公文書には「民間作成資料」も含まれる:公文書危機報道を問う②

【超解説】公文書って何? なぜ不祥事がなくならないの? – YouTube

少し古いが朝日新聞がyoutubeで公開している啓発用動画で、公文書の定義として「公文書とは役所がつくる文書のこと」と説明している。(19~22秒部分)

AndreyPopov/iStock

誤りである。公文書とは役所がつくる文書に限られない。

公文書管理法2条4項には下記のとおり規定されている。なお、「行政文書」を公文書と読み替えても差し支えない。

この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)を含む。第十九条を除き、以下同じ。)

公文書とは役所がつくる文書に限られない。役所が取得した文書も公文書に含まれる。

もう少し丁寧に説明すると公文書管理法は国の行政機関について定めたものであり、地方自治体は独自にいわゆる「公文書管理条例」を制定しているが地方自治体が保有する公文書も国のそれと同じである。なぜなら国と地方自治体は日常的に公文書のやりとりをしており、また、それは公文書管理法が施行される2011年以前からあったことである。

だからこの日本で行政機関が取り扱う公文書とは「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」である。

他にも独立行政法人と国立公文書館が取り扱う公文書があるが朝日新聞がこだわる公文書にこれらは含まれていない。朝日新聞による公文書危機報道に出てくる公文書とは全て行政機関の職員が取り扱う文書である。○○省とか○○庁とか○○県に務める公務員が取り扱う文書である。

では朝日新聞が啓発用動画で触れなかった公務員が「取得した文書」とはなんなのか。例えば公共工事の事務に際に生じる「見積書」は誰が作成するのだろうか。もちろん公

務員ではない。見積書を作成するのは非公務員であり、要するに民間の事業者である。

おそらくほとんどの方は、公文書と聞くと公務員が作成する文書であり、公文書管理に何か不手際があると報道されると公務員が政治家に忖度したり、あるいは怠けているように思うのではないか。

しかし、実際は公文書には見積書などの「民間作成資料」も含まれているのだ。公文書危機報道では「公文書は役所のものではなく国民のものだ!」と激烈に主張されることが多々あるが、まさにそのとおりである。公文書管理の議論はイメージが先行し過ぎている。

また、公務員が作成したとも取得したとも言い切れない公文書もある。例えば役所の窓口に置いてある各種申請書はどうか。申請書自体を作成するのは公務員だが必要事項を記入する者は誰か、申請書を文書として完成させるのは誰か。当たり前だが申請者である。

重要なことは行政事務は公務員と一般国民の労力で成立しているということである。

福祉行政では診断書の提出も普通であり、主治医に診断書を作成してもらうことは時間もお金もかかる。決して小さくない労力だ。

公務員が取り扱う文書には一般国民が労力をかけて完成させた文書がたくさんある。

公文書危機報道ではなんとなく公務員が政治家に忖度したり、仕事を怠けているイメージが先行し「公務員はもっと汗をかき公文書を徹底的に管理すべきだ」という主張が多いが、公文書には「公務員の労力」だけではない「一般国民の労力」も含まれているのである。

だから「公文書を徹底的に管理すべきだ」という主張の先には公務員だけではなく一般国民にも負担が生じるのである。具体的には一般国民の行政への提出資料が増大することである。それは国民の時間とお金を奪うことに他ならない。

朝日新聞による公文書危機報道で利益を得るのは朝日新聞の記者とその読者だけである。もっとも販売部数は減少しているようだから朝日新聞が得た利益とは精神的なものであり、単なる自己満足である。

オールド・メディアによる公文書危機報道への違和感:公文書危機報道を問う①