英イングランド・ウェールズ地方(英国の総人口の約90%が住む)では、今秋から「性・ジェンダーが起因となった犯罪」を記録する試みが始まる。
すでにいくつかの警察署はこれを実行しているが、同地方の全43の警察署で義務化されることを政府閣僚が17日、議会で発表した。
現在、司法改革を目的とする調査委員会「ロー・コミッション」が「ヘイトクライム(憎悪犯罪)関連法」に女性蔑視(ミソジニー)による犯罪を含めるかどうかを調査中で、年内には結論が出る予定だ。
女性蔑視をヘイトクライムにするため運動を続けてきた野党・労働党のステラ・クリーシー議員は、記録義務化の試みを歓迎した。「女性への憎悪による犯罪が記録されると、問題の大きさが把握しやすくなり、犯罪防止に役立つ。女性たちが被害を警察に届け出る際にも、真剣に受け止められるようになるはずだ」。
17日の議会討議は、サラ・エバラードさんが帰宅途中に殺害された事件をきっかけに高まった、女性に対する暴力への抗議運動を背景に行われた。
野党議員らの質問に答える「クエスチョン・タイム」の答弁に立ったジョンソン首相は、英国は「女性の懸念に対処できていない、日常的な性差別の根本的な問題を解決しなければならない」と述べた。
現行の法律では、ヘイトクライムとは人種、宗教、性的志向、障がいあるいはトランスジェンダー(身体的な性別と自認する性別が一致していない人)としてのアイデンティティを起因とする攻撃、嫌がらせ、そのほかの損害を与えたときに行われた犯罪を指す。
元巡査、「自分の身に起きた犯罪は報告しにくい」
女性蔑視を犯罪としてすでに記録している警察署の1つが、イングランド地方東部のノッティンガムシャー警察だ。
導入の中心的人物となったのが、スザンナ・フィッシュ元巡査。フィッシュ氏は30年間警察で勤務後、2017年に退職した。フィッシュ氏は、15日、サラさんへの追悼に集まった人々に対する警察の対応を「女性蔑視的」と呼んだ。
フィッシュ氏がBBCラジオ4の「ウーマンズ・アワー」(17日放送)に出演して語ったところによると、記録導入の際には同署の中で「かなりの抵抗があった」という。
「警察の中にはいまだに性差別主義や女性をモノとして見る女性蔑視の有害な文化がある」。
フィッシュ氏が警察での勤務を開始した「1980年代よりはずいぶん変わった。でも、社会の変化に追いついていない」。
もし自分が犯罪の被害者になったら?「届け出る前に、じっくりと考える必要がある。どのように受け止められるかを考えてしまう」。
すべての警察官に十分な理解があるわけではないという。
「有罪率(が低いこと)も考慮するし、刑事事件の捜査から裁判までの司法体制の中で、女性は報われない。無限に屈辱を与えられ、何度も何度も同じ話を繰り返して説明しなければならない。はたして自分が言ったことを司法側が信じてくれるだろうかと思いながらの行動になる」。
被害者を責めることが「風土病のようになっている」、「自分の身に起きたことを説明し、正当化しなければならない。非常に困難なプロセスだ」。
一方、同じ番組に出たハンプシャー警察のオリビア・ピンクニー巡査は「全英巡査カウンシル」を代表して、「女性たちが勇気を出して声を上げれば、警察も含む誰もが耳を傾けると思う。毎日、具体例を見ている」。
時には「間違えることもがあるが、間違いは指摘してほしい。改めることができる」。
ロンドン警視庁は、新型コロナウイルス感染阻止のために集会が禁止されている中、サラさんのために集まった人々の一部に手錠をかけたり、押さえつけたりし、その様子が大々的に報道されて、批判を招いた。
クレシダ・ディック警視総監は警察官らの行動について「見直しが必要」としたものの、対応自体は「大人数の集団」に対処するため必要だったという見方を示している。
プリティ・パテル内務相は警視庁の対応について独立調査の開始を依頼した。
一方、17日、北西部に位置するグレーター・マンチェスター市はジェンダーを起因にした攻撃をなくするための10か年計画を提案した。提案は、女性蔑視をヘイトクライムの1つとし、男性の意識変化をもたらすキャンペーンを行うことを目指す。
同市で記録された年間暴力事件の中で、家庭内暴力、レイプ、ストーキング、脅し行為などは45万件に上る。
計画案によると、ジェンダーを起因とする攻撃を撲滅するための委員会を設置し、こうした攻撃の被害者も参加する。
グレーター・マンチェスターのアンディ・バーナム市長は男性たち、少年たちが「自分たちの行動について考え、女性、少女たちが自分たちの行動によってどう感じるのか」を顧みるキャンペーンを開始したいという。
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編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2021年3月23日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。