なぜポルトガル政府はマドリードとリスボンを繋ぐ高速列車に関心がないのか

時速350キロの高速列車がガリシア地方に繋がっていない

スペインのガリシア地方と言っても日本ではあまり馴染のない地方だ。アパレルのサラ(ZARA スペイン語ではサラが正しい発音)が誕生した地方で、また世界的に有名な巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステラが所在している地方だと言えば少し関心を抱くかもしれない。また、地理的にはポルトガルの真上に位置している地方だ。

ガリシア地方 Wikipediaより

このガリシア地方(自治州)とポルトガルとの間で高速列車を走らす計画を模索している。もともと、歴史的にも11世紀にはポルトガルとガリシア地方はガリシア=ポルトガル王国として一つの国を形成していたという関係の深いところだ。

スペイン政府は20年以上も前からマドリードとポルトガルの首都リスボンを時速350キロの高速列車で繋ぐことを希望してポルトガル政府に打診して来た。この両都市間の距離は625キロ。

スペイン政府はリスボンまで高速列車を走らせれば、開発の遅れているエクステマドゥラ地方の発展にもつながると見ている。実際、同地方の代表都市バダホスを経由してリスボンまで繋ぐ高速列車の建設を構想している。

全く関心を示さないポルトガル政府の野心

ところが、それに全く関心を示さないのがポルトガル政府である。なぜか? 理由はマドリードからだとリスボンまで飛行機で1時間で行ける。わざわざ高速列車で行く必要はない。しかも、仮にそれができたとしてもその路線間にある都市からリスボンまで行こうとする乗客は殆どいないということなのである。

リスボン・オリエンテ駅 Wikipediaより

その一方で、ポルトガル政府が関心を寄せているのが、リスボンから第2都市ポルトを経由してガリシア地方の都市ビゴを結ぶ高速列車を走らすことである。

ポルトガル政府のインフラ相ペドロ・ヌノ・サントス氏はポルトガルの北部の出身者で幼少の頃から青年期にかけて夏休暇はガリシア地方のサンシェンショで過ごしていた、とガリシア紙『La Voz de Galicia』(2020年11月1日付)のインタビューの中で語っている。

また同氏はEUからの開発援助資金を利用してリスボン-ポルト-ビゴを繋ぐ高速列車を走らすことが最優先事項となっている、とインタビューの中で語った。これによってポルトとビゴ間がこれまでの2時間から僅か55分で結ばれることになる、と指摘した。更に彼は「ガリシアはスペインの地方であるが、経済的そしてセンチメンタル的にもポルトガルと深い繋がりがある。それが高速列車によって国境を越えて双方の生活も改善されることになる」と語った。

この3都市間を結ぶための投資としてポルトガル政府は430億ユーロ(5兆1600億円)の投資を見込んでいるそうだ。2029年までに完成させて2030年には運行させたいとインタビューの中で明らかにした。

現在リスボンとポルト間は時速220キロの列車アルファ・ペンドゥラールが運行しており、所要時間は3時間となっている。それを時速350キロの高速列車で1時間15分の所要時間まで短縮することを計画している。ということで、リスボンからポルトを経由してビゴまでをこれまで5時間かかっていたのを2時間で結ぼうとする計画である。

ガリシア州のアルベルト・ヌニェス・フェイホー州知事も、この構想に強い関心を示している。2018年7月に同氏がリスボンを訪問した時も「リスボンは政治の中心である。ポルトガルの他の地域にも我々との関係を結び付けるようにしなければならない」と述べて、ガリシア州はポルトガルの全域との関係を拡げて行きたいことを表明したことがスペイン電子紙『El Diario.es』(2018年7月3日付)に掲載されている。

フェイホー州知事は将来のガリシア州の経済的発展にはスペインよりも寧ろポルトガルとの関係を強化する必要があると見ているのである。