日本の将来?インフレ慢性国アルゼンチンの上がり続ける牛肉価格

アルゼンチンと言えばインフレの高い国というイメージを長年払拭できないでいる。1973年から2018年の45年間にインフレ率が累計でなんと1670%まで上昇した国だ。

アルベルト・フェルナンデス大統領の政権が1年を経過した今、今年のインフレは50%になると予測されている。マクリ前大統領の政権終了時とほぼ同じインフレ率になるということだ。

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ラテンアメリカでアルゼンチンほどインフレ上昇率の高い国はない。

今年1月の時点でインフレは既に3.9%の上昇を記録している。アルゼンチン中央銀行は2月から7月までの毎月のインフレ率を推計している。2月(3.6%)、3月(3.9%)、4月(3.5%)、5月(3.4%)、6月(3.2%)、7月(3.2%)という推計から今年7月までのインフレは24.7%ということになる。

米ドルへの信頼からインフレ傾向に

また、アルゼンチンでは通貨ペソが市民から信頼されておらず、米ドルに信頼を寄せている。米ドルに対してペソの交換価値の下落に影響されてインフレの上昇率が決まる傾向にある。だから、自国の通貨をペソから米ドルに切り換えればインフレの上昇を防げるという意見もある。一時的に米ドルとペソの交換レートを1対1にしたこともあった。しかし、この時は実質のペソの下落を一時的には抑えられても長期間この対等レートを維持することはできなかった。

例えば、現在の最低賃金は1万8900ペソとなっているが、それは米ドルだと203ドルに相当する。これが2010年だとこの賃金は1740ペソであったが、それを米ドルに換算すると440ドルに相当していた。即ち、この10年間でペソは対米ドル46%ほど価値が下落したということになる。その一方で最低賃金の方はインフレの上昇に合わせて増加している。

ペソと米ドルの価格の二重構造と毎月のように目まぐるしく価格が上昇する商品の市場価格を前に生産業者も販売業者も実際の仕入れコストが販売する段階では分からない状態に置かれている。ということで、損失を避けるために翌月上昇するであろうインフレ率を予測した上でそれを見込んで販売価格にスライドさせて価格を設定する傾向にある。だからそれが尚更価格の上昇を招くことになる。アルゼンチンでは商品の適正価格が分かる業者は誰もないと言われている。

牛肉価格の急上昇

例えば、昨年の牛肉の価格は74%上昇した。ラテンアメリカで牛肉の主要生産国の一つであるアルゼンチンでは牛肉はふんだんにある。またその最大の消費国でもある。アルゼンチンでは一人当たりの牛肉の年間消費量は50キロとなっている。スペインだと5キロだ。

ところが、それが昨年は牛肉の価格が急上昇した。その理由は2つある。輸出が大幅に伸びたことと、牛の餌になるトウモロコシの価格が2倍に値上がりしたことである。特に、中国への輸出が急増した。

牛肉の販売業者は国内で販売するよりも輸出の方が利益率が高いのでそれに集中した。そこで国内での牛肉が不足するようになった。それで隣国の牛肉生産国ウルグアイやブラジルから牛肉を急遽輸入せねばならなくなった。

それで牛肉の国内価格が上昇。それをコントロールすべく政府が介入した。ところが、政府が価格のコントロールに介入できたのは僅かに6000トンだけ。国内で牛肉の消費は18万9000トンにも及ぶということで、国内消費の僅か3%余りしか政府は価格のコントロールに乗り出していなかったということになる。これでは国内での牛肉の価格の上昇を防ぐことは不可能であった。

2017年から牛肉の価格は4.3倍まで上昇している。その一方で市民の給与はこの1年で実質30%下降している。

大統領はインフレの上昇を抑えられるか

まだ残り3年の任期があるアルベルト・フェルナンデス大統領にとってインフレの上昇を抑えるのが任期を維持するのに重要となっている。

20世紀初頭のアルゼンチンの一人当たりの所得はフランスや英国に匹敵していた。世界リーダー国のひとつであった。当時のブエノスアイレスは南米のパリと呼ばれていたほどだ。100年あれば国家を崩壊させるには十分である。