鉄鋼王アンドリュー・カーネギーは「大事業家になる条件」として、①貧困に育つこと、②または貧困を経験すること、③大学を卒業しないこと、④機械的に仕事をこなすだけの人間にならないこと、の四点を挙げられているようです。カーネギーは私が非常に尊敬している人物の一人ですが、率直に申し上げて最初の3つは、私には余りピンとこない見解に感じられます。
例えば、大富豪の下に生まれ「①貧困に育つこと、②または貧困を経験すること」もなく、その富を更に大きくして、大変な事業を興して行った人もいます。他方、貧困の度が深まる程に、世を恨み、人を恨み、天を恨み、性格が捻じ曲がって行くような人もいます。貧困が人を悪くし、大事業家への道を遠ざけるといったケースもあるわけです。
勿論、ビル・ゲイツの例などは「③大学を卒業しないこと」に当て嵌まるのかもしれず、大事業家にも色々なケースがあると思います。しかし正しいとか間違っているとかではなくて、私自身は冒頭挙げたような画一的な考え方を余りしません。人の運命は皆それぞれ違いますから、一つの割り切りで判断できないと考えます。一人ひとり与えられた天命があるということです。
唯、「④機械的に仕事をこなすだけの人間にならないこと」だけは、「大事業家になる条件」としても当て嵌まるのではないかと思います。10年以上も前になりますが嘗てのブログ『「企業30年説」を打破する為に』で、私は役職員自身の仕事の社会的意義への意思というものの重要性につき述べたことがあります。
即ち、「自分のしている仕事の社会的意義を本当に理解し、その意義を具現化するため一生懸命全力投球しているかどうか」「自分の考えていることについて、その意義を十分に分かって考えているかどうか」「あらゆる仕事・行動には、それなりの意義が無ければならないといった気持ちを持っているかどうか」というように、ある意味こうした思考は人間だけの特権と言えるものです。
ルーティンで何も考えず機械的に仕事をするのではなくて、どれだけ真剣になってその人間だけの特権を行使しているかこそが最も大事だと私は思っています。自分が担当している仕事の社会的意義を常に考え、それが分かったら如何にして改善・改良を成し得るかと次から次に考えるのです。之は、一つのクリエーション(創造)と言えましょう。
真に仕事ができる人は、出来るだけ品質の高い商品・サービスを受益者や消費者に提供するには如何なる方法があるかといった類を超え、イノベーションを起こして行くことが出来るのではといった所までどんどん考えを膨らませながら、新たな仕事を創り出して行くものです。
何れにせよ、社会的意義への強い意思を持ち続け、必死に仕事に打ち込んでいたならば、それなりのものが必ず身に付いてきます。自分自身の人間的な成長が、目に見えて明らかになります。その努力に対し天が様々な御縁を与えてくれたり、様々な飛躍のチャンスもやってくるのです。
編集部より:この記事は、北尾吉孝氏のブログ「北尾吉孝日記」2021年3月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。