先日、「銀歯治療は時代遅れ 再び虫歯になるリスク高く、歯の寿命も短くなる(NEWSポストセブン)」と題された記事がでました。
同様の記事は度々広まるので、その都度我々は偏った認識であることを現場で伝えなければならなくなり、大変迷惑しております。
不正確な情報を正し、歯医者の一般的な考え方に関して伝えていくのも、このような偏向記事がでるたびに繰り返さなければならないと感じております。
まず大前提として引用記事の冒頭に指摘がある通り、歯科医から治療法の説明を受け疑問を感じた時は、患者の側から質問をするのは失礼でもなんでもありません。それに対し歯医者が誠実な回答を行うのは義務であり、可能であれば複数の治療法のリスクと利点を比較提示するのが望ましことです。
あらゆる医療は自分の体に多かれ少なかれダメージを与えるものなので、患者とドクターの間でしっかり情報交換しゴールを共有した上で進めていくのが、なにより重要だと考えています。
この前提の上で、銀歯による修復も手段の一つとして決して悪いものではなく、特に隣同士の歯の接触点が失われた状態で、歯を部分的に修復する場合は金属での修復が有利です。(図・文 下記文献 P.139)
金属には樹脂材(レジン)やセラミックスとは比較にならないほど薄く、細く作っても耐えられる性質があり(展延性、靭性)、このような部分的な修復には向いている材料とも言えます。銀歯だから再び虫歯になるリスクが高いというのは論拠に乏しいですし、金属アレルギーに必ずしもなるわけでもありません。
一方で銀歯での部分治療だけが正しいというつもりもありません。歯の状況はケースバイケース、歯医者それぞれの得意不得意もあります。あくまで他の治療法と比べて虫歯治療リスクが高いわけではないという部分がエビデンスに基づく情報になります。
そして記事の中で特に印象操作されていると感じるのは、「銀歯はもうかる」という点です。
以前にも書きましたが、金・パラジウムという原材料価格の高騰によって、歯科医院は金属の仕入れ値で苦しんでいます。テナント料と人件費次第というところではありますが、「銀歯作ったら赤字!」というクリニックも現実として存在します。
次第に銀歯が少なくなってきたのは、数年前の保険制度改正で「銀歯より合成樹脂の歯のほうがもうかるようになった」からです。
もちろん多くの歯医者は儲かるか儲からないかだけ治療法を選びません。儲かるのは経営上重要な要素、そして良い経営は良い医療体制を維持するために必要ではありますが、それをいうなら「セラミックが一番もうかる」わけなので、銀歯でもうけるというのはだいぶ違和感があるように感じます。
(参考)保険のメタルインレーは本当に赤字なのか?|歯科保険診療と収益について考える|note
(関連)シュリンクフレーションでの新しい価値(例・歯科の新材料) – アゴラ (agora-web.jp)
ここまで様々な論拠を示してきましたが、それでも一般の方々に何が確かであるかを伝えるのは難しいというのは分かっています。
私がこれだけは伝わってほしいと思うのは、これから治療を受ける機会があった時、疑問に思うことがあったら遠慮なく質問して欲しいということです。
どの治療法を選ぶかは患者さんに委ねられていますが、最初からこの材料はダメと決めつけられてしまうと、治療の選択肢が狭まってしまいます。何が最善かは現場でしかわかりません。歯の状態に応じた治療法のメリットとデメリットを話し合う過程で患者さんと歯医者さんが信頼関係をつくり、一緒にゴールに向かって進んでいけたら、それが良い治療なんだと思います。