ガバナンス改革3.0はすでに始まっている

1週間ぶりの更新です。委員長を務めております某社の調査案件が佳境に入っており、他の委員・委員補佐の皆様が深夜早朝まで調査に勤しんでおられる中でブログを書くのはたいへん気が引けます(笑)。したがいまして、書きたいことは山ほどありますが、簡潔にひとつだけ。

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今朝(3月21日)の日経朝刊7面ではPwC・Japanグループ社が、脱炭素を目指す企業に対して温暖化ガスの効果的な削減策を助言するサービスを開始することが報じられていました。削減に要する費用や投資負担に伴う効果、そして同効果の財務への影響等を株主に説明しやすくなる、ということだそうです。

こういった記事を読み、私はいよいよガバナンス改革も第3世代に入ったものと感じております。ポピュレーションアプローチの時代(2014年~17年)は法改正やソフトロー(コードやプリンシプル等)によって市場に参加する企業全体を動かし、次にハイリスクアプローチの時代(2018年~20年)は、非友好的買収や資本生産性に関する(株主の)重要提案に代表されるような「個社への働きかけ」の波及効果によって「形式から実質への深化」を促し、そして今後はインテクレイテッドアプローチ(統合アプローチ)の時代、つまりE(環境)S(社会・人権)への企業の取組みとの統合によって更なるガバナンス改革の進展を目指す、という時代への変遷です。

たとえば脱炭素社会の実現に向けた企業努力には(上記のPwC Japanさんの新提案のように)多大な社内資源の投入が必要になりますが、これを実現できる(少なくとも社内で議論できる)ガバナンスが求められますし、またダイバーシティの導入には、女性や外国人の幹部職員が浸透できるように、幹部職員の職場環境の整備(女性や外国人が力を発揮できるように当該職務の内容を作り直すこと)を実現することにもガバナンスの変革は不可欠でしょう(職務の内容自体を変えることが前提となりますので「いや~、まだまだウチの会社は〇〇担当の執行役員を任せられる女性幹部が育っていない」なる言い訳は通用しなくなります)。

ガバナンスの格付けに「評価項目、評点項目」をどうするか、といった議論もありましたが、そんな形式的なことよりも、EやS、中長期的な資本政策といった重要課題の実施可能性の判断項目としてガバナンスを評価するという手法が主流になるのでしょうか。日本企業のサステナビリティの重要課題とガバナンス改革を結びつけることは、もはや既定路線になりつつあるようです。誰か頭の良い人が考えたのかもしれませんが、こうなりますとさすがに「仏作って魂入れず」といったガバナンス・コード対応はもはや通用しなくなりそうです。

昨年来、「日本企業のESG-なぜGはEやSと並んでいるのか」(2020年11月16日)、「ESGへの取組みは加点主義か減点主義か」(同12月2日)、「企業の脱炭素への取組みは情報開示だけでなく説明責任も果たさねばならない」(2021年1月21日)など、私なりの素朴な疑問を綴ってまいりましたが、なるほど、ガバナンス改革への企業の取組みを「見える化」する(真剣に投資判断の材料にする)というのは、こういった手法なのかと最近少しだけ理解できた気がいたします。

そうはいっても、これからも「サステナビリティ推進担当役員」任せの会社もまだまだ残りそうな気はしております。。。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2021年3月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。