国交省がまとめた21年1月1日時点での公示価格は全用途平均がマイナス0.5%と6年ぶりにマイナスに転じました。住宅地はマイナス0.4%で商業地がマイナス0.8%となり、過去の上げ幅が大きかった商業地の価格調整幅が大きく、銀座、浅草、有楽町、歌舞伎町といった繁華街の一部では2桁%の下落となったところもあります。
言うまでもなく、コロナによるビジネスのスローダウンが不動産取引に影響したものでありますが、住宅地については突然、人がいなくなるわけではないのでマイナス幅は小幅になります。日経も様々な形で分析しているのですが、トーンとしては下落がしばらく続きそうだ、とみています。これは私が1年ぐらい前から述べていたことですが数字として表れてきたのでマスコミもようやくそうなのかもしれないと気がつき、記事にできるようになったのでしょう。
日本の数字の追い方は下手。というより最近はマスコミが真の取材が出来ていないように見えます。不動産取引データである公示価格や路線価の数字は実質的に半年ぐらい前の数字を取りまとめたもので時差がある点を把握できていません。今回の公示価格は約3カ月前の1月1日時点ですが、その時に取引される物件は当然その数カ月前から交渉があったわけで肌感覚としては昨年の秋に不動産をどう評価するか、と視点をずらした方がよいのです。
ではこれを半年ほどずらした今の肌感覚はどうなのでしょうか?
まず商業地ですが、これは今でもソフトな市況がもう少し続いているとみています。いわゆる小売業のビジネスが構造変化を起こしつつあり、一等地にある店舗は「有名料」というプレミアムを払う価値に疑問符をつけるところが出てくるとみています。
例えばバンクーバーの目抜き通りであるロブソン通りは今や見る影もないほどへたっています。理由は過去20年、賃料とテナントの売り上げのバランスが取れなかったからです。ナショナルブランド店ならアンテナショップとして店舗を構える余裕もあるのですが、一般小売り店舗はとてもじゃないけれどやり切れず、リース期間が切れるのが待ち遠しいという状況にあります。日本も基本的にはネットビジネスが主流になり、その傾向は鮮明になるとみています。
オフィスについても弱含みとみなくてはいけません。そもそもIT化など作業効率が上がっている中で人材の絞り込みができる状態であること、社員が同じところに集まって仕事をする必然性がなくなったこと、それによりいらない人材が出てきてしまったことがあると思います。「2:6:2の法則」を考えるとざっくり多くの企業で2割程度の人材は実質余剰でオフィススペースの需要にダイレクトに反映しやすいのはないでしょうか?
一方住宅についてはエリアごとにばらつきが出ると思いますが、都市圏と地方の主要都市はさほど下げないとみています。コロナにより郊外の不動産が物色されたような統計になっていますが、コロナ需要ぐらいで郊外の不動産市況を支えられるほど需要があるわけではありません。郊外の賃貸物件人気も一時的ブームで来年には沈静化しているでしょう。ただ、都市圏のマンションが高くなったのでファミリー層が購入できるエリアという意味での広がりは考えられます。それでも衛星都市を中心としたもので交通の利便性がキーになると思います。
ところで北米では住宅ブームが続いています。ここバンクーバー地区では売り物物件が急激に減ってきています。私は今、当地で不動産開発推進中のため、役所と土地の用途変更許認可取得の最終段階にあるのですが、数週間前に担当者に「コロナを理由に当局が許認可手続きにあまりにスローだと2-3年後に住宅危機が起きる」と懸念を表明しました。州政府をはじめ、当局はバンクーバーの狂った住宅価格がようやく沈静化したのにその二の舞になってほしくないはずですが、残念ながら北米全般に極めてタイトな状況が今後数年続きそうです。多分、住宅危機は避けられないとみています。
日本と北米、何が違うのかと言えば経済移民の数と不動産の流動性でしょう。日本は死ぬまで同じ不動産を抱えていますが、こちらはライフスタイルに応じて変え、引っ越しも厭わないのです。そんなこともあり、バンクーバー地区の実勢取引価格は昨年比10%から15%は上昇するとみています。
海外から見て日本の都市圏の不動産は一部のエリアを除き、先進国比較でかなり安いので値ごろ感から海外のファンドなどが積極的に不動産を購入するとみています。今まではニセコのようなリゾート中心でしたが次は都市圏の不動産全般が海外投資家の対象になっています。
いつの間にか大家は外国人だったということが起きてもなんらおかしくないのが日本の不動産事情かと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年3月24日の記事より転載させていただきました。