度々炎上する「おかしなマナー講師」は本当に実在する人物なのか?

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

OwenPrice/iStock

「失礼クリエイター」と呼ばれ、世の中を騒がせている「おかしなマナー講師」。元々、正しい言葉使いを「失礼にあたるのでやめましょう」と誤用ケースを啓蒙したり、誰も失礼だと思っていないものを「失礼なのでやめましょう」とマナーの皮を被った個人的な感想を創出する職業である。

Googleのシークレットモードで「マナー講師」と検索すると、惨憺たる結果となっている

本来のマナー講師は、世の中には正当なマナーに正す列記とした社会貢献性の高い職業である。今回の記事では、まっとうに活動をされているマナー講師と区別するため、おかしなマナーを創出している人たちを「失礼クリエイター」としたい。

さて、筆者はかねてより、この失礼クリエイターに疑問を持っていた。迷惑千万なマナーを「これぞ守るべきマナーだ」などと、彼らが心の底から本気で信じ切っているのか?ということではない。そうではなく、これだけ度々世の中に混乱を招き、ヘイトを集める失礼クリエイターは、本当に実在する人物なのか?ということについてだ。

まるで筆者の妄想のような問いだが、この疑問には根拠がある。下記にその論拠を述べていきたい。

まっとうなマナー講師が風評被害を受けている

まず、しっかりとお断りをしておくが、筆者は世のマナー講師すべてを問題視している意図はない。むしろ、まっとうなマナー講師は失礼クリエイターの活動によって、大変な風評被害を受けていると思うのだ。

話し方や、食事の作法、贈り物に職場での振る舞いなどで、知らずしらずの内に相手に不快にさせているマナー違反はあちこちに存在する。そんなマナーを正すことには大きな価値がある。たとえば、新卒社員にビジネスマナーを啓蒙するなどは、社会的意義のある活動だろう。一方、失礼クリエイターは不必要なマナーを意図的に作り出し、世に混乱を広げている。それが多くの人の目に触れるテレビの電波に乗って放送されているのだから、まさしくインフォデミックと呼称して差し支えない厄災を呼び込んでいる。そしてその真の被害者は、真に受けてしまう視聴者というより、まっとうに活動をしているマナー講師だろう。

失礼クリエイターの影響で、マナー講師という職業が風評被害を受けている。真面目に活動をしているマナー講師たちの心中を思うと、とても気の毒に感じる。

大量のアクセスを集める炎上商法

一昔前はブログ、最近はYouTubeを用いて、一部の人物が意図的に炎上を起こしてきた。一般視聴者の怒りを煽ることで、短期間に大量のアクセスを集めているマーケティング手法だ。どれだけ意図的に作られた炎上であっても、特定の人物を貶める発言や、迷惑行為を動画にすることで大量のアクセスが集まり、結果的に配信主へ広告料が支払われていた。「稼ぐが勝ち」と言わんばかりの状況がおこっていたわけだ。だが、YouTube側もガイドラインを改定、逸脱した迷惑行為については広告停止などで対応したり、あまりにひどいものはアカウント削除をしている。また、視聴者が通報することで、警察に検挙される事例も出ており、反社会性に抵触するレベルの炎上商法は使えなくなった。

問題は「結果的な炎上」でも炎上させる意図がなければ、対応措置が取られることはない点だ。有名人も口が滑って炎上を招き、謝罪に追い込まれることがある。そうした意図せぬ炎上の場合はお咎めがない。

失礼クリエイターは炎上商法になっている

そして筆者は「失礼クリエイター」が実質的に、一部のメディアにとっての炎上商法になっているように感じることがある。

最近、大きく話題に上がっていたのは「コロナ禍でつけるマスクと、服装のデザインを合わせましょう」という提案だ。モーニングショーの番組で取り上げられたマスクマナーに対して、河野太郎行政改革担当相は「ヤメレ」と一喝している。こうした失礼クリエイターによる主張は、明らかにマナーと言うより、個人的感想の域を出ない。

着目すべきはネットメディア、テレビの媒体を問わず、こうした新たなマナーの創出のたびに毎回大きな炎上を起こしているという点だ。爆発的な拡散とヘイトとともにアクセスは集まり、大きく注目されることにつながっている。

これは実質的な炎上商法になっていないだろうか。

失礼クリエイターは実在する人物なのか?

失礼クリエイターの本業はテレビの出演料ではなく、企業派遣や講演などでの講師業としての報酬と思われる。実際に本人が所属を明かして、テレビ出演をした上で奇天烈マナーを取り上げて炎上する事例はある。この場合は、実名を明かして登場しているので、確かに実在の人物なのだろう。

だが、違和感を覚えるのはこのような炎上を引き起こしてしまっては、本業の商売に影響が出るのではという点だ。否、「こうした人物は、本当に実在するのか?」とすら疑わしさを覚えるケースもある。ありもしないマナーを創出するたび、これだけ強いヘイトを集めてしまっては、失礼クリエイターは本業に影響が出てテレビ出演をする経済的メリットがなくなってしまう。

おかしなマナーを取り上げても、炎上の矛先が向くのはマナー講師本人であるため、メディアは痛くも痒くもない。故に世の中に無数に創出される失礼クリエイターの中には、名前だけ創作された幻も混じっているのかもしれない。もしも筆者がモラルを無視して視聴率を取りたい立場にあるなら、AI合成で実在しない架空の人物画像を作り、「この方はマナーに詳しい○○先生だ」と大々的にプロデュースするだろう。これなら誰も傷まず、視聴率をたくさん集めることができてしまうだろう。

失礼クリエイターは本当に実在するのか?これは情報の非対称性が大きいために、視聴者である我々に真偽の程を確かめる術はない。だが、そんなあらぬ疑いを持ってしまうほどに、失礼クリエイターは不可思議な存在に感じるのである。