米雇用統計:黒人の失業率は上昇、高学歴の労働参加率は低下と課題残す

米2月雇用統計は、非常業部門就労者数(NFP)が予想外の急増を遂げました。しかし、その約9割は娯楽・宿泊が占め、そのうち8割は飲食業でしたよね。いまさらですが、業種別の平均時給を始め、人種や学歴別などでどのような結果になったのか、詳しく見てみましょう。

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〇業種別、生産労働者・非管理職部門の平均時給

生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.2%上昇の25.19ドルドル。前年比では5.1%上昇し、管理職を含めた全体に届かなかった。業種別を前月比でみると、以下の通り。平均時給の伸び0.2%を上回ったのは、13業種中で6業種となり、前月の8業種を下回った。最も雇用が伸びた娯楽・宿泊が同様に平均時給の伸びが1.3%、次いで専門サービスと公益(それぞれ0.6%)、教育・健康と情報(0.4%)、その他サービス(0.3%)となった。一方で、油価がコロナ直前の水準を回復したにも関わらず、鉱業が0.2下落したほか、経済活動再開が影響した輸送・倉庫に加え、小売(マイナス0.2%)がそれぞれ弱かった。

チャート:業種別、前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額

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(作成:My Big Apple NY)

〇労働参加率

働き盛りの男性(25~54歳)の労働参加率は、まちまち。25~54歳の白人が4ヵ月ぶりの水準を回復した半面、25~54歳は低下した。特に若い世代が伸び悩み、25~34歳は3ヵ月ぶりの低水準。25~34歳の白人は横ばいだったため、非白人で低下したとみられる。全米の男性は季節調整済み、白人は季節調整前の数字で以下の通り。

・25~54歳 87.5%<前月は87.7%、6ヵ月平均は87.6%
・25~54歳(白人) 88.9%、4ヵ月ぶりの水準を回復>前月は88.7%、6ヵ月平均は88.9%
・25~34歳 86.8%、3ヵ月ぶりの低水準<前月は87.1%、6ヵ月平均は87.0%
・25~34歳(白人) 88.3%、前月に続き20年7月以来の低水準=前月は88.3%、6ヵ月平均は88.6%

チャート:働き盛りの男性、労働参加率

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(作成:My Big Apple NY)

働き盛りの女性の労働参加率は24~54歳、25~34歳ともに改善した。

・25~54歳 74.9%、6ヵ月ぶりの水準を回復>前月は74.8%、6ヵ月平均は74.7%
・25~34歳 75.3%、4ヵ月ぶりの水準を回復>前月は75.2%、6ヵ月平均は75.1%

〇縁辺労働者

縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は前月比で0.3%減の693.3万人(男性は332.3万人、女性は361.0万人)。過去最多をつけた20年4月でピークアウトしたとはいえ、7ヵ月連続で700万台を挟んだ推移となる。1月に続き女性が男性を上回っただけでなく、男性は前月比1.7%減と3ヵ月連続で減少した一方で、女性は1.0%増と過去4ヵ月間で3回目の増加となった。労働市場の需要と供給が引き続きマッチせず、雇用が進まない状況を表す。

チャート:就職を望む非労働力人口

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(作成:My Big Apple NY)

〇人種別の労働参加率、失業率

人種別の労働参加率は、ヒスパニック系のみ上昇し3ヵ月ぶりの水準を回復した。白人は横ばい。黒人とアジア系は低下し、特にアジア系は前月から6ポイントも低下した。

・白人 61.4%、20年5月以来の低水準=前月は61.4%、6ヵ月平均は61.6%
・黒人 60.1%<前月は60.3%と20年3月の高水準、6ヵ月平均は60.1%
・ヒスパニック 65.4%>前月は65.0%と6ヵ月ぶりの低水準、6ヵ月平均は65.3%
・アジア系 62.2%>前月は62.8%と3ヵ月ぶりの水準を回復、6ヵ月平均は62.7%
・全米 61.4%、20年9月以来の低水準=前月は61.4%、6ヵ月平均は61.5%

チャート:人種別の労働参加率

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(作成:My Big Apple NY)

人種別の失業率は、全体的に低下し、特にアジア系は労働参加率の低下を背景に前月から1.5ポイントも急低下した。ただし、労働参加率が低下したにも関わらず黒人のみ上昇。黒人の失業率は1月に20年3月以来の水準を回復したが、当時の低下分を相殺し20年12月の水準へ戻した。

・白人 5.6%、20年3月以来の低水準<前月は5.7%、6ヵ月平均は6.2%
・黒人 9.9%>前月は9.2%と20年3月以来の低水準、6ヵ月平均は10.7%
・ヒスパニック 8.5%、20年3月以来の低水準<前月は8.6%、6ヵ月平均は9.2%
・アジア系 5.1%<前月は6.6%と20年3月以来の低水準、6ヵ月平均は7.3%
・全米 6.2%、20年3月以来の低水準<前月は6.3%、6ヵ月平均は7.0%

チャート:黒人の失業率のみ上昇し、白人との格差は過去2ヵ月間の4%割れから4.3%へ戻す

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(作成:My Big Apple NY)

〇学歴別の労働参加率、失業率

学歴別の労働参加率は概して低下。中卒以下が1ポイントも上昇した半面、高卒と大卒はそろって20年4月以来の水準へ低下した。NFPで低賃金職である娯楽・宿泊が全体の伸びの約9割を占めたように、同業種以外の職で雇用増加が限定的な様子が伺える。

・中卒以下 45.9%、4ヵ月ぶりを回復>前月は44.9%、6ヵ月平均は45.2%
・高卒 54.7%、20年4月以来の低水準<前月は55.2%、6ヵ月平均は55.3%
・大卒以上 71.8%、20年4月以来の低水準<前月は72.2%、6ヵ月平均は72.1%
・全米 61.7%、3月以来の高水準>前月は61.4%、6ヵ月平均は61.5%

学歴別の失業率は、学歴別でまちまち。中卒以下と高卒は上昇、特に中卒は労働参加率の大幅改善を背景に、5ヵ月ぶりの水準へ切り返した。一方で、大卒以上は労働参加率につれて、低下した。失業率=完全失業者÷労働力人口×100であるため、労働参加率の低下つまり労働力人口が小さいほど失業率は低下しやすいだけに、対高賃金職での雇用回復が鈍い可能性を示唆している。

・中卒以下 10.1%、5ヵ月ぶりの水準を回復>前月は9.1%、6ヵ月平均は10.2%
・高卒 7.2%>前月は7.1%と20年3月以来の低水準、6ヵ月平均は7.8%
・大卒以上 3.8%、20年3月以来の低水準に並ぶ<前月は4.0%、6ヵ月平均は4.1%
・大学院卒以上 3.7%、20年3月以来の低水準に並ぶ=前月は3.7%、6ヵ月平均は3.7%
・全米 6.2%、20年3月以来の低水準<前月は6.3%、6ヵ月平均は6.8%

――2月の雇用統計を詳細にみると、①労働参加率は若年層の間で低下傾向、②人種別の失業率は黒人で急伸、ヒスパニック系で労働参加率が改善、③経済活動の再開の影響で娯楽・宿泊の雇用が牽引したように、中卒以下の労働参加率が著しく改善、しかし失業率は上昇、④学歴別では高学歴の労働参加率が低下――といった実態が浮かび上がります。従って、足元の雇用回復はサステナブルでなく、特に高学歴の雇用低迷が米経済に重くのしかかります。

2月にコロナを理由に仕事探しをしなかった人々は、前月比11.9%減の416万人でした。

チャート:コロナを理由に職探ししなかった潜在労働者

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(作成:My Big Apple NY)

大きく減少したように見えますが、コロナ感染者が急増する過程に入りつつあった20年10月の水準以下なんですよね。彼らが仮に労働市場に戻ったとすれば、労働参加率は63%を超え2019年の平均値の63.1%を上回る見通しですが、果たして高賃金職を始めコロナ以前の水準を早々に回復できるのでしょうか?追加経済対策の現金給付が、労働市場に春をもたらすのか否かは、数ヵ月後に判明するのでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年3月11日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。