特区判決を報じない毎日新聞は「リコール隠し」と同質

篠原孝議員と私の訴訟の判決(3月29日東京地裁)は、私個人の名誉回復を超えて、大きな意義を持つ。その一つが、マスコミ・野党の国家戦略特区に関する疑惑追及が根本的に間違っていた、と明らかになったことだ。

東京地裁 Wikipediaより

国家戦略特区の疑惑追及は、ここ数年、規制改革の停滞をもたらした。国家戦略特区は、岩盤規制改革の切り札として2013年に創設され、初期には成果を次々に出した。しかし、2017年以降、動きがぱったりと止まった。最大の要因が「加計問題」。「国家戦略特区で安倍首相の友人に利益誘導」との疑惑追及がなされたことだった。国家戦略特区ワーキンググループ(特区WG)の委員として関わってきた私からみれば的外れな疑惑だったが、それで改革の推進力は一気に低下した。

2019年には「第二の加計問題」を狙ったのか、私自身の疑惑もでっちあげられた。国家戦略特区の提案者からの金銭提供、会食接待があったと毎日新聞が虚偽報道を流した。篠原議員はブログを公表し、森ゆうこ議員らは国会や野党合同ヒアリングで追及を繰り返した。

どちらの事案でも共通していたのは、「国家戦略特区では、関係者に特別な利益を与えられる」との前提だった。この前提に基づき、もっともらしく疑惑が組み立てられた。しかし、そもそもこの前提自体が誤解だ。規制改革は、実現すれば、誰もが新たな規制の適用を受ける。だから、特定の者への利益誘導はできない仕組みなのだ。

獣医学部の場合は従来、合理的な理由なく、新設の申請が一切禁止されてきた。規制改革により、申請できるようにした。申請内容が十分妥当かどうかは、文科省が審査する。したがって、首相や特区の民間委員たちには、どうやっても「利益誘導」できる余地がなかった。

問題は、申請できるのが「一校限定」だった点だが、これは、文科省と獣医師会が「一校限定」を強く求めた結果だった。マスコミ・野党は「一校限定はおかしい」と批判すべきだったが、「解禁は利益誘導だ」と的外れな追及を続けた。これは、背後に規制改革を止めたい勢力がいたからだ。私はこうした追及の構造を「新・利権トライアングル」と呼んでいる。

2019年の私の疑惑追及も同様だった。「国家戦略特区ワーキンググループ(特区WG)は提案を選定する立場」との間違った前提で、デタラメがでっちあげられた。「選定」を有利に取り計らってもらうために、金銭提供や会食接待がなされたというわけだ。

虚偽報道に私が反論すると、毎日新聞や篠原議員らは「金銭提供があったと書いたつもりはない」と言い逃れを始めた。記事の真意は「国家戦略特区の中立性・公平性に関する問題提起」、つまり「特区WGは提案を選定する立場であるにもかかわらず、提案者に助言したこと等が問題」との趣旨だったと居直った。

だが、この「問題提起」も間違いだ。補助金申請とは異なり、特区の提案を「選定」することはない。提案者に助言するのは特区WG委員の任務だ。私や特区関係者がいくら説明しても、毎日新聞も野党議員たちも聞く耳を持たなかった。

ところが、思わぬ形で決着がついた。今回の判決で、裁判所が政府の公式資料などに基づき、「特区WGが提案を選定する権限があるものとは認められない」と判断を下したのだ。

東京地裁判決(抜粋)

通常、こんなことは訴訟では争えない。「特区制度を誤解している」といっても、それ自体は名誉棄損にあたらないからだ。ところが、今回の事案ではたまたま篠原議員側が、自らの記事が真実だった根拠として「特区WGは選定する立場」と主張していて、裁判所がこの点も判断を下した。

おかげで、これまでのマスコミ・野党の疑惑追及が根底から間違いだった、と明らかになってしまった。制度の基本的な誤解に基づく空想の産物だったわけだ。

これは、篠原議員以上に、毎日新聞にとって衝撃的な判決だと思う。毎日新聞は2019年6月上旬から1か月の間、私の疑惑に関する大キャンペーンを展開した。1面掲載が7日、それ以外も含め11回の記事掲載があった。一貫して「特区WGは提案を選定する立場」というのが大前提だった。

  • 最初の記事だった6月11日の1面リード文では、「原氏は提案を審査・選定する民間委員だが・・・」として疑惑報道を展開、
  • 6月12日には「国家戦略特区」の用語説明で「ワーキンググループが審査、絞り込みを行い」と解説、
  • キャンペーンの中締めだったのか、7月7日には3面をほぼ全面使って、「選ぶ側、提案者に指南」との見出しで、「提案を選定する側のWG」の問題を大いに論じた。

すべて、根底から間違いだった、ということだ。

幸いにして、今回の判決は、多くのメディアで報じていただいている。産経新聞、読売新聞、NHK、時事通信、共同通信、ロイター、東京新聞、信濃毎日新聞などなどだ。

だが、その中で、毎日新聞はいまだに報じていない。これは容認できない。

自社の一大キャンペーンが、判決で土台から否定された。報道機関の責任として、その事実は報じなければならないはずだ。「不当判決」だと思うなら、そのうえで論評したらよい。

しかも、判決では、篠原議員が毎日新聞記事を「特段その内容を吟味することもなく、全面的に信頼」したことが「軽率」だったと指摘された。つまり毎日新聞記事を「全面的に信頼」してはいけない、ということだ。他紙の読者以上に、毎日新聞の読者には必ず知らせるべき内容だろう。

判決を報じない毎日新聞の姿勢は、自動車メーカーの「リコール隠し」と同質だ。業種を問わず、製品の欠陥や事故に関する情報の隠蔽は、社会に対する重大な背信行為にあたる。こんな隠蔽を許してはならない。