、すべて同じ遺伝子を持つクローンだからです。ソメイヨシノは種ではなく、挿し木や接ぎ木などで個体数を増やすので、遺伝子がすべて同じなのです。ほぼ同時にパッと咲いてパッと散る。子どものころから当たり前だと思ってきたこのような風景は、クローンのなせるわざということですね。

ちなみに、「桜が開花した」という気象庁の発表は、気象庁の職員が目で確かめてから行います。気象庁が定めた標本木で5~6輪以上の花が開いた状態となった最初の日がその地方の桜の開花日となるのです。そして、満開日とは、標本木で約 80%以上のつぼみが開いた状態となった最初の日をいいます。特に東京の標本木は靖国神社の中にあり、気象庁の職員が標本木を見て「開花しました」と宣言する様子がよくニュースで報道されます。

このように気象庁の職員が目で見て花が最初に開花した日、動物が初めて確認出来た日などを発表することを「生物季節観測」といいます。桜のほかにも梅の開花やかえでの紅葉、あじさいの開花やうぐいすの初鳴きなどが発表されてきましたが、2021年からはこの生物季節観測が大幅に縮小されて、発表される項目が少なくなりました。さくらの開花は今後も観測が続けられますが、動物の観測はなくなってしまいます。

生物季節観測は、季節の移ろいを知るのにも役立ちますが、気候変動の影響で、動植物の行動がどのように変化するのかを知る手掛かりにもなります。民間で継続していけるしくみづくりが確立されるよう、私も何らかの形で協力していきたいと思っています。