創業の「創」という字には物事を始めるという意味と共に「はじめてつくる」という意味があります。70年代、80年代に創業したビジネスにはどちらかと言えば「はじめてつくる」の意味が強くあり、それが「祖業」となって残っていることもあります。
ところが最近の事業形態でこの「はじめてつくる」を率先している企業や事業が減ってきてしまっています。様々な理由は思いつきます。何十年という間に起業家(企業家)たちが切磋琢磨して新しいビジネスを立ち上げたのでニッチビジネス(すきまビジネス)がもうない、とまで言われています。
最近の日経ビジネスの特集に「儲かる市場は消える、レッドオーシャンで勝つ」とあります。読んでいて日本らしいなと感じます。同じ枠組みの中でどんぐりの背比べをしてほんのちょっとの差で「俺、お前より1センチ、背が高いぜ」と言っているような感じなのです。
コロナ禍でバラエティ食堂ならぬバラエティ飲み屋の典型である居酒屋が撃沈され、消費者はターゲットを絞って外食を楽しんでいると報じられています。それが焼き肉、回転ずし、ハンバーガー、ラーメン…なのであります。ワタミはそれこそ祖業の和民の居酒屋チェーンを投げうって焼肉屋に業態変更する、だけど他の所より1センチ背丈を伸ばすために「おれ、ロボットあるしー」なんです。私からすれば「それで本当に勝算があるのか?」と聞いてみたいのです。
最近、焼肉屋が流行っている理由のひとつが家で焼き肉屋の味が出せないから、とされています。それはご自宅でフラット型のホットプレートを使うからかもしれません。それでは油が落ちないのでおいしくないのです。焼肉の本場、韓国の焼き肉用プレートは表面に段差をつけて斜めになっているので肉の油が一定方向に落ちます。つまり、ご自宅で焼き肉用のプレートを使えばこの問題はかなり改善され、ワタミは必ずしも苦境から脱せられるわけではなさそうです。ちなみに私、ステーキもこの焼き肉用のプレートで焼きます。BBQと同じで油が落ちて旨いです。
私は自分の創業事業では改善を繰り返し、足を止めないようにしています。今でもアイディアがありすぎて事業資金は十分ではありません。ただ、一度にできないので一つずつ、こなしていくつもりです。例えば最近、フィージビリティー調査に入ったのが電気自動車用チャージャーを自社で所有する有料駐車場に設置することです。これだけ聞いても「へぇ、それで?」だと思います。実はこの駐車場の周りには電気自動車対応がない駐車場を持つ集合住宅がずらり並びます。この住民が電気自動車が欲しくても自分の駐車場でチャージができません。一方、管理組合もごく一部の住民のためにチャージャーへの投資はしにくいのです。だから近隣住民用に入口にゲートがあって安心安全でかつ、電気自動車のチャージャー付駐車場なら売れそうだと思うのです。
マリーナについてはクラブハウスを作りたいのです。小さなソーシャルルームでよいのです。施設内のボートオーナーが気軽に立ち寄れてビールなりコーヒーを飲みながら盛り上がったら「俺のボートに来いよ」というソーシャルネットワークの導入を支援する施設です。コミュニティから生まれるビジネスもありますが、顧客のニーズを拾い上げるアンテナ施設の意味合いも持たせたいのです。他のマリーナにはなかなかありません。私はゴルフ場のクラブハウスを業務上研究していた26歳の時にレクリエーショナル施設におけるソーシャル活動との親和性について一定の結論を得ました。これをマリーナに取り込んでみたいのです。
開発中の介護施設。私は入居者の状況をテクノロジーで管理支援する仕組みを取り入れてみたいとおもっています。世にある介護施設の運営は運営者の方針の影響力が大きいように見えます。一定の強制力という点でテクノロジーが遅れている分野の一つだと思っています。かなりローテクで入居者もスタッフもへとへとで今後の増大する高齢化社会と需要に対応しないだろうなと感じるのです。そこに光を当ててみたいです。
レッドオーシャン化するというのは概ね、「儲かりそうだから」「人気があるから」であります。そこには創業者としての独創性や知見というより単なる先駆者のコピーで1センチだけ背伸びをします。ここまで書けばお分かりになると思いますが、「出る杭は打たれる」が日本の基準になってしまった感があるのです。出たいけど出られない、だから潜水艦が潜望鏡を出すように1センチだけ顔を出す、そんな社会になっているのです。
リスクテイクとチャレンジは当然なのですが、「アイディアは思わぬところに転がっている」こと、自分の人生の中で見落としていた気づきが10や20は必ずあるはずです。「なぜ、あのとき、あぁだったのだろう」と。それを何年も経って見返すと思わぬビジネスへの閃きがあるかもしれません。
ボーっとしていたら何も見えません。目を凝らしてじっくり探してみてください。必ず、ヒントがあると思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年3月31日の記事より転載させていただきました。