韓国中央日報は23日、先ごろ北朝鮮の金正恩委員長が中国の習近平主席に宛てたメッセージで、「敵対勢力の全方向的な挑戦と妨害策動に対処し、朝中両党・両国が団結と協力を強化することについて強調した」と同日の北朝鮮労働新聞が伝えたことを報じた。
習はこれに対して「国際および地域情勢は深刻に変化している」とし、「両国人民により立派な生活を与える用意がある」と答えたとされる。北朝鮮はここ一年以上、新型コロナウイルスの蔓延懸念から中国との国境を閉じていたが、困窮が著しい経済状況にとうとう値を上げたようだ。
中国への伝達は、新任の駐中北朝鮮大使李竜男が口頭で行ったとされる。崔善姫第1外務次官が17日、「米国がよく使う制裁といういたずらも、われわれは喜んで受けてやるであろう」と述べた背景にも、習のこの反応があると中央日報は書いている。
筆者は今回の中北接近の陰に、バイデンと習が2月10日に行った2時間に及ぶ電話会談が関係していると思う。この時バイデンが「北朝鮮に核放棄を説得するよう習に求めた」と翌日のロイターが報じたが、これがトランプの「America First」を否定する「多角的アプローチ」の一環だからだ。
同記事は、バイデンは、中国が新疆ウイグルでジェノサイドを行ったというトランプ政権の決定を支持し、北京への圧力を維持することを示唆すると同時に、より多国間的なアプローチを取るとし、気候変動問題や北朝鮮の核放棄で北京と協力すると約束したとしている。
また、バイデンが習を良く知っているし、良い会話をしたと述べたとする一方、中国当局がバイデンの下で二国間関係が改善するという楽観的な見方を表明し、ワシントンに北京で会うよう促したとし、習がバイデンの米国は「可能性である」と定義できる、と述べたとも報じていた。
中国の趙立堅報道官と同様の過激な論調で知られる環球時報の胡編集長が、この電話会談が2時間続いたという事実は「詳細なコミュニケーション」を示す「非常に前向きなメッセージ」であるとツイートしたことも同記事は報じていた。
バイデン自身が述べているように、オバマ政権の副大統領時代に、彼は習と非常に親しく交際していた。その結果か、専用機に同乗させて中国に連れて行った息子のハンター・バイデンが、中国との関連で税務調査を受けていることも報じられている。
そのバイデンの多角的アプローチに中国が含まれるとは、共産中国に対峙するための多角的アプローチではないということだ。が、こんな都合の良い外交が果たして可能か。オバマの戦略的忍耐が失敗だったのは、先日それを口にしたサキ報道官がすぐに訂正したことからも自明だ。
トランプはその轍を踏まないよう「America First」を唱えた。多くの誤解があるがトランプの「America First」とは、まずは米国が実践して効果を明らかにし、それに賛同する国が「自国First」で追随するのを促すもの。つまりは「結果としての多国的アプローチ」ではあるまいか。
北朝鮮は21日、巡航ミサイルと見られる2発の飛翔体を発射した。これも先述した習の対応や、発射の直前に閉幕した米中アラスカ会談の様子を見ての行動に相違なかろう。
習近平はアラスカ会談の後、北朝鮮に安堵を与えたのみならず、ロシアとの交流も活発化させている。22日から2日間、ロシアのパブロフ外相が中国を訪れたのだ。
バイデンは、プーチンを殺人者と思うかとの質問に「I do」と応え、プーチンの反発を買った。大統領選への介入でも、中国の関与を主張するトランプに対し、バイデンはロシアの関与を主張する。そのロシアと中国が接近し、そこへ北朝鮮が加わるとなれば、バイデンの多角的アプローチの前途は暗い。
ウイグル問題で米英加とEUが中国高官への制裁を発表した。確かに良いことだが、これにバイデンが何か貢献した訳ではない。トランプ政権がその末期に、独自にウイグルで起きていることをジェノサイドと認定したこと、これが事の始まりだ。
バイデンが国内政策で国境警備を緩めて混乱しようと、カナダからのパイプライン工事をやめて失業者を増やそうとフォードがオハイオからメキシコに移転するのを容認しようと、COVID救済に1.9兆ドルを使おうと、郵便投票を広めるHR1法を通そうと、同盟国への影響は間接的だ。
だが、外交問題はこれらとは違う。多角的アプローチでも何でも良いが、バイデン政権には是非とも西側諸国に迷惑が掛からぬような外交を望みたい。