東欧諸国で新型コロナ感染の第3波

オーストリア通信(APA)は11日、「東欧諸国で新型コロナ感染の第3波」という見出しの記事を配信した。チェコ、ハンガリー、スロバキア、そしてポーランドで新型コロナウイルスの感染状況は深刻で、その対応に苦慮しているというのだ。以下、APA通信の記事をもとに報告する。

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▲人口10万人当たりの死者数の表(オーストリア通信=APAから、2021年3月11日)

チェコで11日、人口10万人当たり過去7日間の発生数は768人で現時点で世界でトップだ。死者数ではサン・マリノに次いで210.6人と第2位といった具合だ。医療体制は限界点に達し、患者を外国に運ぶなど緊急処置を取っている。同国保健省によると、11日現在で1916人が集中治療室に収容されている。

Igor Vershinsky/iStock

ゼマン大統領は現状が緊急事態であるとして、バビシュ首相にロシア製のコロナ・ワクチン、スプ―トニクVの接種を認可するように要請し、ロシア製ワクチンの緊急認可に反対したプラトニー保健相と国家医薬管理局(SUKL)責任者の解任を求めている。

同大統領は、「ハンガリーやスロバキアではロシアワクチンの接種が開始されているが、わが国では多くの国民がワクチンの接種を受けることができずに死んでいる」と指摘、保健相とSUKLのトップはその責任を取るべきだというわけだ。それに対し、プラトニー保健相は「欧州医薬品庁(EMA)がスプートニクVを認可すれば、わが国でも認可する」と説明、認可待ちだと述べている。

チェコでは親欧州派のバビッシュ政権と新ロ、親中派のゼーマン大統領の間では久しく権力争いが展開されてきた経緯がある。その意味で、ロシアン製ワクチン導入問題もその延長戦に過ぎない、と受け取られている。

バビシュ首相はゼーマン大統領の要請に対し、「ワクチン問題で閣僚を更迭する考えはない」と、大統領の要請を軽くかわす一方、ハンガリーのオルバン政権と共に、ワクチン接種問題で成果を挙げているイスラエルとの協調関係の強化に乗り出している。バビシュ首相とオルバン首相は11日、イスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相と会談した。なお、チェコは中国国家医薬集団「シノファーム」(Sinopharm)のワクチンを輸入する考えだという外電が3日報じられたばかりだ(「チェコ、中国製ワクチンを輸入?」2021年3月5日参考)。

ちなみに、イスラエル詣ではチェコとハンガリー両国首相だけではない。オーストリアのクルツ首相とデンマークのフレデリクセン首相は4日、イスラエルを訪問、ネタニヤフ首相との3国首脳間でワクチン製造に関する連携を協議し、新型コロナウイルス(Covid-19)に対する研究開発に関する共同基金の設立で合意している。

人口約1000万人のハンガリーの場合、過去24時間、新規感染者数は8312人、172人が死亡。病院入院患者数は11日現在、8329人で、そのうち911人は集中治療室患者だ。入院患者数が1万人を超えるのは時間の問題と予想され、医療崩壊も現実問題となってきた。

善きニュースは、4月4日の復活祭(イースター)までに60歳以上の国民はワクチン接種を終える予定だ。人口の111.3%、約115万人が既に第1回目の接種を終えている(欧州連合=EUのワクチン接種率の平均は目下、7%)。ハンガリーには11日、中国から45万本の「シノファーム」製ワクチンが到着したばかりだ。

スロバキアの場合、コロナ禍で政権は混乱状況だ。マレク・クライチー保健相は11日、「政府の仕事の障害になりたくない」として辞任を表明した。4政党から構成されたマトヴィチ政権の中で2政党が、保健相の辞任を政権維持の前提条件に挙げて、政権を揺さぶってきたからだ。

同国では2020年3月21日、マトヴィチ党首率いる「普通の人々(OĽaNO)」、「我々は家族(Sme rodina)」、「自由と連帯(SaS)」、「人々のために(Za ľudi)」の4党による連立協定が合意され、マトヴィチ首相率いる内閣が発足した。

SaS党首のリヒャルト・スリク経済相はマトヴィチ首相の政治スタイルを批判し、「計画性のない政治がわが国のコロナ対策の混乱の主因だ」として、首相の辞任を要求するなど、政権内で不協和音が飛び出している。マトヴィチ首相は連立パートナーと協議をせずにロシア製ワクチン最初の20万本を輸入(総数200万本)決定している。

スロバキア(人口約550万人)で新規感染者数は4000人を超え、死者も連日約100人と深刻化している。同国のワクチン接種もワクチンの不足や接種登録システムの故障が頻繁に発生し、混乱状況にある。

一方、ポーランドでは10日、新規感染者数は2万1045人と昨年11月以来の最高値を記録。同国保健省によると、英国発のウイルス変異種B.1.1.7が猛威を振るっている。ニェジェルスキ保健相は、「英国発のウイルス変異種はわが国の保険システムを崩壊させる危険がある」と警告を発している。同国では目下、ウイルス陽性者の38.5%はB.1.1.7ウイルスによるという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年3月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。