選択式週休3日制の企業が優秀な社員を採用できる理由

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

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選択式週休3日制の導入が話題になっている。ネットでは「休日を増やすより、給与を増やす政策を考えろ!」など反発の声も見られる一方で、「ありだと思う。ぜひ導入してほしい」という支持の声も見られた。

筆者は、この制度は可及的速やかに導入を検討するべきだと感じる。選択式週休3日制を導入することで、メリットを享受できるのは従業員側だけでない。企業側もだ。「選択式」なのだから、特に大きなデメリットはないはずだ。

なぜ、本制度の導入と、優秀な人材の雇用に関係があるのだろうか?その論拠を下記の通り展開したい。

選択式週休3日制とは?

これまで企業が正社員を雇って働いてもらう場合、多くの場合は1日8時間を週5日勤務が前提だった。正社員としての立場で企業で働くためには、「スキルや経験はともかく、まずは週5日しっかり勤務できる条件をクリアせよ」という大きなハードルが存在していることを意味する。

だが、本制度が導入されることによって、このハードルが多少なりとも軟化することになる。ワークスタイルを次の3つのパターンから選べるようになるからだ。

  • 変形労働時間制を用いた1日10時間労働を週4日勤務
  • 1日8時間労働で週4日勤務かつ給与水準低下
  • 1日8時間労働で週4日勤務かつ給与水準維持

これにより、従来の正社員採用の敷居は多少下がると感じられるだろう。

正社員で働けない優秀な人材がいる

家庭の事情などにより、働きたくても正社員枠で働けない人材が労働市場に確かに存在する。そしてその中には、極めて能力が高くて優秀な人材も少なくない。

その筆頭はビジネスの能力が高い、子持ちの女性だ。時間的制約により、フルタイム勤務の正社員を断念せざるを得ず、せっかくのスキルや経験を活かせない女性は少なくない。こうした事情で止むを得ず、「(経済学的な意味合いでの)付加価値の低い単純労働」に就くしかない能力の高い女性も多かっただろう。これは女性の所得が低くなるだけでなく、日本経済全体で見た場合での、労働力低下にもつながる由々しき問題だ。

本人にとっても、それから社会全体にとっても、能力や意欲が高い人はそれに見合う高度な職業に就き、能力を存分に発揮できるべきだ。それ故に、この問題は企業や個々人の努力というより、社会問題として国や社会として取り組むべき課題であろう。

時短勤務者ほど労働生産性は高くなる

さて、ここからは統計データではなく、あくまで自社での個人的事例で恐縮なのだが、具体例を取り上げたい。

これまでそれなりに人材採用をしてきた立場で言えば、「8時間週5勤務ができない女性」の中には驚くほど優秀な人材は少なくないと感じる。自社で採用した女性社員は「同僚に迷惑をかけないように」と勤務中は業務の流れを止めないようにせっせと働き、時間になればサッと帰っていく。物理的な実労働時間は8時間勤務者より短いかもしれないが、労働生産性は極めて高い。時間が限られているが故に、常にタイムリミットを意識し、ムダを廃して効率的に仕事に取り組むのであろう。

彼女たちはとても忙しそうだが、退勤時は「今日も一日忙しかったが、やりたいことは全部できてよかった!」と充実感のある嬉しそうな顔で帰っていく。弊社では正社員でも、日数も時間も完全自由なシフト勤務制にしている。時短勤務や家族イベントなどの日は、午前中だけ働いて帰っても良い。それでもしっかりボーナスを出し、正社員雇用をしている。それにより、「子供と一緒の時間を持ちたい自分には、正社員は不可能だと思っていた。けど、自由に働きつつ、正社員の立場になれるのは嬉しい」と言ってもらい、労働意欲や向上心はあるが、時間の制約が厳しい人材の確保に成功している。

ありがたいことに今のところ、このやり方で正社員もアルバイト、パートも誰一人退職しない。融通がきくワークスタイルに満足しているのだろう。ちなみに弊社では8時間週5勤務ができない、2人子育て中の女性を現場責任者にした。シンプルに能力が高いからだ。そして今のところ極めて順調に機能している。

残業代目当ての社員を雇用するリスク

「女性を採用すると、出産退職されるリスクがある」と女性の採用を、経営におけるリスク因子と見る人もいる。確かに腰掛け気分で入社する人も、一部には存在する可能性は否定しないが、大多数の女性はそうではない。もとい、筆者が東京で正社員をしていた頃は「残業代目当てで、毎日ダラダラ働く社員こそが会社にとっての最大のリスク因子では?」と感じていた。

「残業代が出なければ家族を支えられない」「休日に家にいると、家族から煙たがられる」こうした事情で、できるだけ会社で過ごす会社員をそこそこ見てきた。高給を支払えない企業の収益性については、別の議論が必要だろう。だが、利潤を追求する会社経営者の立場で言えば、これはありがたくない状況であることは間違いない。ムダな残業代を支払うことが続けば、企業の収益性がますます損なわれてしまうからだ。働く側も残業ありきなので、労働生産性も、何より意欲も低いままだ。

選択式週休3日制で優秀な人材を確保できる

選択式週休3日制を導入すれば、「8時間週5勤務できない優秀な人材」を正社員として採用することができる。やってくるのは「子育て中の女性」や「正社員で給与を得ながら、副業に勤しみたい人物」など、従来の企業経営者であれば敬遠したくなる人材なのかもしれない。

だが、今の時代は終身雇用制度が崩壊し、ワークスタイルはあまりにも多様化している。上述の通り、個人的には時短勤務者ほど労働生産性が高いと感じるし、副業を頑張るような従業員は、社外の新鮮な視点を持ち込んでくれることが期待できると考えている。

選択式週休3日制の導入によって、これまで可視化されなかった労働市場に新たな優秀な人材が入ってくることを期待したい。時代は変化している。正社員のワークスタイルも、より柔軟であるべきだろう。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。