2020年度の新規国債発行額は新型コロナ関連予算の影響を受け、112兆円という莫大なものになりました。これは例年の一般会計歳出を上回る額であり、税収の倍に相当します。
ご存知の通り国債は純増を続けており、昨年度の政府の国債費は23兆円(うち債務償還費14兆、利払い9兆円)に及びます。消費税1%分の税収は2.7兆円と言われているので、国債利払いだけで2018年度の消費増税分は消えてなくなります。国民医療費42兆円、生活保護費2.6兆円、防衛費5.3兆円などと比較しても膨大な金額が国債費に消え、政府予算を圧迫していることが分かります。
それでも現状が維持できているのは低金利が続いているからです。今後金利が上向くと国債利払いが跳ね上がり、債務不履行つまりデフォルトのリスクが高まります。デフォルトした国家の紙幣は信用を失うためハイパーインフレとなり、国民の円建て貯蓄はリセットされます。こうなったら社会保障も国防も成立しなくなり、おしまいです。
財務省と日銀は金利の上昇が日本の国家としての最大のリスクであることを十分理解しており、金融緩和などを通じて低金利を維持し、ハイパーインフレが起こらないようにかじ取りしています。結果としてハイパーインフレは起こりませんが、それ以外のあらゆる手段を取り得ます。
(参考)⽇銀がしていることは財政ファイナンス? - みずほ総合研究所(2020年7月21日)
今後も引き続き新規国債発行と低金利を両立するためには金融緩和だけではなく「日本政府は債務を履行する意思も能力もある」と内外に示し続けることが必要です。
つまり、かつて世界第二位の経済大国であった日本政府への信用が辛うじて現状維持を担保していることになります。毎年10兆円単位の、いかに低金利とはいっても次第に増加する利払いがどんなに苦しくても、対外的には余裕で返せますよという態度を示し続けなければなりません。
その態度表明が「増税」です。
炭素税しかり、消費税しかり、社会保険料増加しかり、政府はあらゆる手段でお金を必死に集めて、「返すアテがあるから、借金の限度額はまだまだ引き上げられますよ」とアピールしています。建前では「消費増税は社会保障費の予算」などと説明しますが、実際には国債費とのバランスが強い増税圧力になっています。
つまり増税を許す限り、新規国債発行を真剣に削減しようということにはなりません。
だからこそ「減税」の訴えが必要です。減税が急進的だと思うなら「1円たりとも増税は許容できない」でも構いません。
これ以上の増税を国民が拒否すれば、もう国債利払いの担保として増税を使うことはできません。対外的に返済意思を示すためには歳出を減らすしかなくなり、日本円の価値を維持したい財務省は自発的に歳出削減に取り組むことになります。
減税は抗癌剤と同じだと考えています。
岩盤規制などの政治的に大きな病巣は外科手術で摘出しますが、それは総理大臣一人の政治生命が終わってしまうほど多大な政治的リソースが費やされます。日本には巨大な岩盤規制の病巣だけでなく、時代にそぐわない無数の小さな補助金・税制の病巣がたくさんあるので、毎回外科手術をするのは非現実的です。
抗癌剤は全身に負担を与えますが、重要な臓器よりも先に病巣、特に小さな病巣を効果的に消滅させていきます。重要な臓器というのは、社会保障や国防など、国民が安心安全に暮らすのに必要なものを指します。減税による歳出削減でこれら重要臓器を真っ先に犠牲にする政府は、次の選挙で無事ではいられないでしょう。
複雑な利権と慣習、規制が絡み合った日本では、一つずつとりあげて改革してくだけでなく、国民の訴えに基づく予算キャップの設定や、法制度の総量規制といった手段がこれからは重要になってくると考えています。
(関連)トランプ大統領、最大の功績は「2対1ルール」の徹底だった ― Smart FLASH (2020年11月1日)