日米金融政策の手詰まり感

アメリカの金融政策決定会合であるFOMCが終了、少なくとも23年末まではゼロ金利を維持すると発表しました。今までの方針と変わらず、緩めの金融を継続するというものです。また、物価については21年度中には2%上昇を達成しそうだけど就業者数はコロナ前と比べ950万人少ないレベルであるとしています。

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中央銀行の役割は物価と雇用、これが第一義です。この2つの指標を満足すべき水準にするため金融市場の調整役を任されているわけです。とすれば雇用者が減っているのだから金利を低めに誘導して企業投資を活発化させ、雇用を増やす方針は確かによさげに見えますが果たしてどうなのでしょうか?

私は疑問を持っているのです。コロナ前のアメリカの失業率は確かに3%台と好調でありました。ところがコロナで20年4月には14.8%と前月の4.4%から10%ポイント以上も急激な悪化を示します。いわゆるクラッシュ状態で通常の不況や恐慌のように段階を経る形ではありませんでした。そこから着実に改善を重ね2月の失業率は6.2%となっています。ただ、20年10月に6.9%に下がって以降は改善に鈍化がみられます。

一方、14.8%を付けた時点以降、労働市場から退出した人が相当数いるとされます。この一時退出組は失業率には表れません。なぜ、労働市場に戻らないかと言えばある程度の年齢の方が早期リタイアに踏み切ったこと、コロナに対する恐怖心で労働市場に戻れないこと、そして投資で生計を立てる人が増えたことの三つが考えられます。

経済学を学んだ人はご存じだと思いますが、完全雇用は労働の質が悪化するので経済全体としては最適ではありません。わかりやすい例でいうと「猫の手も借りたい」ほど忙しいとき、本当に猫の手のような労働者がいても賃金は高いし、サービスの品質は維持できず、仕事を覚えず、マネージャーの仕事量も増えます。この労働の質を維持できる実質完全雇用の「しきい値」は概ね何%ぐらいかは国ごとになんとなくあり、アメリカだと4-5%ぐらいで日本はそれより1-2%低いぐらいです。

失業者対策は別次元の問題となりますのでここでは触れません。アメリカは5月ぐらいまでに経済の正常化を謳っていますので失業率は6-7月ぐらいまでに5%台半ばまで到達し、健全な労働市場にほぼ戻ると予想しています。

とすればFRBが23年末までゼロ金利をする理由が見当たらなくなるのです。それとパウエル氏の任期は22年2月であり、既に1年を切っています。とすればFRBの合意であるとしても新議長が方針を変更する可能性もあります。

もう一つは議長交代の年の半年ぐらい前から引継ぎに向けた地ならし調整がしばしば行われます。今回の場合、私の読みでは秋に量的緩和の絞り込みに踏み込み、インフレ調整を行う可能性はかなり高いとみています。

さて、ここで問題は国債の買い入れを細めたとき、誰が代わりにアメリカの国債を買うのかであります。同様に日銀も今、政策決定会合をやっていますが、誰が国債を買うのか、ここが最大の疑問なのです。例えば日本の場合、かつては機関投資家や銀行がこぞって国債を買っていました。これはもう過去の話です。例えば市中銀行が持っていた国債の比率は2014年が全体の65%でした。現在は38%です。この穴を埋めたのが日銀です。14年当時日銀の持ち分比率は18%、ところが現在は48%です。アメリカも同様でFRBが必死にアメリカの国債を量的緩和を通じて購入しています。

長期国債の利率が株式市場に影響することをご存知の方もいらっしゃるでしょう。国債の利率が上がるというのは国債が売られている、つまり国債の買い手がいないということです。アメリカの場合、よく中国が国債を売ればアメリカ経済は大混乱になるといわれますが、これは国際緊急経済権限法という法律があり、物理的に売却を止められるのでこの議論も今はしません。問題は日米共に中央銀行に代わる国債の買い手が十分にいなくなる、これに尽きるのです。量的緩和がやめられない理由は国債の買い手が不在となり、利率の急上昇を引き起こす可能性があるのです。

もしも機関投資家が長期国債の利回りが株式の配当利回りや企業の成長率より健全だと判断した場合、株式市場には衝撃的な下落が待ち構えます。そうなれば本筋とは違うものの中央銀行は大規模な量的緩和を再度行うしかありません。これでは自作自演です。つまり、中央銀行は否が応でも国債を買い続ける量的緩和から抜け出せないアリ地獄のような状態になりつつあるように見えるのです。

ずばり一言申し上げるとマネタリストと称する経済学は金利水準が適正領域である場合においては有効であるけれど、現在のようにゼロないし、マイナスとなる水準に於いてこの学説の輝きはほぼ失ったと考えています。ただ、これに変わる方策がまだ見当たらないという経済学の未熟さが如実になってきたということです。

私から見れば日米欧の中央銀行が今までやり過ぎたとみています。中央銀行は使用済み核燃料のように出口が確立されていない状態で迷路に入り込だようなものです。ただおかしな話ですが、黒田さんがバズーカ砲を放った時から今日まで「それをいっちゃ、おしまいよ」なのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年3月19日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。