「イージス・システム搭載艦」の運用構想をめぐる一考察

2020年6月、防衛省は、突如イージス・アショア配備計画の断念を発表した。その後、政府与党間で紆余曲折の政策調整を経て、12月18日、イージス・アショアに代わり「イージス・システム搭載艦」を2隻建造することが閣議決定された。陸上イージス・システム2基を配備する計画が洋上のイージス・システム搭載艦2隻建造へと転換されることにより、我が国の「総合ミサイル防空」にどのような影響を与えるのか、また、イージス・システム搭載艦とはいかなる「艦艇」であるのか、さらに、その運用構想はどのようなものであるべきか、以下、若干の考察を加えてみたい。

イージス・アショアの上部構造 Wikipediaより

1  我が国を取り巻くミサイル脅威とイージス・アショアの導入

(1) 「総合ミサイル防空」の対象

我が国の今後の「総合ミサイル防空」の在り方について考える際、2つのディメンションがあることを念頭に置く必要がある。

①北朝鮮からのミサイル防衛

②A2/AD(接近拒否・領域拒否)環境下におけるミサイル防衛(主に中国からの多様なミサイル脅威を念頭)

①への対応は、実験や訓練発射への備えを含め、平時から、24時間・365日の常続的な対応が求められる。ただし、北朝鮮のミサイルの種類は、多様になってきているものの、発射弾数は限定的(※)であり、ミサイル以外の脅威(航空機や水上艦、潜水艦など)はほとんど考えられない。

※  北朝鮮は、金正恩体制になってから(2012~)、日本海方面等に向けてこれまでに累計88発の弾道ミサイルを発射したとされるが[1]、ちなみに中国は、一般報道その他によれば、2019年1年間だけで100発超の各種ミサイルの発射実験、訓練を実施している(ただし、主に内陸部)[2]

②への対応が必要となるのは、主に有事。つまり、事態が生起してからで、九州から南西諸島における自衛隊部隊や米軍基地等を目標とした攻撃への対処が主体ということになろう。こちらは、ミサイル以外の脅威も含め、質・量ともにかなり深刻な脅威に直面することになるだろう。

(2)  イージス・アショア導入の目的と意義

ア.我が国のBMD態勢とイージス艦の運用

言うまでもなく、イージス・アショア(AA)は、「北朝鮮の弾道ミサイル」に対するBMDシステムとして構想されたものであるが、その結果として、A2/AD環境下におけるイージス艦運用等の柔軟性を期待するものでもあった。

すなわち、AA配備構想の背景には、3つの必要性があったと考えられる。

  • 北朝鮮による弾道ミサイル攻撃から、我が国を24時間・365日、常続的に防護し得る態勢を構築する必要、
  • それによって、海上自衛隊のイージス艦を日本海における「BMDパトロール任務」からリリースし、南西方面等への展開を含めた運用の柔軟性、艦隊防空のような、「本来任務への対応」を確保する必要、
  • 南西方面の脅威の高まりとともに「新しい戦い方」への対応を迫られる海上自衛隊全体の訓練機会の確保や人的負担の軽減の必要、などである。

イ.米海軍イージス艦のジレンマと日米協力の必要性

これらの点に関しては、実は米海軍も海上自衛隊と同様、日本近海においてBMDパトロール任務に就いていたことから、全く同じ状況にあった。その苦悩を端的に表したのが、2018年6月に行われた米海軍作戦本部長リチャードソン提督(当時)の講演における次の発言だ。(※)

①  イージス艦が特定の海域においてBMDパトロールを実施しなければならないことが、「シーコントロール」等、本来の海軍としての洋上任務を圧迫している。多機能で洗練されたイージス艦を他の任務に回すために、日本周辺や欧州におけるBMDパトロールをやめ、その役割をAA等のような陸上のアセット(Land-based BMD system)に移管したい。

②  BMDパトロール任務は、日本に展開する7艦隊の即応態勢をどんどん疲弊させ、また、艦隊の訓練時間は削られ、その結果、駆逐艦フィッツジェラルドの衝突事故(2017/6/17=乗組員7名が殉職)、その2か月後の駆逐艦ジョン・S・マケインの衝突事故(2017/8/21=乗組員10名が殉職)の要因となった。

※ 「海軍イージス艦によるBMD計画の背景と課題」(米国連邦議会報告, 2021年2月改訂)[3]

つまり、我が国の「総合ミサイル防空」を考える際には、日米同盟におけるRMC協力(Roles, Missions, Capabilities sharing)の視点も忘れてはならない。これは、冒頭に挙げた、二つのディメンションのいずれにおいても重要となるポイントといえる。

以上概観したように、AAの導入計画は、①の北朝鮮の弾道ミサイル対処態勢を常続的に確立するとともに、従来、日本海等におけるBMDパトロールのために拘束せざるを得なかった海自および米海軍「虎の子のイージス艦」を、南西方面への展開を含め艦隊防護(防空、対潜任務等)その他の本来任務のために振り回し可能とすることを基本構想の一つとしたものでもある。

ウ. 厳しさを増すA2/AD環境下での海上作戦の様相

ちなみに、「イージス艦」は、そもそも1970年代にソ連の強大な対艦攻撃能力から米空母部隊を防護するため、特に対艦ミサイルによる飽和攻撃に対する同時対処能力の拡大を目的として開発されたものだ。

まさしく、今日、中国の多様な対艦弾道/巡航ミサイル攻撃能力が、当時のソ連を遥かに凌ぐような脅威となっているのである。

実際、現在の中国と日米の軍事バランスを考えた場合、事態生起の初期段階において予期される、第一列島線の内側(東シナ海)の制海権の状況は、1996年に米国が2個空母打撃群を派遣して台湾海峡危機の拡大を抑止した頃とは一変しており(※)、今や様々な努力を払わなければ獲得できないレベルになっている。

※   1996年台湾海峡危機の屈辱以来、PLAの計画立案者は、米空母を主たる脅威とみなし、米空母打撃群を打破する方策を研究してきた。

その結果、仮に中国軍が米軍と衝突した場合、中国は、米軍の空母打撃群およびイージス艦による防御ラインに対し、中国本土および航空機、艦艇、潜水艦など多方向から大量の対艦弾道・巡航ミサイル等による飽和攻撃を浴びせてくることが想定される。[4]

このような「南西方面有事」を想定すれば、我が国としても、海上作戦部隊の防護や日米共同作戦のために8隻のイージス艦の相当数をこの戦域に投入できる態勢を構築せねばならないことになる。しかし、そのような中国の脅威の増大の一方で、多機能で高性能、高い機動力を持った日米のイージス艦が、平素からの事態に備え、日本海等において「BMDパトロール」に常時従事しなければならない状況は、運用上の合理性からも、また、訓練や人的な負担からも受容できない状況となっている。

2.イージス・アショア配備計画中止後の議論

(1) 「イージス・システム搭載艦」の閣議決定へ

このような厳しい戦略環境が全く変わっていないにもかかわらず、昨年、AAの配備計画は中止されることとなった。(その経緯については、本題とは逸れるのでここでは詳述しない。)

そして、政府および自民党内における様々な議論を経て、昨年12月18日に閣議において、次のような決定を見たのである。

①陸上配備型AAに替えて、イージス・システム搭載艦2隻を整備する。

②同艦は海上自衛隊が保持する。

③同艦に付加する機能及び設計上の工夫等を含む詳細については、引き続き検討を実施し、必要な措置を講ずる。」

最後のところが微妙な言い回しになっているが、現時点で最大限言えることは、①北朝鮮の弾道ミサイルに対応するために必要なイージス・システムは、陸に置くことを諦めて海に出す。②それを「イージス・システム搭載艦」と呼ぶ。しかし、③その艦艇の設計や機能は、今後策定される運用構想に基づいて検討される。つまり、現時点で「イージス・システム搭載艦」がどういう代物になるかは確定していない。ここが今後、議論となるポイントだと思われる。

(2)「イージス・システム搭載艦」=「イージス艦」なのか

ところで、私自身も含め、自民党内の議論では、「2隻の『イージス護衛艦』を新造する案」がほぼ大勢を占めた。それは、一見すると2隻分の「プラス作用」があると思われたからだ。もちろん、それは、南西方面の脅威の深刻さについての認識を共有していたからに他ならない。

しかし、『軍事研究』(2021年3月号)所収の池田徳宏提督論文[5]に詳述されているように、実際の運用(定期修理・検査等の「非稼働期間」や、補給・休養のための停泊、必要な訓練や行動海域への往復などの運用サイクル等を含む)を考えれば、イージス護衛艦の現有8隻に加え2隻を新造することが、ただちに8⇒10隻で2割アップの戦力発揮(作戦海域での行動)につながるわけではないのである。

すなわち、AA計画を断念する代わりに、相変わらずイージス艦2隻を日本海におけるBMDパトロール任務に張り付ける必要があるとすれば、南西方面で本来任務に就けるのは、2隻を新造したとしても艦艇の修理検査・運用サイクル全体を考慮すれば、現状からわずか0.75隻程度増えるにとどまるということになるという。(しかも、米海軍イージス艦の一定数も、日本周辺等での「BMDパトロール」への拘束が続き、その他の任務への運用の柔軟性にもつながらない。(前述のリチャードソン提督によれば、全部で6隻が現に洋上でのBMD任務に就いている。))(※)

※   加えて、池田論文でも指摘されているように、新たなイージス護衛艦を運用するために確保すべき最低600名の人員確保のための方策について、自民党国防部会・安全保障調査会合同会議に対して防衛省から説明された検討施策(海上自衛官の募集の強化、艦隊勤務の魅力向上、勤務環境の改善、女性自衛官の活躍推進、処遇の改善、定年延長、再任用の拡大など、要員確保策を総合的に強化する等)は、どれも即効性のある具体的な解決策としては疑問であり、典型的な「画餅」に過ぎぬものであったことは甚だ遺憾である。

ちなみに、海自関係者によれば、AA配備を前提(「BMDパトロール」からはリリース)としてイージス護衛艦8隻を運用する場合、南西方面等の本来任務に最大3-4隻振り向けることができたはず(+さらに、米海軍イージス艦も増派が可能)だったという。

つまり、今に至るも「『イージス・システム搭載艦』2隻建造」の意味するところをフルスペックの『イージス護衛艦』2隻だと誤解している政治家や国民はたくさんいると思うが、必ずしもそうではないということだ。この点は、敢えて確認しておきたい。昨年12月の閣議決定の複雑な言い回しが、その事実を如実に物語っているといえよう。

3.「イージス・システム搭載艦」の運用構想

(1) 基本的な考え方

結論からいえば、イージス・システム搭載艦は、その「運用構想」次第で様々なヴァリエーションが考えられるということだ。

では、「イージス・システム搭載艦」の運用構想はどうあるべきか。

忘れてはならないことは、AAの代替がイージス・システム搭載艦となったとしても、AA導入の目的、意義は、基本的に変わってはいないということである。つまり、「イージス・システム搭載艦」の主任務は、まず、AAが担うはずであった、平時からの24時間365日常続的な北朝鮮弾道ミサイル対処能力(ただし、近年の弾道ミサイルの飛翔経路の多様化や所謂「変則軌道ミサイル」等に加え、各種巡航ミサイルへの対処能力を確保することが必要)の代替にある。それによって、8隻のイージス護衛艦をBMDパトロール任務から解放し、本来任務に振り向け、海上自衛隊全体の運用の柔軟性を確保するとともに、訓練機会の確保や人員の負担の軽減を図ることに他ならない。したがって、イージス・システム搭載艦は、先ずは、そのような目的に資するような設計や配置を目指すべきである。

(2)「イージス・システム搭載艦」のイメージ

以下、私が考えるイージス・システム搭載艦のイメージを列挙しておく。

  • 洋上に出たとしても、できる限り陸上のAAと同様の常時持続性を追求する。言い換えれば、できる限り長期にわたり洋上にとどまる能力(滞洋性)を持たせることが肝要だ。
  •  したがって、推進システムは、可能な限り長期間無補給でイージスシステム搭載艦を稼働させられることが望ましい(主任務はBMDパトロールだから、速度は要求されないし、仮に南西方面での運用が必要とされる場合でも、その展開移動のためだけに高速力を確保しておく必要性はないであろう)。
  • 省人化、無人化、自動化を徹底するとともに、「クルー制」によって、洋上でBMDパトロールを継続しつつ、ヘリなどでクルーを入れ替える。運航等については海上自衛官が行うとしても、イージスシステムのオペレーターは(30大綱別表に明記されているように)陸上自衛官で行い、統合運用とする。
  • 配備位置については、まず、AA導入計画時に検討されたとおり、陸上沿岸部2か所のAA(SM-3 BlockⅡA搭載を前提)でも日本全域の防護が可能なことから、同様に「イージス・システム搭載艦」も、洋上沖合に進出させることを必須としない。
  •  また、平時の警戒監視や自隊警備、並びに人員の交代や補給活動等が容易で、かつ事態生起時の制海、制空権のカバーに有利な、陸地に近い沿岸海域が運用上も滞洋性の観点からも最適となる。
  •  (仮に、情勢により南西方面におけるミサイル防衛(有事が前提)に従事する場合にも、昨今の脅威認識からすれば、どのような形態の艦であれ、単艦で東シナ海前方に展開することは合理的ではない。)
  • したがって、平時においては、常続的なミサイル警戒を主たる任務とするとともに、事態生起時においても、航空機、水上艦、潜水艦等からの直接脅威の低い海域で活動することを前提とするならば、イージス・システム搭載艦には最低限の防御機能(たとえば、近接対空防御、対水上テロ攻撃防御等。自艦へのミサイル攻撃に対しては、固有機能で対処)の装備にとどめるに足るのではないか。

4.今後の検討課題

最後に、今後、検討していかなければならない課題について、いくつか付言しておきたい。

(1) 極超音速滑空弾のような新たな脅威への対処

近年、その存在が取りざたされている極超音速滑空弾等については、まだ米国も含め研究開発途上にある。小型衛星のコンステレーションや無人機などによる探知、追尾、エネルギー志向型兵器による捕捉、撃墜等が考えられるが、我が国も、セキュリティ・クリアランスの問題などを早急にクリアして早期の段階から米欧との共同研究開発に参画し、急速に高性能化する脅威に対処できるようにしていかなければならない。

なお、「イージス・システム搭載艦」についても、就役から除籍まで40年程度運用することが想定されるので、このような将来的なミサイル防衛機能についても対応できるような拡張性(スペースや電力供給等)は考慮しておく必要がある。

(2) 中国のA2/AD環境下における海上作戦

ア.「新たな戦い方」 “DMO; Distributed Maritime Operation”

これについては、「イージス・システム搭載艦」の在り方よりも幅広い議論となるが、海上作戦全体の中での位置づけを考える上でも関連する課題になるので、言及しておきたい。

現下の厳しいA2/AD環境下で、弾道・巡航ミサイルの飽和攻撃に対処しつつ海上作戦を遂行するためには、新たな装備体系の開発とともに、大きく変わりつつある兵力バランスの中での「戦い方」についても見直していかなければならない。その点で、米海軍において、「新しい戦い方」として導出された、“DMO”(兵力分散型海上作戦)を参考とする必要があろう。 すなわち、小型水上戦闘艦艇(新たなミサイルフリゲート艦(FFG)等)や大型無人水上艦艇(LUSV)等 、様々な水上艦艇に長射程の対空・対艦ミサイル等の攻撃力を持たせて分散配備するとともに、それらを高度なネットワークで連接することで、分散していながらも一体化した攻撃力を発揮し、相手の情勢判断、意思決定を複雑化するとともに、数的優位に立つ相手に対して制海権の獲得・維持を図る作戦、戦術だ。

日本の海上自衛隊で今後その役割の一翼を期待されるのが、現在、急ぎ配備に向け建造中の30FFMであろう。これまでに、1番艦「もがみ」、2番艦「くまの」が命名・進水式を終え、当面、年2隻ずつの急速調達が31中期防で計画されている。

また、現在、我が国では、攻撃兵器搭載アセットとしての無人艦艇(USV)開発は具体化していないが、米国では既に無人水上艦(Unmanned)や「選択式有人/無人艦」(Optionally Manned; 平時は少人数で各種任務を遂行し、有事やハイリスク場面では無人運用する小型艦艇)[6]が、試作、自律航行試験段階となっており、それらの状況についても、立ち遅れることのないように注視していく必要がある。

イ.長距離ミサイルの開発、配備

しかし、南西方面の現状は、それでもまだ足りないほど深刻だ。そこで、米軍では、インド太平洋軍が、第一列島線への陸上発射型の長距離ミサイル配備を含めた270億ドル(2022-27年)の予算要求を議会に提出した。[7]

同様に、我が国も更なる攻撃力の拡充が喫緊の課題だ。

この点、昨年12月18日の閣議決定では、イージス・システム搭載艦の導入と共に、「新たなスタンド・オフ・ミサイルを国内開発し、抑止力を強化する」方針を確認した。

すでに、航空自衛隊は、平成30年度予算で、射程500キロのJSM(Joint Strike Missile)の導入を開始するとともに、31中期防において、射程900キロのJASSM(Joint Air to Surface Stand-off Missile)、射程800キロのLRASM(Long Range Anti-Ship Missile)の整備を進めていくこととしているが、ここに今回の閣議決定で、スタンド・オフ防衛能力の強化のための国産ミサイル開発が加わることになったのである。

防衛省によれば、国産開発中の12式地対艦誘導弾(改)をさらに長射程化し、スタンド・オフ・ミサイルとして開発できる見通しが立ったという。しかも、このようにスタンド・オフ化されたミサイルは、閣議決定においても、「様々なプラットフォームからの運用を前提とした 能力向上型の開発」とされており、艦艇および航空機にも搭載しファミリー化する構想である。

これらを艦艇用として実用化し、JASSM並みの長射程が実現できれば、CSBA(Center for Strategic and Budgetary Assessments; 米国戦略予算評価センター)のトシ・ヨシハラがその論文[8]中において懸念した中国海軍に対する海自艦隊部隊の能力的なギャップ、特に長距離対艦ミサイル能力の空白を埋めることが期待され、中国海軍に対する劣勢を挽回する切り札の一つとなるのではないか。

(3)「打撃力」の保有について

我が国の「総合ミサイル防空」体制を検討するにあたって2つのディメンションで考えなければならないことは、本稿冒頭で述べたとおりである。

まず、北朝鮮からのミサイル防衛について、平時からの「イージス・システム搭載艦」による(極力、常続的に近い)ミサイル防衛態勢を確立することによって、南西方面への日米イージス艦の兵力展開を確保することを提唱した。しかしながら、それでも、有事にA2/AD環境下における「制海権」を獲得・維持するとともに、南西方面でのミサイル防衛態勢を確立することは、容易ではないことは、数々の研究者も指摘しているところである。

このことは、北朝鮮からのミサイル防衛とA2/AD環境下におけるミサイル防衛が、単なる「2方向対処」という性格のものではなく、「2つのディメンション(特質、様相)の差異」であることを如実に物語っている。特にA2/AD環境下におけるミサイル防衛に関しては、質・量ともに急速に増大していく中国の弾道・巡航「ミサイル脅威」が、我が国の「ミサイル迎撃能力」を超える場合、それ自体が「抑止力」とはならない。したがって、それを補完する「抑止力」としての「打撃力」(自衛反撃能力)(※)を持つことについての議論から目を背けることはできない。

※   現に、我が国がミサイル攻撃を受けた場合、国際法並びに我が国の憲法解釈(専守防衛の考え方等)の範囲内において自衛的に反撃する能力とその意思を持つことによる「拒否的抑止力」。所謂「防衛的先制攻撃」ではないことは、誤解のないようにしておきたい。

またそれは、我が国単独の問題ではなく、米国との情勢認識の共有のもと、日米RMC協力の中で、「打撃力」による抑止力の在り方についても真剣に考える必要がある。

そして、日米は、従来の「盾」と「矛」の分担にとどまらず、「盾と矛」の双方を適正に補完するという新たな次元に進むことを検討することになるかもしれない。それは、決して米国による「拡大抑止」の信頼性が揺らいでいるということではく、むしろ、「自由で開かれたインド太平洋」の達成のために、我が国が能動的・主体的にどのような役割(たとえば、これまでの受け身の姿勢から能動的な“Security Provider”となる等)を果たすべきかという、その安全保障戦略をもう一度問い直す時期に来ているということであろう。[9]

過去、日米防衛ガイドラインは、両国を取り巻く安全保障環境の変化に応じて、日米防衛協力の在り方を再定義してきた。[10]今後の更なる情勢変化の中、抑止力としての「盾と矛」の補完関係のあり方を見直すのであれば、日米防衛ガイドラインにおける再定義に取り組んでいく必要もあると考える。

CSBAのトシ・ヨシハラが警告するまでもなく、我が国を取り巻く情勢は「待ったなし」の情勢にあるのだ。


[1]防衛省HP https://www.mod.go.jp/j/approach/surround/pdf/dprk_bm.pdf

[2]産経新聞』2020年9月29日

中国ミサイル発射100発超 昨年、日本射程も多数 米衛星探知
 中国が弾道ミサイルの開発や運用訓練のため昨年1年間で計百数十発を発射していたことが29日、分かった。米軍の早期警戒衛星などが探知した。複数の関係筋が明らかに…

Department of Defense, Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2020, Annual Report to Congress (September 2020) p. 55. https://media.defense.gov/2020/Sep/01/2002488689/-1/-1/1/2020-DOD-CHINA-MILITARY-POWER-REPORT-FINAL.PDF

[3]Congressional Research Service, Navy Aegis Ballistic Missile Defense (BMD) Program: Background and issues for Congress (updated February 25, 2021). https://fas.org/sgp/crs/weapons/RL33745.pdf

[4]Dennis M. Gormley, Andrew S. Erickson, and Jingdong Yuan, “A Potent Vector: Assessing Chinese Cruise Missile Developments,” Joint Force Quarterly 75 (September 30, 2014). https://ndupress.ndu.edu/Media/News/News-Article-View/Article/577568/jfq-75-a-potent-vector-assessing-chinese-cruise-missile-developments/

[5] 池田徳宏「『イージス・システム搭載艦』は海自に何をもたらすか」(『軍事研究』2021年3月号)

[6]Bryan Clark, Timothy A. Walton, Taking Back the Seas: Transforming the U.S. Surface Fleet for Decision-Centric Warfare (CSBA, December 31, 2019).  https://csbaonline.org/research/publications/taking-back-the-seas-transforming-the-u.s-surface-fleet-for-decision-centric-warfare/publication/1

[7]Defense News (March 1, 2021). https://www.defensenews.com/congress/2021/03/02/eyeing-china-indo-pacific-command-seeks-27-billion-deterrence-fund/

[8] Toshi Yoshihara, Dragon Against the Sun: Chinese Views of Japanese Seapower (CSBA, May 2020). https://csbaonline.org/research/publications/dragon-against-the-sun-chinese-views-of-japanese-seapower/publication/1

[9] 日本が矛(打撃力)を保有することについては、北岡伸一・森聡「ミサイル防衛から反撃力へー日本の戦略の見直しを」(『中央公論』2021年4月号)が法的問題も含め精緻な分析をしている。

[10] 例えば、1978年ガイドラインでは、米ソ冷戦下における日本有事における日米の役割分担;1997年ガイドラインでは、冷戦崩壊後における平時、有事、周辺事態(北朝鮮、台湾) における日米の役割分担;2015年ガイドラインでは、米国の相対的な影響力の低下の中、多様な脅威(北朝鮮、中国、国際テロ)に対する「平時~グレーゾーン~有事」における日米の役割分担などが日米間で合意された。


編集部より:この記事は、衆議院議員の長島昭久氏(自由民主党、東京21区)のオフィシャルブログ 2021年3月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は衆議院議員 長島昭久 Official Blog『翔ぶが如く』をご覧ください。