直近3ヶ月、全く失敗経験がないビジネスマンは危機感を持った方がいい

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

kazuma seki/iStock

筆者が昔、起業に際して感銘を受けた言葉がある。それは「3ヶ月前が大昔に感じない事業者は焦った方がいい」というものだ(詳細は「3ヶ月前がすごい昔に感じない事業者は焦った方がいい」の過去記事にまとめた)。理由としては、世の中の変化の影響を強烈に受ける事業者の立場では、新しい挑戦を続ける必要があり、そのような挑戦者の立場だと3ヶ月間で大量行動を伴うからである。結果として、極めて濃密な3ヶ月間となることにより「3ヶ月前がすごく前の出来事」と錯覚するという話だ。

今回はそこから更に話を発展させ、事業者だけに留めず会社員も含めて、「直近3ヶ月を振り返って、失敗していない人は危機感を持ってほしい」という提言をしたい。まったく失敗していないということは、まったく挑戦をしていないということを意味する。そしてそれは、脳の老化の促進を招く恐れがあると考えるのだ。

まるでクリックを誘うような、挑戦的なタイトルになっていると感じたらそこをわびたい。だが、本稿の大筋は決して煽り過ぎでも無いと思っている。論拠を下記に展開したい。

 どんな仕事もルーチン化して刺激がなくなる

新人として配属されれば、仕事には緊張感と刺激に溢れている。読者のあなたも、高校・大学卒業後にはじめて仕事をする時のことを思い出してもらいたい。

未知の仕事は日々、学び多き知見と、ビビッドに記憶に残る刺激にあふれている。「ミスをしてはいけない」という緊張感に、帰宅後は疲労困憊であろう。だが、仕事をすることで効率的、効果的にビジネスを進めていく力を得て、文字通り爆発的な成長を遂げていく。誰もがそうやってベテランへの階段を登っていく。

だが、どんな仕事でも時の経過で「慣れ」を作る。同じタスクをこなしていれば、技術が洗練されてミスもなくなる。無意識に手が動くことで、脳のリソースも省エネになるだろう。仕事をする上ではいいことづく目のように思える。だがその一方で、脳への刺激はなくなっていく。新人の頃は一つ一つの手順を意識してやっていた仕事も、慣れ親しむことで無意識でこなせるようになっていく。こうなると、脳への刺激がなくなり、結果として老化が進んでしまう。仕事を通じて楽しさも感じられず、「何か楽しいことはないか」「このまま、今の仕事を続けてよいのか」と生き方の模索を始めるのも、すっかり仕事に慣れた20代後半から30代前半で感じることだ。

 脳のアンチエイジングにオススメなのは「失敗」

世の中に数多ある「アンチエイジング」がある。昔は任天堂のソフトで「脳トレ」が大ヒットしたこともあった。だが、計算問題や記憶クイズに勤しむより、遥かに脳への刺激になるものがあると筆者は考えている。それが「失敗することの勧め」である。

「失敗せよ」などと言う主張に対して、ほとんどの人は否定的な見方をするだろう。それはわかる。もちろん、わざと失敗するなどと稚拙な提案をするつもりはない。筆者が言いたいのは、「これまで未経験だった分野に、積極挑戦しよう」ということなのだ。

未経験の分野は知識も乏しく、経験もない。誰しも失敗する。しかし、それが大いに脳への刺激になると考えるのだ。成功体験の渦中では、細かいフィードバックを見落としがちだ。下手をすると、偶然や運、外部の協力など外的要因に助けられたことを見落として、「自分は天才だ。できる人間なのだ」と自身の能力を過大評価するリスクもある。一方、失敗するとそこから得られる知見は幅に膨大であり、また、理解も記憶の奥底に深く入り込む。

筆者はこれまで数え切れないほど仕事で失敗してきた。穴があったら入りたくなるような、そんなひどい仕事をしてたくさん恥をかき、自分の情けなさと無力感に悔しさで眠れない夜も何度も経験している。ビジネス記事の執筆でも、たくさんのお粗末な記事を書いてきたことで、何度か炎上してしまったり、ビジネス講演でも緊張のあまりノドがカラカラ、途中、自分でも何を言っているのか分からないような経験もしてきた。

だが、失敗した苦しみにのたうち回るような経験をするからこそ、その苦しさの波が引いた後は徹底的に思考を深める。考え、調べ、学び、そして二度と失敗をしないと心に誓う。この繰り返しで人は成長をするし、脳や感情もビビッドに保つことができるだろう。

失敗をしなければ、人は大きく成長できない。そして時々、失敗をするような挑戦をしなければ脳は老化の一途をたどってしまうのだ。

 失敗なくして成長はありえない

そしてこの失敗は、慣れ親しんだ仕事やタスクでは起き得ない。そうではなく、未知の領域を開拓し、都度学びながら様々な施策を試す中でしか磨かれることはないのである。だから「直近で失敗を経験していない」という方へ、新たななる挑戦を推奨したい気持ちになる。

「自分は起業家や投資家などではない。そのようなリスクを背負って挑戦することが許される立場ではない」

そんな反論があるかもしれない。だが、挑戦というのは特別な人にのみ許されるものではない。すべからくどんな人にも、挑戦の門戸は開かれている。

たとえば人生向上の目的でスキルアップ学習もその一つである。筆者は英語多読を教えている立場だが、日々「今度こそ、英語で人生を変えます!」とアツい情熱を持った学習者の訪問を受ける。学習者にとって英語学習は立派な挑戦だ。そして正直な話をすると、受講生の全員100%が大成功しているわけではない。「ご指導のおかげさまで英検1級に一発合格しました!」「アメリカのIT企業へ転職できました!」という吉報を頂く一方で、「頑張ったのですが、英検合格に至りませんでした」という負のオーラをまとう報告を頂くこともある。だが、ここからが真のスタートである。

筆者は毎回、思うようにいかなかった学習者を鼓舞している。「挑戦をしている時点で、あなたは素晴らしい」と。そして「失敗したというなら、やるべきことはここからどれだけ学びを得るかですよ」とも伝えている。こちらの言葉が響いた方の中には、1度目は不合格でも、2度目、もしくは3度目の受験で見事合格をもぎ取る人もいる。そして失敗を経て合格した人ほど、明らかに大きく成長している。失敗から大きく学びを得たからだ。おそらく、脳や感情の若返り効果もあっただろうと推測する。英語力を伸ばして喜ぶ学習者を見るたび、嬉しく思うし彼/彼女らの成長を実感する。

誰しも失敗に苦しみたくはないし、新しい挑戦をするより慣れ親しんだタスクで、楽をしたいと考える。脳は水と同じで、高きより低きに流れるからだ。だが、人間を人間たらしめる要素の1つとは、どれだけ本能に屈することなく、フロンティアを開拓して自分を高めることができるかだと思っている。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。