小児がん:全エキソーム解析で治療法を提供

東日本大震災から10年が経った。10年前の午後9時過ぎには、国道2号線沿いの歩道をトボトボと自宅に向かって歩き続けていた。まるで休日の原宿竹下通りを歩いているような混雑だった。当時、東京大学医科学研究所と内閣官房の医療イノベーション推進室長を併任していたが、その後の民主党政権のひどさに、内閣官房の職を辞し、米国に移り住んだ。私自身も想像していなかったような10年を過ごしたが、被災地の方々はもっともっと大変な日々を過ごしてこられたと思う。依然として故郷に戻れない人たちもたくさんいる。今でも、何もできなかった自分に後悔が残る。

そして、こんな日だからこそ、患者さん、特に、小児がん患者さんに希望のあるニュースを提供したい。少し前だが、Nature Medicineに「Whole genome, transcriptome and methylome profiling enhances actionable target discovery in high-risk pediatric cancer」というタイトルの論文が報告されていた。オーストラリアのグループが報告したもので、冒頭に「The Zero Childhood Cancer Program (Zero Childhood Cancer | Personalised medicine for children with cancer)is a precision medicine program to benefit children with poor-outcome, rare, relapsed or refractory cancer.」予後の悪い稀な再発・転移がんの子供たちを助けるためのプログラムである。

論文には252人の小児がん患者の全ゲノム解析とmRNA解析を行ったとある。解析対象は中枢神経系腫瘍が92名、造血器腫瘍が43名、神経芽腫20名、肉腫が62名、肉腫以外の固形腫瘍35名だった。71.4% に分子標的となるような遺伝子異常が見つかり、5.2%が遺伝子異常から診断名が変わったとあった。16.2%の患者で遺伝的にがんを起こしやすいような変異が見つかっている。遺伝子異常に基づいた分子標的治療薬を投与された43のうち、38人で臨床的な効果が評価されている。この38人中12人で臨床的な効果が確認されている。

70人弱(3-4人に一人)で融合遺伝子が見つかっており、この融合遺伝子のつなぎ目にはネオアンチゲンとなるペプチドが生ずる。特に、肉腫においてこのような融合遺伝子の頻度が多い(約40名)。肉腫では3分の2の患者に融合遺伝子が見つかっている。このような情報があれば、できることがあるはずだが、何もしようとしない日本。

しかし、日本でもできないはずはない。4月から日本でもがん全ゲノム解析が始まる。患者に還元することを掲げているプロジェクトだ。ぜひ、日本でも、希望が生まれ、笑顔を生み出す道筋をつけて欲しいと願っている。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2021年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。