閣僚が議員であるケースがほとんどの日本と異なり、議員の身分でない米国の閣僚(や政権幹部)は、政権交代などで閣僚を降りると民間に職を求める。今回もペンス前副大統領はヘリテージ財団、ポンペオ前国務長官はハドソン研究所という、共に保守系の有力シンクタンクに迎えられた。
そのヘリテージ財団のメルマガDaily Signal(DS紙)は8日、「ジョージア州投票法と青紫の7州法との比較」と題するフレッド・ルーカスの記事を掲載した。先の大統領選でバイデンが勝利した7つの州の選挙法とジョージア州の今回の新法(「新法」)とを比較して、批判勢力を難じる趣向だ。
先ずはバイデンの地元デラウェア州。バイデンは「新法」を「21世紀のジム・クロウ法」と批判した。「ジム・クロウ」とは19世紀の誇張されたステロタイプな黒人キャラクターで、奴隷の権利を否定した法律の呼称に使われた。バイデンや他の批判者はこれを持ち出し、「新法」が19世紀の人種差別的な選挙法だ、とレッテル貼りする。
デラウェアは目下、期日前の投票所投票は不許可であり、22年から採用予定だそうだ。ジョージア州の共和党ケンプ知事は「(「新法」と)デラウェア州の投票機会を見ると非常に興味深い。大統領はジョージア州ではなく自分の州について心配する必要がある」と皮肉を述べている。
しかもデラウェアが予定している期日前投票期間は10日間で、「新法」の17日より7日も短い。全米の43州が、何らかの形で平均19日間の期日前投票を許可していて、デラウェアは期日前投票を許可する最後の州の1つだそうだ。副大統領候補の討論でペンスの頭に止まった蠅が、バイデンの頭に飛んで行ったということか。
次は民主党クオモ知事のスキャンダルで揺れるニューヨーク州。バイデンは州を特定せず、列を作って投票を待つ者に水を配れないことを「It’s sick(思いやりがない)」と述べた。「新法」が投票所から150フィート以内での、キャンペーン運動者による飲食物の配布を禁止していることへの当て擦りだ。
ところがニューヨーク州も投票所100フィート以内で$1ドル以上の飲食物やタバコなどの提供を禁止している。全米50州でこれらを禁じている州には他にモンタナ州があり、何れも選挙活動を防ぐ目的だ。またニューヨーク州の期日前投票所投票の期間はデラウェアと同じ10日間しかないそうだ。
3つ目はMLBオールスターゲームを引き受けるコロラド州。「新法」に反対するMLBは2日、7月のオールスターゲームをジョージア州アトランタからコロラド州デンバーに移すと発表した。黒人の人口比はアトランタが51%でデンバーは9%だが、「DS紙」に依れば、コロラドの投票法の方が「新法」よりよっぽど厳格らしい。
コロラドは、有権者全員に前もって投票用紙を郵送する形をとるので単純比較はできないが、期日前投票期間は15日で「新法」より2日短い。また初めて投票用紙を郵送する者には、「投票用紙の返送時に身分証明書のコピー提出」を求めている。
「新法」は郵送またはドロップボックスによって不在者投票をする者に、運転免許証番号か、社会保障番号の下4桁か、または署名の確認の代わりに別の形式の身分証明書のいずれかを提示させることを義務付けていて、これも批判の的の一つだが、コロラド州も大同小異ということ。
オールスターはコロラドのクアーズフィールドで行われるが、球場のチケット販売窓口でも写真付きの身分証明書が要るそうだ。共和党ルビオ上院議員は、ジョージアをボイコットするというMLBを偽善者と呼び、MLBが中国共産党と関係があると言われるテンセントと契約を結んだと難じた。
次はニュージャージー 州。18年のジョージア知事選でケンプに敗れた前職の民主党ステイシー・エイブラムスも「新法」を「ジム・クロウ法」と非難したが、彼女は3月に民主党員フィルマーフィー知事が署名した同州の新しい期日前投票法を祝うオンラインスピーチを行った。だが、同州の期日前投票期間は「新法」より9日間も短い。
5番目はロードアイランド州。不在者投票を要求できる期間は、「新法」は投票日の11日前までだが、全米36州は7日以内まで許容される。最も厳しいのがこの州で、21日前までに要求せねばならない。テキサス、アリゾナ、アイダホ、アイオワは「新法」と同じで、ネブラスカは3日前でも良いそうだ。
次はミネソタ州。同州は元々民主党が強く、レーガンが49州で勝った84年の大統領選でもミネソタだけはモンデールを選んだ。が、同州も不在者投票の確認のために運転免許証その他のIDを要求する。それは「新法」の他はオハイオ州とカンザス州だけが要求しているとのこと。
最後の7つ目はスウィングステートの一つウィスコンシン州。ここでは不在者投票の申請書に写真付きの身分証明書情報を含める必要があり、「新法」が運転免許証番号、社会保障番号の下4桁、または別の形式の身分証明書のいずれかを提供する必要があるよりも選択肢が少ない。
同州を含む全米25州は、有権者が登録投票区と異なる投票区で間違って投票した場合、その投票はカウントされない。「新法」は、選挙当局が有権者に正しい投票区に移動して投票するように指示し、間違った投票所から移動してきた場合、投票終了時間から2時間以内ならその投票を受け容れるとのこと。
こう見ると「新法」が、バイデンや民主党などから非難を浴びるような差別的な内容を含んでいるとは思われない。が、Black Voters Matterの責任者クリフ・オルブライトは、「我々が先の選挙に勝ったのは、有権者の抑圧がなかったからでなく、それを組織化できたからだ」とし、「(「新法は」)影響がある。問題は我々がその影響を克服できるかどうかだ」と述べている(アトランタジャーナル憲法)。
加えて、大統領選や1月の上院決選投票では、あたかもトランプに反旗を翻したかのようだったジョージア州のケンプ州知事やラフェンスパーガー州務長官が、今回の「新法」ではトランプに膝を折ったかに見えることも、共和党の分断を望んだ側からすれば「新法」への十分な反対理由になるだろう。
そのトランプが「新法」をどう評価しているかといえば、一部企業が「新法」に対し「目覚めたキャンセルカルチャー」でボイコットしているとして、「その企業の製品をボイコットして逆襲しよう」と、MLB、コカ・コーラ、デルタ航空、JPモルガン、シティ、シスコ、UPS、メルクなどを名指で非難している。
トランプは、極左民主党員は長年、その企業が何かされたり、彼らを怒らせるような発言をしたりした時、製品をボイコットする汚い行為をしてきたが、ついに共和党と保守派が反撃する時が来た。彼らよりもはるかに多くの人々がいる、彼らが許しを請うまで彼らの製品に戻らないで、と意気軒高だ。
ジョージア・スターニュース*は8日、先の大統領選で130万票が不在者投票として投じられ、内70万件が郵送、60万件が推定300個のドロップボックスから選挙労働者に回収された。が、後者の内355千人分の保管記録がないと報じた。やはり「新法」は公正な選挙に必要なようだ。