バイデン政権の予算教書、コロナ・格差是正・半導体を軸に非防衛費大幅増

バイデン大統領は4月9日、2022会計年度(21年10月~22年9月)の予算教書を公表し1兆5,200億ドル(約166兆7000億円)を要求しました。

バイデン米大統領 Wikipediaより

事前報道通り裁量的経費のみで構され、3月末に発表したインフラ計画は含まれていません。とはいえ、インフラ計画はバイデン氏が20年11月3日の大統領選後に行った勝利演説そのままに①新型コロナウイルス対策、②経済再生、③人種問題、④気候変動――が基盤となっており、予算教書もその流れを汲むため、親和性が高い内容となっています。

裁量的支出の柱は、以下の通りです。

・公共衛生への投資
・あらゆる人々のための経済創造
・気候変動対策
・公正性の推進
・米国の国際的立場の回復と21世紀の安全保障へ向けた挑戦への対応

トランプ前政権時代の2021年度案と180度転換し、非防衛費は前年比15.9%増の7,694億ドルと大幅増となりました。逆に防衛費は、同1.7%増の7,530億ドルと微増にとどまります。

bp

チャート:2022年度の予算教書、裁量的支出の全容 作成:My Big Apple NY

前年同から大幅増となった順に、概要をみてみましょう。

〇教育省→40.8%増
・初等中等教育法の第1編に関連する補助金で、貧困層家庭の生徒の比率が高い学校に配分される補助金を2倍引き上げ365億ドル(ただし、選挙公約では3倍)
・連邦政府が支出する大学生向けの返還不要の奨学金”Pell Grants”の予算を1人当たり400ドル引き上げ最大で6,495ドル

〇商務省→27.8%増
・NOAAの気候変動問題研究の予算引き上げ
・半導体関連のサプライチェーン強化

〇保険福祉省→23.1%増
・コロナ対応として、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の予算を過去20年間で最も大幅に引き上げ83億ドル
・オピオイド対策の予算を39億ドル引き上げ107億ドル

〇内務省→16.3%増
・部族保護プログラムの予算を6億ドル引き上げ40億ドル
・地質調査の予算を2億ドル引き上げ5.5憶ドル

〇農務省→16%増
・地方のブロードバンドアクセスの拡充や飲料水の安全確保、廃棄ガス田への対応
・食料補助プログラムの予算を10億ドル引き上げ

〇住宅都市開発省→15.1%増
・貧困20万世帯向け支援として、公共住宅補助金枠を54億ドル引き上げ304億ドル
・ホームレス予防削減策を5億ドル引き上げ35億ドル
・中低所得者層向けの住宅支援の予算を5億ドル引き上げ19億ドル

〇運輸省→14.3%増
・低炭素旅客鉄道の建設に向け補助金6.25億ドル
・アムトラック向け予算を35%引き上げ27億ドル

〇労働省→14.0%増
・労働保護部門の予算を3.0億ドル引き上げ21億ドル
・職業訓練制度の予算を50%引き上げ1億ドル

〇国務省→11.9%増
・新興国、発展途上国への炭素排出量削減支援に12億ドル
・移民流入対策向け中米支援に8.61億ドル
・世界的な公共衛生の取り組みに10億ドル

〇財務省→10.6%増
・富裕層、並びに大手企業への監査強化
・金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)の予算を1.91億ドル引き上げ6,400万ドル

〇エネルギー省→10.2%増
・次世代型の原子炉開発、電気自動車、その他再生可能エネルギー代替に80億ドル
・政府の研究開発支援向け予算を4億ドル引き上げ74億ドル

〇退役軍人省→8.2%増
・自殺予防プログラム、ホームレスの退役軍人支援の予算を引き上げ
・PTSD関連などの研究向け予算を12%引き上げ9億ドル

〇司法省→5.3%増
・銃犯罪防止に21億ドル
・公民権部門や地域社会サービスの裁量的支出を3,300万ドル引き上げ2億ドル
・国内テロ対策に1.01億ドル、約半分はFBIに割り当て

〇国防総省→1.6%増
・中国を念頭に海軍の軍備強化
・核抑止力の維持
・環境配慮型の軍事施設の建設

〇国土安全保障省→0.2%増
・サイバーセキュリティ対策予算を1.1億ドル引き上げ21億ドル

問題は米議会の対応ですが、防衛タカ派・財政タカ派以外は概ね歓迎している様子。民主党指導部が財政調整措置の活用に青信号を点灯させインフラ計画成立の芽が伸びつつある状況下、予算教書から逸脱した予算となる可能性は低いでしょう。

個人的には、金融犯罪取締強化向け予算を引き上げた点が印象に残りました。明確化されていませんが、ビットコインなど暗号資産の取締強化が念頭に入っているか注目しているためです。FinCENはトランプ前政権から、暗号資産の取引所に本人確認義務(KYC)を義務化する案を検討、2020年12月時点で取引所やユーザーからの猛反対で退けられました。その傍らで4月14日、交換業者コインベース・グローバルがナスダックに新規株式公開(IPO)を果たします。仮想通貨が着実に浸透するなか、ビッコインに対し「極めて投機的」と警告したイエレン財務長官率いる当局は、包囲網を狭めるのでしょうか。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年4月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。