人民解放軍に勝てない米軍、バイデン政権が日本に求めるものとは?

先般、バイデン政権の閣僚が初の外遊先として日本を訪れ、バイデン大統領が会う最初の海外首脳が菅総理となるニュースが報道された。

ホワイトハウス公式サイトより:編集部

一連のニュースを表面的に見ると、「バイデン大統領は日本を大事に思ってるんだな」「日本人としてうれしいな」と考えると思うが、筆者は違った見方をしている。

筆者はバイデン政権がいかに中国の脅威を深刻にとらえており、その脅威を抑えるために日本を利用したいというバイデン政権の思惑を読み取った。

現在、アメリカは主に二つの面で中国を脅威に感じている。ひとつは経済面だ。中国は2030年までにアメリカの経済規模を抜くと言われており、アメリカは雇用喪失や、国際的な競争力を失うことを危惧している。

今のままでは米軍は勝てない

一方で、安全保障面でもアメリカは中国を脅威ととらえられている。中国は長いスパンで東アジアにおける米軍の活動を無力化するA2AD戦略を実施している。もし仮に南シナ海や、台湾をめぐって有事が起こった場合、米シンクタンクのランド研究所と国防省によって行われたシュミレーションゲームによると、現状では米軍は全敗に近い結果になっている。

アメリカが苦戦する理由は、中国との中距離ミサイル(射程距離500kmから5500km)の保有量ギャップだ。

1988年アメリカはロシア(当時のソ連)との間に結んだINF条約(中距離核戦力全廃条約)に則って、中距離ミサイルを削減してきた。一方で、INF条約という枠組みにとらわれなかった中国は着々と中距離ミサイルの保有量を増やし、今では世界で最もその形式のミサイルを持つ国になっている。

中国との中距離ミサイル保有量ギャップを埋めるために、2019年アメリカはINF条約を破棄。新たな中距離ミサイルの開発を開始、同時にミサイルの配置先を探している。

ここで登場するのが日本だ。仮に台湾有事になれば、台湾防衛に向かう米軍を阻止するために沖縄米軍基地は攻撃される可能性が高い。そのためアメリカとしては、中国の行動を抑止するためだけではなくて、いざ攻撃された時のために中距離ミサイルを日本に配備したいと考えているはずだ。

以上の理由から、あまりにも厚遇とも言えるバイデン政権の日本に対するアプローチは、実は日本にミサイル配備を求める地ならしではないかと筆者は考えている。

どうなるミサイル配備

過去の戦争の記憶から、日本人は軍事的な「もの」に対するアレルギーが根強い。政治家も防衛予算の拡大、軍事的アセットの配備などを国民に求めることを躊躇する。

日本の国民と政治家の特徴が現れたのがイージスアショア問題であった。秋田県でミサイル迎撃システムの一種であるイージスアショアの配備計画不備が判明、住民の反発を誘発し、最終的には当時の河野防衛大臣が配備計画を撤回する形で計画が立ち消えたという問題だ。配備計画の撤回が正しかったかどうかの話には踏み込まないが、確かなのは政治が軍事的なものに対するアレルギーから誘発される世論の抗議に折れたということだ。

しかし、中距離ミサイルの配備の是非を巡っては日本は折れるわけにはいかない。もし、日本でミサイル配備が果たされなければ、人民解放軍の東アジアにおける優位性は維持され続けるままである。また仮に台湾が中国に奪取されることが起きたならば、日本の生存に不可欠なシーレーンが中国の傘下に入るということを意味し、死活問題になる。

そのため、たとえ世論の壁があったとしても、政治家たちはその壁を乗り越えてミサイル配備を前にすすめなければいけない。また、国民は国論を二分するであろうミサイル配備をめぐる論争に備える必要がある。