北朝鮮の非核化は綺麗ごと

北朝鮮の非核化はアメリカが長年関心を目指してきた目標であり、トランプ政権下で実施された歴史的なハノイ会談で一時は非核化の進展が期待されたものの、双方の物別れに終わってしまった。それもあって、北朝鮮の非核化という問題は未解決の問題としてバイデン政権に持ち越されている。

朝鮮中央通信より:編集部

アメリカが北朝鮮の核ミサイル問題を問題視する理由は主に二つある。ひとつが不確実性が伴うテロリストや破綻国家に核が拡散されるという懸念からであり、もうひとつが、透明性が無い政治体制を持つ国が核を保持することへの恐怖心からであると筆者は考える。

そして、この問題を解決するためにアメリカの主導であらゆる策が講じられてきた。時には対話という形で6者会談なるものを設定して外交的に問題を解決しようとした。また、ある時には経済制裁を用いて、ジワジワとボディブローのような形で北朝鮮が折れることを待った。

しかし、いずれの方法も失敗している。いくら、対話という手段で非核化を図ったところで、最後には北朝鮮がちゃぶ台をひっくり返す形で妥協点を見出すことを拒否してきた。また、いくら強い経済制裁を北朝鮮に課したところで、苦しむのは一般的な北朝鮮国民だけであり、年々肥えていく指導者の姿を見てみると支配階級に余裕があるようにさえ思えてくる。むしろ、一方的に北朝鮮をいじめる大国、そして一歩も引かずに人民のためにそれに抗う支配階級という構図を作り、支配階級の正当性の維持するための道具としてが経済制裁を利用されているのではないかと考えざるを得ない。

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残る解決方法は武力行使で強制的に核を除去するか、又は北朝鮮の公正と信義を信頼して、自発的に核を放棄することに期待するかである。しかし、武力行使に関しては、核をすべて確実に除去できる手段ではなく、北朝鮮の反撃を惹起し、一部の試算では210万人もの死者が出ることからサイコパス以外は命じることができない手段である。

一方、北朝鮮の自発性に期待をかけたところで、核が無いことでアメリカによって政権転覆されたイラク、リビアの二の舞になりたくない北朝鮮としては、非核化することが選択肢としては考慮されない。また、核を保持し続けることで北朝鮮に注目があつまり、その注目を利用して国民からの支持を得ることに転換できるため、国民からの忠誠心を保つためにも北朝鮮は核を手放すことができない。

結論として、北朝鮮の非核化は不可能であると思うしかない。

非核化という名の綺麗ごと

だが、いくら非核化という目標が実現不可能であったとしても、非核化という名の綺麗ごとは言い続けなけらばならない。なぜなら、一度非核化を目指すことを諦め、事実上北朝鮮を核保有国として認めてしまえば、世界規模の核保有国の増加を促すことにつながるからである。

もし、北朝鮮が非公式に核保有国として認められると、潜在的な核保有の意志を持つ国々に対して、一定期間を通じて核を持ち続けると国際社会はある段階で核の保持を認めてくれるというメッセージが与えられることを意味する。そうなることで、例え国益を一時的に害する可能性を秘めていたとしてもイランやシリアといった国々は核武装をするであろう。それだけではなく、核の際限の無い不拡散に対応するために日本や韓国といったアメリカの同盟国も同様の選択を検討せずにはいられないだろう。

国際政治学者のケネスウオルツ氏によると、世界規模で核の拡散が進む方が国家間の均衡を維持することにつながり、逆説的に世界平和に寄与するのだという意見もある。しかし、筆者の見解として、核という強大な殺傷性、破壊力を兼ね備えた兵器が、破綻国家といった信用が置けない国々の元へわたることに強い拒否反応を覚えずにはいられない。感覚的に核兵器を多くの国が持つことに賛同しかねる。そして、そうなることにつながる核の拡散にも反対する。

そのことから、いくら北朝鮮の非核化ということが綺麗ごとであったとしても、我々はそれを言い続けなければならないと筆者は考える。非核化を言うことを辞めれば、核の拡散がドミノのように広がり、ちょっとしたいざこざが一気に核戦争へと発展しかねない。