LGBT活動家の主張を鵜呑みにする報道は公共的か

松浦 大悟

同性婚訴訟札幌地裁判決についてメディアは軒並み「同性婚を認めないのは違憲」との見出しで伝えたが、これは極めて誤報に近い。判決文にはそんなことは一言も書かれていないからだ。

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この裁判での原告側の主張は、「現行憲法においても同性婚は認められているのだから、民法や戸籍法にその規定がないのは憲法違反だ」というものだった。ところが武部知子裁判長は、粛々とこれを退けた。以下、要約してみよう。

  • 憲法24条は異性婚について定めたものであり、同性婚については管轄外。
  • 憲法13条は包括的な人権規定であり、ここから同性婚という制度を導き出すことはできない。
  • ただし、異性婚で生じる法的効果の一部さえも同性愛カップルは享受できておらず、平等性の観点からさすがにこれは憲法14条違反に当たる。

つまり武部裁判長は、同性婚制度そのものが存在しないことが違憲だと言っているわけではなく、異性愛カップルであれば婚姻することで受けられる法的利益を立法府が一切提供していないことが問題だと述べているのだ。自らも弁護士である自民党の稲田朋美氏も3月26日の朝日新聞のインタビューで同じような見解を示している。たとえば異性愛者の場合、入籍していなくても事実婚として多くの権利が認められる。同性愛者についてもそうした何らかの手立てを考えなさいと司法は勧告したのである。

さて、世界を見渡せば、同性愛者への法的保障を担保する方法は複数あることがわかる。フランスではPACS(パックス)という民事連帯契約が人気だ。これは結婚に準じる制度で、手続きが簡単なことを特徴とする。

よく渋谷区などの地方自治体で施行している同性パートナーシップ条例と似たものだと誤解されるのだがそうではない。地方自治体の同性パートナーシップ条例を利用している同性愛カップルは現在全国で約1500組。LGBT人口は1000万人いるにもかかわらず、なぜこんなに少ないのか。

それは、当事者にとって使い勝手が悪いからだ。その理由は、この制度を使うためにはカミングアウトをすることが前提条件となるからである。会社の福利厚生を申請する場合も、不動産屋で家を借りる場合も、自治体が発行する証明書を見せればトラブルを回避できるという触れ込みだが、こうした行為は自動的に広範囲のカミングアウトを伴う。日本のLGBTの90%以上はカミングアウトをしていない人たちだと言われており、彼らにとってはハードルが高い。

カミングアウトをしないのは差別を恐れているからというよりも、生活のすべての場面で自分のセクシュアリティについて説明しなければならないことのわずらわしさと関係している。善意の第三者に根掘り葉掘り聞かれることが「ウザい」のだ。仕事をフェアに評価してもらいたいのに、LGBTということで「上げ底」されることへの居心地の悪さを感じている当事者もいる。実は24時間365日カミングアウトをしている人はそんなに多くなく、性的マイノリティはTPOに応じてカミングアウトをしている。母親や姉にはカミングアウトをしていても父親にはしていなかったり、会社ではカミングアウトをしていても町内会ではしていなかったりなど、その分布図はまだら模様になっているのだ。

地方議員の皆さんにお願いしたいのは、どうして同性パートナーシップ条例が当事者に活用されないのか徹底的に行政レビューをやってほしいということ。おそらく地方自治体はLGBTのニーズがつかみ切れていない。

その点、フランスのPACSは、こうした問題点を回避する工夫が感じられる。同性愛カップル、異性愛カップルのみならず、異性愛者の男性と男性、女性と女性も登録できるので、この制度を利用することがカミングアウトに直結しないのである。

また、イギリスでは、兄弟パートナーシップ制度、姉妹パートナーシップ制度を作ろうと保守議員が呼びかけている。これは兄弟、姉妹のセックスを容認するという話ではなく、福祉政策として出てきたアイデアだ。離婚したシングルマザーの姉が仕事で生計を立てるために妹が子育てや家事に専念するケースなどをイメージしてもらえればわかりやすいだろう。これからますます「おひとりさまの老後」は増える。孤独死、孤立死が問題となっているが、先進国はどこも財政難でありすべてをカバーしきれない。誰も置いてきぼりにしない仕組み、同性愛者に限定しない身近な人たちが支えあえる仕組みを作ろうと各国は試行錯誤しているのだ。

ところで、アメリカの憲法学者キャス・サンスティーン氏は、リバタリアンの立場から婚姻登録を国家から切り離し、民間で承認組織をつくる「結婚制度の民営化」を提唱している。宗教に限らず、多様化した現代における結婚の価値観は各人違う。よって政府は個人間の契約の確認のみを行うというものだ。

さらに異なる観点からの問題提起もある。憲法24条削除論だ。憲法24条はGHQのベアテ・シロタ・ゴードン氏が作成したものであり、戦後も日本に根強く残っていた「イエ」同士の結婚を強く否定するというのが主題であったわけだから、もはや時代の役割を終えている。これを取り除くことで、同性愛カップルと異性愛カップルの権利を同等のものにするという企図だ。

いかがだっただろうか。筆者自身は「あえてする改憲」で憲法秩序の中に同性婚を設計し直すべきだと思っているが、それとは別に、このような数多ある選択肢を提示しない報道の姿はあまりにも不自然だと言わざるを得ない。まるで国民に知られたくないかのようではないか。マスコミは、わが国にとっての最適解を議論する材料を国民に提供する役割があると思う。まずはすべての情報をテーブルの上に乗せるところから始めるべきではないだろうか。

松浦 大悟
元参議院議員。昭和44年生まれ。秋田市在住。神戸学院大卒業後、秋田放送にアナウンサーとして入社。講演会を通して周りにゲイをカミングアウトする。平成18年に秋田放送を退社。19年の参院選で初当選。25年の衆院選で落選。